第12話 新たな姉

 異世界のある場所では……。


 薄暗い部屋の中で2人の人物が会話をしている。


 片方は初老で執事姿の男で、もう片方は仮面を被った人物だった。


 2人は向かい合って立っている。


「我らが従者の1人が倒されました……」


 初老の男は落ち着いた口調で話し始めた。


 そして、男の話を聞いた後、仮面の人物は無言のまま姿を消した。


 男もまた、その場から去っていった。



 ―――それから、数日後。


 俺はいつも通り、大学に向かっていた。


 すると、突然後ろから声をかけられた。声から女性のようだ。


 振り返ると髪はロングで色は黒色、年齢は20歳前後、見た目は、かなり綺麗でスタイルの良い女性である。


 見た目、アジア人でも欧米人でもない顔立ちである。


 彼女は俺の顔を見ると、微笑みながら近づいてくる。


「おはよう」と女性は挨拶してきた。


「ああ……。おはよう……」と少し間の抜けた挨拶をした。


「私は貴方と同じ大学の学生よ」と彼女は自己紹介してきた。


「へぇ……。そうなんだ……」


「うん。よろしくね!」と言って手を差し出してきた。


「こちらこそ……」と言って握手する。


「ところで、あなたの名前は何というの?」


「ああ……。俺は隆司だ!  君の名前は?」


「そう……。私はアイカって言うの。これから、宜しくね!」


「ああ……。こちらこそ、宜しく!」


「それじゃ、またね!」と言ってアイカは去って行った。


「綺麗な人だったな……。一体、誰なんだろ?」と俺は不思議に思いながらも、大学の教室へ向かった。


 講義が終わった後、俺は図書館に来ていた。


 特に調べたい事は無いのだが、暇だったので来てみたのだ。


 本を読んでいると、誰かが俺の隣に座って話しかけてきた。


 隣を見てみると、先程会ったアイカがいた。


「こんにちは」と彼女は笑顔で俺に話し掛けてくる。


「ああ……。さっきはどうも……」と俺は軽く頭を下げて挨拶をした。


「何を調べているの?」


「いや……。何も調べていないよ……」


「ふ~ん……。そうなんだ……」と言うと、アイカは黙り込んだ。


「そういう君は何をしているの?」


「私?  別に何もしていないわ……。ただ、ここに居たかったから居るだけ……」


「そうか……」と俺が言うと、2人の間に沈黙が訪れた。


 しかし、暫くして、再び彼女が口を開く。


「ねぇ……。私の友達になってくれないかな?」


「えっ?  俺が君の友達に?  どうして、俺なんかを……」


「う~ん……。なんとなく……かしら?」


「そっか……」と俺は呟く。内心、俺はドキドキしていた。


「ダメ……なのかな……?」と不安そうな表情をして聞いてくる。


「いや……。そんな事は……。むしろ、こっちからもお願いしたいくらいだよ!」と慌てて俺は答えた。


「良かった……。断られるかと思ったよ……。じゃあ、今から私たちは友達同士だね!」


 と嬉しそうに笑っている。


「ああ……」と俺は照れ臭くなり、視線を逸らす。


「改めて、宜しくね! 隆司君……」と彼女は右手を差し出してきた。


「こちらこそ……」と言いながら、俺は彼女の手を握り返した。


「じゃあ、早速だけど、公園に行こう!」と彼女は言って立ち上がった。


「えっ……?」


「ほら!  早く!」と彼女は俺の手を引いて走り出す。


「お……おい……ちょっと待ってくれよ……」と俺は戸惑いながらも彼女について行く。


 こうして、俺達は2人で公園に出かけた。


 俺とアイカはベンチに座った。


 周りには、なぜか誰もいない。


「ここの景色は良いね……」と言って、アイカは目を細めていた。


 確かにここは静かだし見晴らしも良いので気持ちが良い。


「そうだな……。でも、こんな所に俺を連れてきてよかったのか?」


「うん……。大丈夫だよ! だって、今日は誰にも邪魔されないし……」


「そうか……。まぁ、いいけど」


(もしかしたら、この子は寂しい子なのかもしれない)


 それから、俺達は色々な話をした。


 大学での事や好きな食べ物など他愛のない話ばかりだ。


 一通り話す事が無くなった頃、急にアイカは真剣な顔になる。


 そして、彼女はゆっくりと話し始めた。


「ねぇ……。貴方はこの世界には、存在しない人間と会った事があるんでしょ?」


「えっ!?  なぜ、それを?」


「貴方の反応を見たら分かるよ……。貴方からは不思議な力を感じるもの……」と彼女は不気味に微笑みながら言った。


 その言葉を聞いて俺は確信する。やはり、目の前にいる女性は普通の人ではないようだ。


 今まで感じた事の無いような威圧感を放っている。


「君は一体何者なんだ?」と俺は緊張しながら聞いてみた。


 すると、アイカはクスッと笑う。


「私はね……。貴方の義理の娘の姉なの。」


「ユナの……姉?」


「そう……。私は向こうの世界から来たの」


「マヤ以外にも姉がいたのか?」と俺は混乱している。


「ええ……そうよ」とアイカは答えるがマヤの名を聞いた時、一瞬顔が険しくなった。


「それで、君の目的は一体なんなんだ?」


「目的?  それは、もちろん、貴方の本心を知る事よ……」


「俺の本心だと?」


「そう……。貴方が妹と一緒に暮らしているのなら、その人間がどうゆう人なのかを知りたいの」


「俺の事を疑っているのか?」


「いえ……。そういう訳じゃない……妹の選んだ人間がどんな人物なのか興味があるだけよ」


「そうか……」


「だから、教えてくれない?  貴方の本当の気持ちを……」と彼女は俺を見つめ、直ぐ様右手を俺の心臓に突き刺した。


「グハッ!」と口から呻きが漏れた。しかし、胸からは血は出ていない。


 彼女の手を見ると、俺の胸元から右手がめり込んでいて心臓が掴まれている感じがある。


「これは……?」


「これで、貴方の心を読む事が出来るわ……」


「そうか……。だが、残念だったな……。俺には何も隠す事は無い。君が知りたかった事も全て分かっただろう……」


「へぇ~……。そうみたいね……」と言うと、アイカはニヤリと笑った。


 次の瞬間、彼女は左手で俺の首を掴み持ち上げる。


「うっ……苦しい……」と俺は手首を掴み抵抗するが、全く力が入らない。


 息が出来なくなり、意識が遠退く……。


(このまま、死ぬのか?)と俺は考えていた。


 薄れゆく意識の中、誰かの声が聞こえてきた。


『パパ!』と頭の中で声が響いている。


「あっ……」


 俺は必死になって、アイカの手を振りほどく。


 そして、そのまま地面に倒れ込んだ。


「ゴホッ!  ゲホ!」と咳き込む。


「あら……?  まだ動けるんだ……」とアイカは意外そうな顔をして言った。


「ああ……。お陰さまでね……」


「ふーん……。私の能力から逃れられるなんて……。やっぱり、只者じゃないわ!」とアイカは嬉しそうだ。


「さっきから、何を言っているんだ?」


「えっ?  分からないかな……」


「いや、全然分からん……」と俺は正直に答える。


「そっか……。じゃあ、仕方ないわね……」と言って、彼女は再び俺に近づいてくる。


「じゃあ、もう一度……」と言って、俺の胸に手を伸ばした。


「させるかよ……」と俺は言って、彼女を突き飛ばした。


 アイカは少しよろめいただけで直ぐに体勢を立て直す。


「そう……。まぁ、どっちにしろ、もう逃げられないけどね……」とアイカはニコッと微笑む。


「どうかな……。やってみないと、わからんぞ……」と言いながら、俺はゆっくりと立ち上がった。


(なんとかしないとな……。この状況を切り抜ける方法はあるはずだ)と考えていたその時、


「あれ?…… お姉ちゃん?」という女性の声がした。


「えっ?」と俺は驚いて振り返ると、そこにはユナがいた。


「×○*%△!?」と聞き取れない発音を言い驚きながら、ユナの方を見る。


「どうして、ここにいるの?」とユナは不思議そうにアイカに話しかけた。


「それはこっちのセリフよ……」


 2人はお互いの顔を見て固まっていた。


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