第7話 ストーカー再び

 次の日、美和は大学に来ていた。


 俺は、いつも通り教室で講義を受けていた。


 昼休みになると美和が話しかけてきた。


「昨日の事で聞きたいことがあるんだけど」と美和が真剣な表情で尋ねてきた。


「なんだよ?」


「あの後、大丈夫だった?」と美和が心配そうに聞いてくる。


「ああ、大丈夫だよ。問題ないよ」


「良かった。でも、どうしてあんなに強かったの?」


「それは秘密だ」と言って俺は誤魔化した。


「まあ、いいけど……。じゃあさ、明日一緒に出かけようよ」


「別に構わないよ」


「ありがとう。楽しみにしてるね」と美和は笑顔で言うと、どこかに行ってしまった。


 俺は、その背中を見ながら考えていた。


「やっぱり、俺の能力について話すべきなのか?」と俺は独り言を漏らした。


 その後の講義は上の空で聞いていた。


 家に帰ってからも、俺は悩んでいた。


「どうしようかな」


「そんなに悩むくらいなら話せばいいよ。」


「確かにそうなんだけどさ。」


「能力を隠しながら生活するのは大変なんだよね?」


「そうだな」


「それに、いつかはバレちゃうと思うよ?」


「……わかっている」


「それなら、早めに打ち明けた方がいいんじゃないかな?」


「高次元の異世界の人間から力を与えられたと言っても、到底信じてくれないよな」


「そこは、上手く説明するしかないんじゃない?」


「それでも、なかなか理解して貰えないだろうしなぁ……」


「私は、いつでも協力するからね」


「ありがとな」と俺はお礼を言う。


「ユナの方は図書館での勉強はどうだった?」


「うん、ちゃんと調べてきたよ」


「どんな内容だったんだ?」


「えっとね、この世界の神話とか伝説について書かれてる本を読んできたの」


「それで、何かわかったことはあったか?」


「もしかして、私達の世界の人が古代にこの世界に来ていたら神話の神や悪魔と言われていたかも……」


「どういうことだ?」


「つまりね、昔の世界では神や悪魔として崇められているような存在は、高次元の人間かもしれないってことだよ」


「確かに、そういう可能性もあるのか……」


 俺はユナや、その家族の能力を思い起こし現代であっても神や悪魔として崇められるのは無理もないと思った。


「まあ、あくまで可能性の話だけどね」


「そうだな。とりあえず、明日美和と一緒に出かけるからユナも一緒に来るかい?」


「もちろん行くよ」とユナは嬉しそうに言った。


「ただ美和の前では俺の妹と言う事にしてくれ」


「わかった」


「じゃあ、今日はもう寝るか」と俺は言って布団に入った。


「お休みなさい」


「ああ、お休み」と言って目を閉じた。



 次の日になり、美和と待ち合わせをしている場所に向かった。


 俺が着いた時には既に美和が待っていた。


「悪い、待たせたみたいだな」


「全然待ってないから大丈夫だよ」と美和は微笑みながら言った。


「妹も連れて来たけどいいかな?」


「もちろんいいよ!」


「よし、なら早速行こうか」と俺は歩き出す。


「どこに行くの?」


「まだ決めていないんだ。美和は何がしたい?」


「服を見に行きたい!あと、可愛い小物が売っている店にも行きたいな」


「じゃあ、まずは服屋から行こうか」


「賛成!!」と言って美和は笑っていた。


 それから、俺達は色々な店を回り、買い物を楽しんだ。


 美和は、かなり沢山の荷物を持っていた。


 俺は、「持とうか?」と声をかけたが断られた。


 美和曰く、自分で持ちたいらしい。


 俺は少し残念に思いながら歩いていた。


 すると、後ろから誰かが俺達をつけてている気配を感じた。


(まさか……)と思い俺は振り向くとそこには予想通り尾行している男がいた。


 俺は美和に合図をして走り出した。


「ちょっと、どうしたの!?」と美和は驚いている。


「すまない、説明は後にするよ」


 ユナが「尾行している人がいるみたい。1人だけではない様な……」と言った。


「やっぱり、つけられていたか」


 そして、曲がり角を曲がり人通りがない道に入って男が追いかけてきているのを確認した。


 男はナイフを持っており、今にも襲いかかってきそうな勢いだった。


 男は、すぐに美和の前に立ちナイフを構えた。以前、美和にストーカーをして懲らしめた男だった。


「お前は、なぜ俺達をつけ回す?」


「うるさい!! さっさとそいつから離れろ!!!」と男が怒鳴りつける。


「嫌だと、言ったら?」と俺は挑発する様に言う。


「刺されても知らないぞ?」


「やってみればいい」と俺は言い、ユナが「私がやる?」と聞いてきた。


 俺は首を横に振った。


 ユナではなく俺が対決しないといけないからだ。


「なら、死ね!!!」と男は叫びながら突進してきた。


「危ない!!」と美和が叫ぶ。


 だが、俺はギリギリのところで男の攻撃をかわしてすれ違いざまに腹に一撃を入れた。


「ぐはっ……」と言って男は倒れた。


「これで終わりか?」


「いや……まだだ……」


 男の雰囲気が変わっていった。身体の筋肉が盛り上がってきて、大男に変わった。


「グフフ……」と呻き、目は赤く染まっていった。まるで映画で見た怪物のようだ。


「これは……? ユナ、こいつは何なんだ?」


「恐らくだけど、異世界の人間から力を与えられたみたい。ただ、お父様みたいな力の与え方とは違うよ」とユナは説明した。


「なるほど……」と俺が納得しかけた時、突然「ガアァッ!!」と叫んで襲ってきた。


 俺は咄嵯に攻撃を避けたが、男の拳は地面に当たっていた。


 地面には大きな穴が空いていた。


「もらったら、やばいな」


「一体、これは何なの?」と美和が恐怖しながら言った。


「……信じてもらえないかもしれないが、この力は異世界の人間の力を、こいつに宿らせて暴走させているみたいだ」


「そんなの勝てるの!?」と美和が心配そうに言った。


「大丈夫、俺に任せてくれ。ユナ、美和を頼む」


「わかった!」


 美和は不安そうな顔で俺を見つめている。


「大丈夫だから、安心して待っていてくれ」と俺は美和に笑いかけながら言った。


「うん……」


「じゃあ、行くか」と俺は言って、化け物化した男に向かって歩き出した。


「グルルルルゥ!」と男が威嚇してくる。


 俺はそれを無視して近づき、顔面を思いっきり殴った。


 すると、殴り飛ばされた衝撃により壁にめり込んだ。


「グギャャャ!!」と叫び声をあげる。


 俺はすかさず追撃を加えようとしたその時、男が壁から抜け出し、また俺に攻撃を仕掛けてきた。


 俺はそれをかわす。


「グルルァー!!」と雄たけびを上げながら、俺に襲いかかってくる。


 男は、ひたすら巨大な腕を振り回していた。


「その程度か?」と俺は挑発する。


 すると、男は「ガルァ!!」と叫びながら、突進してきた。


 俺はそれを避ける。


 そして、俺はそのまま男に思いきり蹴りを入れて吹き飛ばした。


「グゲェ!?」と男は声を上げて転がる。


 そして、俺はすぐに追い打ちをかけるために駆け寄った。


 すると、男は立ち上がり再び向かってきた。


「もう、いい加減諦めたらどうだ?」


 男は「グルォォ!!」と叫び、突進してきた。


 そして、俺はそれを避けて、男の腕を掴み投げ飛ばした。


「グアァ!!」と男は叫び、投げられて仰向けになっていた。


「本当にしつこい奴だ。」と俺はため息をつく。


 男はフラつきながらも立ち上がった。


「グルァァ!!」と叫び、今度はパンチを繰り出してくる。


 俺はそれをかわすが、少しかすってしまった。


(うっ……! なんて威力だよ。)と思い、俺は心の中で悪態をついた。


 その後も男は、攻撃をやめなかった。俺は避け続けたが、段々と傷が増えていく。


「はぁはぁ……」と俺は荒い呼吸をしていた。


男は俺が疲れてきているのを感じ取ったのか、「グルルァ!!」と叫び、攻撃を止めて距離を詰めてきた。


そして、男は俺に飛びかかってきた。「くっ……」と俺は呟き、男の攻撃を避けようとしたが間に合わず、男の攻撃をもろに受けてしまった。


俺はダメージを受け倒れ込んだ。


男はニヤリとした表情を浮かべていた。


「くそっ……」と俺は言い、立ち上がる。


「グルルゥ」と男が勝ち誇っている。


俺は男の方を見て、笑みを浮かべた。


「なんだ?  何がおかしい?  お前は勝った気でいるみたいだが、まだ終わっていないぞ?」


「ウガッ?」と男が唸る。


「今から見せてやるよ……」と言い、俺は集中力を高めていった。


「ガアァッ!!」と男が飛びかかるが、俺には当たらない。


俺は男の懐に潜り込み、拳を構える。


「これで終わりだ……」と俺は言い、渾身の一撃を放つ。


「グハッ……」と男が血を吐きながら倒れる。


そして、男の身体が急激にしぼみ始め骨と皮だけのような状態になっていった。


「ふぅ……。終わったな。しかし、なぜこんな状態になったんだ?」


「たぶん、異世界の力が人間に負荷を掛け過ぎたからだと思うよ」


「ふむ……」と俺は納得した。


すると、美和が「大丈夫!?」と言って近づいてきた。


「あぁ、大丈夫だ」


「良かった……。死んじゃうかと思ったよ」と美和は泣きそうな声で言った。


「心配させてごめんな」


「けど、何であの男が怪物みたいな感じになったの?」


「それは……」と俺が説明しようとした時、


「私が説明する」とユナが話し始めた。


「あれは、異世界の力を人に与えた結果、人が怪物化し変化した姿なの」


「なぜ、隆司の妹さんが説明できるの?……異世界の力って何?」と美和が混乱しながら聞いてくる。


「まあ、落ち着け。ちゃんと説明してあげるからさ」と俺は美和を宥める。


「うん……」


「まず、最初に言っておくが、この世界とは違う別の世界があるということを信じてほしい」


「うん……。わかった」と美和は真面目に答える。


「ありがとう。それで、ユナはそこの世界から来た。つまり、俺達とは違う世界の人間ということだ」


「えっと……。私も信じられないんだけど、信じるしかないよね……」と美和はまだ戸惑いながら言っている。


「ああ、信じてくれてありがたい。で、その異世界っていうのは、この世界とは違う高次元の世界でね……。そこの人間は色々な能力を操り身体能力が全然この世界の人間とは違うんだ」


「そうなの!?」


「そうだ。だから、ユナはかなり強い。俺は彼女の父親から能力を与えてもらったんだが、この男みたいになることはない」と俺は身体が萎んだ男を見ながら言った。


「へぇ~。凄いんだね」と美和が感心している。


「あと、異世界の事をあまり他人に言わないようにしてほしい。色々と面倒なことに巻き込まれる可能性があるからな」


「うん。わかった」


「じゃあ、とりあえず、ここから出ようか」


「そうだね」とユナが同意する。


俺達は、出口に向かって歩き出した。


俺達が通りを出ると、そこには警察がいた。どうやら騒ぎを聞きつけて来たようだ。そして、俺達の姿を見た警察は俺達の方に駆け寄ってきた。


「まずい!  警察沙汰になる!  ユナ! 俺達を、ここから逃がしてくれ!」と俺は頼んだ。


「わかった」とユナが言う。


すると、辺りが光に包まれ、俺達は気付いた時には、家の前にいた。


「よしっ……、成功だ」と俺は安堵の息をつく。


「ありがとうな」


「ううん、いいよ」とユナは微笑みながら言った。


「美和、今日は本当にすまなかった」と俺は頭を下げた。


「ううん、気にしないで。また明日大学で会おうね」


「あぁ、それじゃあな」と俺は言い、彼女と別れた。


「ふぅ……。疲れたな……。帰って寝るか……」と言い、俺は自宅に帰った。


俺は自室に戻り、ベッドの上に横になった。


「そういえば……。結局、あいつは何だったんだろうか……」


「ユナ、あの男は誰から力を貰ったんだろうか?」


「わからない……。けど、多分、誰かが異世界の力を与えたんだと思う……」


「ふむ……。なら、まだ終わっていないかもしれないな……」


「どういうこと?」


「まだ、何かあるんじゃないかと思ってな……」


「確かに……。可能性はあるかも……」


「まあ、今は大丈夫だろ……。とりあえず、今は休もう……」と言って俺は眠りについた。

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