第4話 ユナの父来たる

俺は目を開けると見慣れた天井が見える。


「ここは……俺のアパートか?」


身体を起こすとベッドに寝ていたことがわかった。


「目が覚めたみたいね」


横を見るとユナがいた。


彼女は椅子に座っている。


「お前が助けてくれたのか?」


「うん、そうだよ」


「ありがとうな。助かったよ」


「気にしないでいいよ」


「ところで、あれから何があったんだ?」俺は気を失っていた間の事を聞いた。


「あのあと、私はパパを家に運んで治療したんだよ」男から受けた傷は治癒していた。


「そうなのか。それで、あいつは?」


「逃げたよ」


「……そうか」俺は悔しさを噛み締めるように拳を握る。


「それより、本当にごめんなさい」


「どうして謝るんだ?」俺は不思議に思い聞いた。


「だって、私がちゃんとしていればあんな奴に負けなかったし、パパも怪我しなかったかもしれないから」


ユナの目には涙が溜まっていた。


「そんなことないぞ。俺の方が弱いんだ。だから、仕方ないさ」


「違うよ! パパは強いもん! 私なんかよりずっと……」


ユナが泣き出してしまった。


「うっ、ひぐっ……」


彼女は手で顔を覆い嗚咽している。


「ほら、泣くなって」


俺はユナを抱き寄せて頭を撫でる。


「もう大丈夫だ。心配かけて悪かったな」


しばらくするとユナが落ち着いたようなので話を続ける。


「そういえば、どうやって家に入ったんだ?」


鍵は閉めておいたはずだ。


「私に鍵は意味がないよ」


「どういうことだ?」


「私達には、この世界の鍵は意味がないってことだよ」


「そうか……」


まぁ、ユナならなんでもありだろうなと思いそれ以上は聞かなかった。


「これからどうしよう?」


ユナが呟くように言った。


「そうだな……。とりあえず、しばらくは様子見でいこうと思う。」


俺は少し考えてから答えた。


「わかった」


ユナは素直に納得してくれたようだ。


そして、ピンポンとインターホンが鳴った。


「誰だ?  こんな時間に……。 」時計を見ると夜の10時を過ぎていた。


「私が出るね」


そう言ってユナが玄関に向かう。


ドアを開けると、そこにはマヤと見知らぬ中年男性が立っていた。


男性はハンサムでダンディな中年でユナ、マヤのようにアジア人でも欧米人でもない顔つきだった。


「こんばんは」と男性は笑顔で言う。


「お父様!」


「お父様??」


「はじめまして、ユナの父です」と男性が再び挨拶をする。


「えっと……」


「お父様、急にどうしたの?」


「実はね、マヤからお前がここにいるという事を聞いて駆けつけたんだ」


「そうなの?」ユナがマヤの方を見る。


「お父様からあなたちにお話があるの」とマヤが答える。


「わかりました。では、リビングに行きましょうか」


そうして俺たちは部屋に入り、ソファーに座る。


「まず、ユナを助けてくれてありがとうございます」


ユナの父は深く頭を下げた。


「いえ、俺は大したことは何もできませんでしたから」


「いや、君は娘を守ってくれた。感謝してもしきれないよ」


「それはお互いさまですよ」と俺も返す。


それから、2人でしばらく笑いあった後、本題に入ることになった。


ユナの父親は真剣な表情で語り始めた。


「君は、なぜ私がここに来たか知りたいかな?」俺は黙って肯く。


「なぜ、ユナが君を父親として慕っているのか分かるかな?」


「いえ、分かりません」


「それは私がユナをあの卵に封印していたからだ」


「!?」


「我が一族が敵から襲撃されていると事はマヤから聞いていると思うが、ユナがこの世界に興味を持ってしまってね。私は娘を危険から防ぐため封印したんだ」


「それがどうして、俺をお父さんと呼ぶことに?」


「どうやら、自分の力で封印を解いた反動で、最初に見た君をこの世界の親として認識してしまった様だ」


「そういうことだったんですか」


「ああ、だが安心してくれ。私は君の味方だからね」


「ありがとうございます」


「それで、お願いしたい事があるのだが、いいかね?」


「なんでしょうか?」


俺は緊張しながら聞いた。


「ユナは、この世界での生活の仕方を知らない。そこで、君が色々と教えてあげて欲しいのだ」


「わかりました。引き受けます」俺は即答した。


「それと今日敵の襲撃を受けてユナがなんとか撃退したが君は瀕死のダメージを受けたみたいだが?」ユナの父は今日の出来事を把握しているみたいだ。


「……はい」俺は隠す必要もないと思い肯定する。


「そこで、君に私から簡単にはやられないように力を授けたいのだが」とユナの父は考え込むように言った。


「力を授ける? どういうことですか?」


「私達の世界からの敵を撃退するだけの力は、さすがに人間には無理だが敵から操られた人間からは負けないようにするぐらいの力は与えることが出来る。あと我々の世界は、この世界より高次元の世界であるため人の強さの比が違うのだ」ユナの父が立て続けに答える。


「なるほど……」


「それって、どんな力なんですか?」


「身体能力の強化だ。筋力とか反射神経が数倍になるはずだ」


「そんな力が……」


「だから、君の手を差し出してくれないか?私の力でパワーアップさせるから」


そう言ってユナの父は手を出す。


「はい……」


俺は躊躇いながらも手を握り返した。


すると、全身に電気が流れるような感覚が襲う。


「うっ!」


「これで、君は普通の人よりも何倍も強くなったはず」


「はい……」俺は返事をするのもやっとだった。


「これからは、いつでも娘の事を守ってくれるかい?」


ユナの父親が真剣な眼差しで俺を見つめてくる。


俺はユナの方を見た。


ユナは無言のままコクリと肯いた。


「わかりました」


「では、そろそろ帰ろうか」とユナの父が立ち上がる。


「お父様、もう帰るの?」


「ああ、あまり長くいても迷惑だろうからね。そして時々は家に帰ってきなさい」ユナの父は優しい声で答える。


「うん! いつか帰るから!」


「お父様もお姉ちゃんもバイバイ!!」


「じゃあ、またね」とマヤも微笑みながら返す。


そうして、ユナの父親達は部屋から一瞬のうちに消えた。


「行っちゃったね……」


「そうだな」


「ねえ、パパ……」


「なんだ?」


「ユナの事、守ってくれる?」とユナが上目遣いに聞いてくる。


「当たり前だろ。お前を守るよ。でも相手が異世界の奴ならユナに守ってもらうかも」


「わかった!! ユナ頑張るね!」とユナが満面の笑みを浮かべて答えた。


こうして俺とユナの絆は深まったのであった。


俺はユナとの約束通り、ユナを守るために強くなることを誓ったのである。


だが、俺はユナの本当の父親ではない。


それは分かっていたが、俺にとってはこの世界で出来た家族であり、大切な存在になっていた。


だから俺は守るんだ……。

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