第3話 異世界からの襲撃者

 翌朝、俺が目を覚ますとユナが隣にいた。


「おはよう、パパ!」


「あ、ああ、おはよう……」


 元気な挨拶に戸惑いつつ、俺も彼女に朝の挨拶をした。


 それから少しの間、2人で話していたが、俺は昨日の出来事を思い出してユナに質問する。


「お前達を襲おうとしている奴らは、こちらの世界に来ているのか?」


「うん。お姉ちゃんはそう言ってたよ」


 ユナは真剣な表情で答える。俺は続けて質問した。


「その目的は何だと思う?」


 ユナはしばらく考えた後に答える。


「うーん、分からない。でも、きっと何か良くないことが起きると思うよ」


「確かにそうかもしれない。だが、俺たちは出来る限りのことをしよう」


「……ありがとう」


 ユナは嬉しそうに微笑む。


 俺はユナの笑顔を見て少しだけ心が軽くなった気がした。


「よし、今日も頑張るか!」


「うん!」


 こうして、俺とユナの長い一日が始まった。


 俺がユナを連れて街を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「あれ、隆司じゃない」


 振り返るとそこには黒崎美和がいた。大学の女友達で髪はボブ。美人で身体つきもいいが気が強いのが難点だ。


「おお、美和か! 久しぶりだな」


 俺がそう答えると彼女は不思議そうな顔をする。


「あんたに、とっても可愛い彼女がいたの?」


「彼女じゃないよ! 娘だよ!」咄嗟にユナが答える。


「え!? この子あんたの子供なの?」


「いや違う! こいつは俺の妹だ!」ユナの口を手で塞ぎながら答える。


「ふーん、妹さんなんだ。その割には全然似てないわね」と言って明らかに疑いの眼で見る。


「……実は親が再婚したんだ……」咄嗟に嘘を付く。


「ふぅ~ん」と彼女はまだ疑っているようだ。


 するとユナは俺の手を振りほどいて言った。


「私はユナって言います! よろしくお願いします!」


 彼女はそう言って頭を下げる。


「あ、はい。こちらこそよろしく」と美和は戸惑っていた。


 俺はユナの手を掴んで歩き出す。


「それじゃあな、美和」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」


 俺は足を止めて振り返る。


「なんだ?」


 彼女は少し迷ったような素振りを見せた後、口を開いた。


「いや、なんでもないわ……」


 そして彼女は去っていった。


「危なかったね」


「何がだ?」と聞くとユナは少し困った顔で答えた。


「あの人、多分私たちのこと怪しんでたよ」


「やっぱりそう思うか……」


 俺は頭を悩ませる。どうすればいいのだろうか?


「大丈夫。何とかなるよ」


「……そうだな」と俺は苦笑いを浮かべた。


「それより早く行こう!」


「ああ、そうだな」


 2人は手を取り合って歩いていく。


「なあ、ユナ」


「何?」


「何で、この世界に来たんだ?」俺は前から思っていたことを聞いた。


「それはね、私にも分からない。でも、パパと一緒に居たかったんだよ」


「そっか……」


 俺は彼女の頭を撫でてやる。


 彼女は気持ち良さそうな顔になる。


 しばらく歩いていると、突然目の前に白い空間が現れた。


「これは……」


 俺は思わず立ち止まる。


「パパ……」とユナが不安そうにしているので俺は彼女を抱きしめる。


「安心しろ、絶対に守ってみせる」


 俺は覚悟を決めて、その真っ白な世界に足を踏み入れた。



「ここは……どこだ?」俺は辺りを見回す。


 しかし、何も見えない。


「パパ、上を見て!」


 ユナの言葉に従って空を見るとそこには空中に浮かんでいる人の姿があった。


「やあ、よく来ましたね」


 現れたのは整った容姿の男だった。


 服装はスーツだ。年齢は30代前半といったところだろう。


 彼は不敵な笑みを浮かべている。


「お前は誰だ?」俺は警戒しながら質問する。


「私は、その娘と同じ世界から来た者ですよ」


「……目的はなんだ?」


「そんなに怖い顔をしないでください。あなた達に直接危害を加えるつもりはありませんよ」


「信じられないな……」


「まぁ、そうでしょうね」男は肩をすくめる。


「それで、一体何をするつもりだ?」


「簡単なことです。その娘を私に渡してもらえませんか?」


「……断ると言ったら?」


「別に構いませんよ。力ずくで奪うだけですから」


 そう言って男は右手を俺の方へ向ける。


 すると、俺の周りに光の球が現れる。


「っ!?」


 俺は咄嵯に飛び退くが遅かった。


 光に触れた瞬間、全身に強い痛みが走る。


「ぐあっ!」俺は地面に倒れる。


 見ると服はボロボロになっており身体中血まみれになっていた。


「パパ!」


 ユナが駆け寄ってくる。


「来るな! 逃げろ!!」


「嫌だよ! パパを置いて逃げるなんて出来ない!」


 彼女は泣きそうな声で叫ぶ。


 俺は必死に起き上がろうとするが身体中に力が入らない。


「無駄です。人間では私には勝てない」


 男がゆっくりと近づいてくる。


 ユナが男の前に立つ。


「やめてくれ! その子に危害を加えるな!」


「ダメです。私の邪魔をするなら容赦しません」


 言った次の瞬間ユナが男を吹き飛ばした。


「がはっ!」


「パパに手を出す奴は許さない!」ユナは怒りの形相で男を見る。


「……ふふ、さすが○×△◆%*の娘ですね」


 男は口から血を流しながら立ち上がる。


「……なんで、その名前を知ってるの?」


 ユナの顔色が一瞬にして変わる。


「やはり、あの方の言った通りでしたね」


 男は不敵に笑う。


「あの方って誰?」


「それは秘密ですよ」


「……そう」


 ユナの雰囲気が変わる。


 そして、彼女は静かに口を開く。


「ねえ、1つだけ教えてあげる」


「ほう? 何かな?」


「パパを傷つけた罰はとってもらうよ」


「くっくっく、面白い。やってみなさい!」


 男の手に光球が集まる。


「死ねぇぇ!」


 無数の光が放たれる。


 ユナはそれを軽々と避けていく。


「なっ!」


 男は驚愕しているようだ。


「遅いよ」


 ユナの動きはさらに加速していく。


「この程度で終わりじゃないよね?」とユナは挑発するように言う。


「調子に乗るな! 小娘め!」


 さらに攻撃が激しくなる。


「へえ、すごいね〜。でも、まだまだかな?」ユナはその全てを捌き切る。


「なぜだ? なぜ当たらない……」


 男は焦っているようだった。


「そろそろ終わらせるよ」


 ユナが動きを止める。


「パパを傷つけた罰を受けてもらうわ」


 彼女の体から巨大な妖気を感じる。


 妖気が一気に膨れ上がり、彼女に収束されていく。


「これはまずいですね……」


 男は冷や汗を流す。先ほどまでとは違い余裕がないように見える。


「これでおしまいね」


 ユナの手から凄まじい妖気の奔流が蛇のように男に襲いかかる。


「くっ……」


 男は回避しようとしたが間に合わず、直撃する。


 辺りに轟音が鳴り響く。


 砂煙でよく見えない。


 しばらくして、砂煙が晴れるとそこにはユナだけがいた。


「逃げられたわ……」


「そうか……」俺は倒れたままなんとか答える。


 どうやら、血が出すぎたようで意識が朦朧としてきた。


「大丈夫?」


 俺は駆け寄ってくるユナが天使のように見えながら意識を失いかけていた。


「パパー!」という声を聞きながら俺は深い闇に落ちていった。

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