第3話 愛は地球を救う!
重力少女のいる何気ない朝。俺はいつも通り出勤する。
「仕事に行ってくるから、大人しくしてろよ」
「はーい! いってらっしゃい、あ・な・た」
「なんだよ、それ。まあいいや。行ってくるよ」
俺は普段通り出勤して仕事をしていた。しかし、午後になり普通ではない出来事が発生する。突然、俺以外の全ての動きが遅くなったのだ。
パソコンに表示されている時計を見ると、進みが遅くなっている。
「あ、この現象は! あいつに何か起こったのか!」
重力少女が現れた初日におきた時間の流れが遅くなるという現象だ。
とても気になるが、無断で帰るわけにもいかない。時間の流れが遅いのでより一層もどかしい。どうして良いのか分からないので、俺はあまり動かず静かにしていた。
少しすると、時間の流れが元に戻っていった。
「一体、何があったんだ……」
定時になり、俺は慌てて会社を出る。帰宅してすぐに家の中の様子を確認するが、目立った変化は見当たらない。
問題の重力少女は、リビングにあるソファーにちょこんと座っている。そして、何か言いたそうにモジモジしていた。
「昼間、何かあった? 時間の流れが遅くなってたけど」
「あ、あの。えっと、お兄ちゃん……ごめんなさい! これ……」
そう言って壊れたプラモを差し出してきた。
「あーーーー、俺の力作が!!!」
俺が3ヶ月かけて作ったプラモが見るも無残な姿になっている。
「お前、何してくれてんの?!」
「ごめんなさい。お掃除をしてたら、ぶつかって倒した上に踏みつけちゃって」
「はぁぁぁ?! 余計なとこまで掃除して俺の力作を! 触るなって言ったろ。お前、この頃、ちょっと調子に乗ってるだろ!」
俺はカッとなり勢いで酷いことを言ってしまう。重力少女は俺の剣幕に驚き、下を向いてしまった。
時間の流れがどんどん遅くなり、ついにはほぼ止まってしまう。全く時計が進んでいない。
「ちょ、お前……」
重力少女が俺の方を見た。目が真っ赤で今にも泣き出しそうだ。
時間が完全に止まるというのは初めてだが、相当マズイのではないか。
重力少女は、大泣きしてブラックホールを発生させて惑星を消滅させたとか言っていた。
それが事実だとしたら、俺が3ヶ月かけて作ったプラモが壊れたせいで、46億年かけて作った今の地球が消滅してしまうということか?!
それはダメだろ。
そもそも俺が大人気なさ過ぎた。重力少女も俺のために掃除をしてくれただけで悪気があったわけではない。
泣かないようにフォローをしなければ!
「ごめん、言い過ぎだ。プラモはいいよ、また作ればいいから。掃除してくれて、ありがとな」
「お兄ちゃん、ごめんなさい。その変なものを壊しちゃって」
「変なものじゃないけどな。次からは気をつけてくれよ」
「はい。お兄ちゃん、ごめんなさい……」
重力少女は泣き出さないようにグッと我慢するようにまた下を向いてしまったが、ひとまず時間は流れ始めた。
これでプラモが壊れたせいで地球が消滅してしまうという危機は去ったのだろうか。
◇
俺は、この一件で重力少女が宇宙人で惑星を消滅させる力を持っていることを思い出した。見た目と普段の行動からは分かりづらいが、ヤバい宇宙人に間違いない。
俺は冷静になり、重力少女に確認してみた。
「さっきの状態はなに? 時間が完全に止まっていたの?」
「うん、事象の地平線。時間が止まった世界」
やはり俺たち2人以外の時間は止まっているのか。そうすると、その先はブラックホール? 怖いが、確認しておかないと。
「その先はブラックホールってこと?」
「……うん」
やはり大泣きさせたらアウトなのか。つまりは俺のせいで地球を消滅させてしまうこともあるということか。
その日は2人で黙って夕飯を食べて早めに就寝した。
◇
翌日、俺は普段通り出勤したが、仕事も何も手に付かなかった。
俺は重力少女をいつまでも我が家においていてはいけないと考えていた。
重力少女は俺みたいな庶民の手には負えない。
宇宙人の相談をどこに言えばいいのかは分からないが、公的機関に任せるしかない。
きちんと重力少女に話せば分かってくれるに違いない。
俺はそう考えた。
帰宅してすぐ重力少女に声をかける。
「ちょっと話がある」
「お兄ちゃん、なに? 唐揚げ冷めちゃうよ」
重力少女は昨日のことなど気にしておらず、すでに元気いっぱいだ。ほかほかの唐揚げを大量に作っている。
「お前は宇宙人だし、国に保護してもらうとかキチンとした所に行った方がいいと思う」
「えっ、なんで? 私は嫌だよ。ずっとここにいるよ」
重力少女が動揺した。少しだけ時間の流れが遅くなった。
「いやいや、なんでって、お前、宇宙人でしょ。俺、ただの庶民だし」
「えっ、どうして庶民だとダメなの?」
「普通にダメでしょ。俺なんかじゃ手に負えないって」
「そんなことないよ。お兄ちゃんなら大丈夫だよ」
「いや、大丈夫じゃないって。もっとこう権限のあるところに行った方が安全だと思う」
「えっ、でもでも、私、お兄ちゃんと一緒にいたいし。お兄ちゃんも楽しそうだったよ?」
「うん、確かにお前といると楽しい。でも楽しいだけじゃ一緒にはいられないこともあるんだよ」
「えーなんで? 楽しいなら一緒にいようよ」
「だから、無理なんだって。俺と一緒じゃなくてキチンとしたところに行った方が、お前と地球のためには良いんだ」
時間の流れがどんどん遅くなる。今にも止まってしまいそうだ。つまり重力少女は俺と本気で一緒にいたいと思っているということだろう。
「一緒にいない方が私のためなんて意味わかんないっ」
重力少女は悲しそうな表情をしながら怒っている。
俺の言っていることは、重力少女のためではなかったのか。俺は自分の言っていることに疑問を持ち始めた。
しかし、思いとは裏腹にキツイ口調で言ってしまう。
「でも無理なものは無理なんだよ! お前もいい加減わかれよ!」
俺の大声に重力少女も感情的になってしまう。
「お兄ちゃん嫌い! もういい!」
時間の流れが完全に止まってしまった。
重力少女は目に涙を溜めながら、青白い光を放ち始める。このままでは地球が消滅してしまう。これは俺の望んだ状況ではない。どうしてこうなった?
俺は重力少女が好きだ。地球も守りたい。それなら重力少女と一緒にいればいい。何故、俺にはそれができない。
重力少女のためとか言っているけど、本当はそうじゃない。俺が今の状況にビビっているだけだ。俺は重力少女と一緒にいるために何かをしたのか。
俺は覚悟を決めて、重力少女を抱きしめた。
「えっ? なに?」
重力少女は目に涙を溜めたまま驚いたような表情で、俺を見た。
「ごめん。俺が間違ってたよ」
「えっ? えっ?」
「これからも一緒にいよう」
「えっ、お兄ちゃん、一緒にいていいの? 本当に?」
「本当だよ」
「……」
「……」
「……やったぁ、地球を救うためだとしても私、嬉しい」
「地球を救うためだけじゃないよ。お前が好きだからだ」
俺は思っている事を素直に言った。
しかし、時間の流れは止まったままで動き出さない。もう怒っている雰囲気ではないのだが、どういう事だ。
「何で時間が動き出さないの? お前、まだ怒ってるの?」
「お兄ちゃん、違うよ。怒ってるわけないよ」
「じゃあ、何で時間が止まったままなの?」
「それはね、凄くドキドキしてるからだよ。だって嬉しすぎるんだもん」
「ドキドキしても止まるのかよ。まあいいや。もう少しこうしていよう」
俺と重力少女、おでこをくっつけて2人で寄り添う。
事象の地平線。時間の止まった世界。地球上でただ2人だけ、永遠の0秒を2人で過ごした。
◇
「でさぁ、いつになったら時間が動き出すの?」
「うーん、あと0秒かな。えへへ」
「なんだそれ」
結局どのぐらい時間が経ったのかは分からないが、重力少女の気持ちが落ち着きやっと時間の流れが元に戻った。
「腹減った。やっと飯だ。随分と時間が経った気がするけど、唐揚げが冷めてない。お前、意外と便利だな」
「そうかな、えへへ。えっと、レモンかけてと」
「あーーーお前、何で唐揚げにレモンかけるんだよ。俺は酸っぱいの嫌いなんだよ」
「かけた方が美味しいよ。好き嫌いはダメだよ。お兄ちゃん!」
「バカ! 嫌いなものは嫌いなんだよっ」
「あーーーお兄ちゃん、バカって言った。私、バカじゃないもん!」
「お前、アホだと怒らないのに何でバカだと怒るの? やっぱりバカだろ!」
「あーーーわざとバカって言った! お兄ちゃんのバカ!」
再び時間が止まる。
「お前、本気で怒るな! 唐揚げレモンのせいで地球が消滅しちゃうだろ!」
感情により強大な重力を発生させる不思議な少女、重力少女。
俺と重力少女、波乱の生活は続いていく。
◇
重力少女 〜はじめまして、結婚しよっ 地球消滅の危機が日常です〜
終わり
〜あとがき〜
最終話までお読みいただきありがとうございます。少しでも良かったと思えるところがありましたら、フォローや応援、お星様を貰えると執筆の励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
重力少女 〜はじめまして、結婚しよっ! 地球消滅の危機が日常です〜 同歩成 @Anantoca
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