第2話 軽くて重い女!
重力少女が現れた翌朝。休みだったので遅めに起床してダイニングキッチンへ行くと、いい香りが漂ってきた。
「お兄ちゃん、おはよう! 朝ご飯もうすぐできるからね!」
「あれ、朝ご飯作ってくれてるの? 嬉しいな」
自称宇宙人の重力少女が健気に朝食を作っている。
アホでヤバい奴かと思ったが、良いところもあるようだ。
「はい、どうぞ!」
ご飯、味噌汁、卵焼き、納豆。少ない食材を駆使して、とても美味しそうな和食を作ってきた。
「お前、凄いな。本当に宇宙人なの? 普通に日本人でしょ?」
「えっ、凄いかな? えへへ、嬉しい。でも私は日本人じゃなくて宇宙人だよ」
宇宙人というところはブレないようだ。
ずずずっ。味噌汁をすすってみる。
「美味い! えっ、なに? お前、料理人なの?」
「そんなに美味しい? 嬉しい、えへへ。でも私は料理人じゃなくて宇宙人だよ」
こいつ、宇宙人に誇りがあるのか。宇宙人アピールは欠かさないな。
「私、納豆好き! 美味しいよね!」
こいつ、やっぱりただの日本人じゃないのか。納豆好きの宇宙人、宇宙とはなんだろう。
それにしても美味い朝食だ。俺は自称宇宙人の重力少女にガッチリと胃袋を掴まれた。
◇
朝食を食べていて思ったが、未だに重力少女から名前を聞いていなかった。変な性質ばかり聞いていて、すっかり忘れていた。いつまでも『お前』呼ばわりでは可哀想だ。聞いておこう。
「そういえば名前はなんて言うの?」
「私の名前? やっぱり気になっちゃう? えへへ。えっとね、◾️※△◾️○◾️だよっ」
「は? なんて?」
「◾️※△◾️○◾️」
「全くわからん。そこは日本語で言えないんだ。まあいいや。これからもお前って呼ぼう」
「えーー! 名前で呼んでくれないの?! んーー、ちょっと嫌だなぁ。だけど、お前呼びも彼女とか妻っぽくていいかも? あれ? やっぱり凄くいい! 嬉しい、ありがとう、お兄ちゃん。えへへ」
「お前、凄くポジティブというか、やっぱりアホだな」
そうして引き続き、『お前』『お兄ちゃん』と呼び合うことになった。
◇
「ところでさ、お前たちの種族は、泣いたり怒ったりすると重力が発生するって設定だよね?」
「設定ってよく分からないけど、ちゃんと重力が発生するよ。えへへ」
「なんで俺だけ影響がないの?」
「それは私がお兄ちゃんのことが大好きで、運命の人だからだよ」
「ふーん、初対面にも関わらず、大好きで運命の人なの? たまたまウチの庭に現れた感じだったけど。まあいいや。でさ、重力が発生してる時のお前の体重って何キロなの? 地球より重いの?」
「?! お兄ちゃん、女の子に体重を聞いちゃダメだよ! デリカシーがないよっ! それに私の体重が重いんじゃないの! 気持ちの問題だよっ!」
「えっ、気持ちが重いの? お前、尻軽そうなのに重い女なの? 重いにしても限度があるでしょ。惑星を消滅させるって」
「もうお兄ちゃん、違うよー。私は重い女じゃないよー」
「どっちだよ。まあ常に結婚を迫ってくる女って重いと思うけど」
「もーう、お兄ちゃんの意地悪! でもそんなところも好き。結婚しよっ。えへへ」
「お前、脳みそは軽いな」
◇
「買い物に行くけどお前も行く?」
「行きたい! なになに? ショッピングデート? 嬉しい、えへへ」
「いや、別にデートじゃないけど。飯、買いに行くだけだし」
「ご飯! 私が美味しいもの作ってあげる!」
「そうだな、確かにお前の料理、凄く美味いし、頼もうかな」
重力少女と買い物に行くことにした。
「あ、そうだ。お前、近所の人には親戚の娘が冬休みに遊びに来たってことにするから、それっぽくな」
「うん、分かった。親戚の宇宙人だねっ」
「突っ込むのも面倒だな。まあいいや、頭がおかしい親戚がいると思われるだけのことだ」
近所のショッピングモールに行くと日曜日という事もあり、多くの人がいた。チラチラとこちらを見てくる人がたくさんいる。
「お前、何かチラチラ見られてるな。特に男から」
「もしかして宇宙人が珍しいのかな?」
「確かに宇宙人は珍しいけど、見られてる理由は違うと思うぞ。それに宇宙人だと思われているなら、この程度では済まない」
「えっ、じゃあ何で?」
「いや、お前が可愛いからだろ。並のレベルじゃないぞ。調子に乗るからあまり言いたくないけど」
「えっ、私やっぱり可愛い? 嬉しい。えへへ。だけど、ごめんね」
「ん? どうした急に? 何を謝っている?」
「お兄ちゃんだけの私なのに、みんなに見られちゃって。お兄ちゃん、ヤキモチ妬いちゃうかなって」
「いや、大丈夫だから」
確かにこれだけ可愛い娘を連れて歩くのは満更でもない。今までの俺の人生にはなかったことだ。
このままではアホだけど容姿も性格もいい重力少女のことが好きになりそうだ。
◇
重力少女が現れて1週間。重力少女は相変わらず我が家にいた。
最初は重力少女を家に1人おいていく出かけるのは、色々と心配だった。
しかし、今ではそんな最初の心配もなくなり、俺は普段通りに出勤し、重力少女は当たり前のように我が家で生活している。
今日も仕事が終わり、俺は疲れて我が家へ帰宅する。
「ただいまー」
「お兄ちゃん、おかえりなさい。お仕事、お疲れさま」
重力少女が満面の笑みで元気よく玄関まで出迎えにくる。疲れた俺は重力少女の笑顔に癒される。
キッチンからは、よい香りが漂ってくる。
「お、いい匂いがする。今日は何のご飯?」
「今日は煮込みハンバーグだよっ」
「おお、いいね。腹減ったよ」
「すぐに準備するからね。ちょっと待ってて」
俺は部屋着に着替えてキッチンへ行くと美味しそうな料理がテーブルに並んでいる。
肉に野菜、栄養のバランスも良さそうだ。
「和食も洋食も器用に作るな。栄養のバランスも完璧だし。お前、管理栄養士なの?」
「嬉しい。えへへ。お兄ちゃんには美味しく栄養を摂ってもらって、これからずっと健康に過ごして欲しいし! でも私は管理栄養士じゃなくて宇宙人だよっ」
相変わらず宇宙人アピールは欠かさない。
重力少女は俺が仕事でいない日中も1人で家事を頑張っている。
「今日はいいお天気だったからお洗濯をしておいたよ! ふんわり柔らか仕上げだよっ」
「おお、ありがとう。ふっくらいい匂い。アイロン掛けまで完璧だな。お前、クリーニング屋なの?」
「嬉しい。えへへ。お兄ちゃんには毎日、気持ちよく過ごして欲しいし! でも私はクリーニング屋じゃなくて宇宙人だよっ」
バイトしたいと言っていたが、これならどこでも雇ってもらえそうだ。ただし、問題は宇宙人ということだ。
重力少女は家事だけではない。
ある日、仕事から帰るとボサボサだった庭木や垣根が綺麗に刈られていた。
「今日はいいお天気で時間もあったから、庭木と垣根を刈り込んでおいたよっ」
「帰ってきた時、ビックリしたよ。五葉松を綺麗に刈るとか植木職人なの? 普通はできないよ?」
「嬉しい。えへへ。お兄ちゃんには綺麗な庭を見て精神を落ち着けて欲しいなと思って。でも私は植木職人じゃなくて宇宙人だよ」
「お前、本当に凄いな。何でも出来る宇宙人なの?」
「そんな凄いかな。嬉しい、えへへ。私、お兄ちゃんのために何でも頑張るし! でも私は宇宙人じゃなくて、あ……宇宙人だよっ!!」
「お前、凄いけどやっぱりアホだな」
「引っかけ! お兄ちゃんの意地悪! でも好き。結婚しよっ」
俺は変な性質を持つ宇宙人の家出少女ということをすっかり忘れて、重力少女との生活を満喫していた。
いつの間にか重力少女がいることが当たり前になり、自然と重力少女のことが好きになっていた。
〜あとがき〜
第2話をお読みいただきありがとうございます。フォローや応援、お星様を貰えると執筆の励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
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