重力少女 〜はじめまして、結婚しよっ! 地球消滅の危機が日常です〜
同歩成
第1話 はじめまして、結婚しよっ!
地球上どこにでもある重力。どこにでもあるけれど不思議な力。
重力は増大すると時間の流れが遅くなり、極限になると現れる事象の地平線。時間の止まった世界。
事象の地平線を越えた先には、惑星をも飲み込むブラックホール。
地球に住む人類には体験できず理解し難い存在だ。
しかし、広大な宇宙に存在する無数の惑星の中には重力を発生させ、事象の地平線のようなものを出現させる種族がいた。
そんな種族の女の子が1人、この地球にやってきた。
◇
俺は至って平凡な人間だ。片田舎にある一軒家に住む社会人1年生。
そんな俺に地球の命運がかかるなんて、普通は夢にも思わない。
バリッバリバリバリッ!!!
「何ごと?!」
突然の大きな音と光に驚いて窓の外を見る。
庭先で青白い稲妻が発生している。
「えっ、何?!」
しばらくすると青白い稲妻は治まり、白く光る球体が現れた。
「何だこれ?」
とても怖いが、球体に近づいてみる。
すると、球体の中から声が聞こえてきた。
「ふむふむ、なるほど。この惑星、人がいる。やったぁ」
女の子の声だ。
「ふむふむ、そっかぁ、よしよし、この惑星のことはだいたい分かったぞぉ」
独り言だろうか。よく喋る。
「うーん、迷うなぁ。あ、これ可愛い。この姿にしよっと。よし決まりっ」
最後にそう言うと、白く光る球体が消えて中から可愛いらしい服をきた小柄な少女が、しゃがんだポーズで現れた。
俺が呆気に取られて眺めていると、その少女と目が合った。いきなり少女は話かけてきた。
「こんにちは! あ、もう夜だから、こんばんは! かな。はじめまして、結婚しよっ」
はじめまして、結婚しよっ?! 突然、現れてなんだ、こいつは。
どこから突っ込んでいいのか分からないが、とてもヤバい事だけはよく分かる。
「いきなりヤバい奴が来た! 警察を呼ぼう」
「ちょ、お兄ちゃん。待って。え、なんで?! 可愛い娘から結婚しよって言われて嬉しくないの?」
「変な現れ方をした知らない女にそんなこと言われても怖いだけだよ!」
「あれ? そうなの? この惑星のことは全部わかったつもりだったのに。おかしいなぁ。えへへ」
「おかし過ぎるだろ。ん?! 今、お前、この惑星とか言った? お前、宇宙人っていう設定なの?」
「えっ、設定? 設定ってよく分からないけど、私は宇宙人だよ。それより、お兄ちゃん、こんな所で話すのも何だし家の中に入ろうよ」
「は? お前、勝手に地球にやって来て、人の家に上ろうとするとか、随分と図々しい宇宙人だな」
「そうかな。えへへ」
◇
ポリポリ。ずずずっ。
こいつ、出してやったお菓子とお茶、さっそく手をつけてやがる。
宇宙人とか言ってるくせに何も警戒しないのか。地球は初めてじゃないのか。くつろぎ過ぎだろ。
「それでお前は何しにここにやって来たの?」
「家出しちゃった」
「えっ、お前、家出少女だったの?」
「うん、そうなの。お父さんと喧嘩したらね、凄い重力が発生しちゃって次元に歪みが出来ちゃったの。そしたらね、真っ暗な知らない惑星にワープしちゃってたの。えへへ」
「は? しれっと何言っているの? 家出少女のスケールじゃないんだけど。まあいいや。それで?」
「それでね、その惑星には誰もいなくて怖くて泣いちゃったの」
「ほうほう」
「あんまり大泣きしたら、また凄い重力が発生しちゃってブラックホールが出来ちゃったの。あ、でもね、凄いちっちゃいのだよ」
「ちっちゃくてもブラックホールってヤバいんじゃないの?」
「大丈夫だよ。その誰もいない惑星が消滅しちゃっただけだから」
「それのどこが大丈夫なの」
「それでね、何かまたワープしちゃって気がついたらここにいたの。今度は優しいお兄ちゃんがいる惑星で良かった」
これは完全にヤバい奴だ。これ以上、関わってはいけない。
「なるほど、話は分かった。警察へ行こう」
「えっ、警察?! 私は警察には行かないよ」
俺は無理やり連れて行こうとして、少女の手を引っ張った。
すると不思議な事に、つけていたテレビがスロー再生のように流れ始めた。驚いて周りを見ると、俺と少女の2人以外がゆっくりと動いているように感じる。
時計の進みも遅すぎる。時間の流れが違うのか。
何が起こったのか分からず俺は混乱した。まさか、この少女の言っていることは冗談ではないのだろうか。もしかして本当に変な宇宙人なのか。
俺はにわかには信じられなかったが、掴んでいた少女の手を咄嗟に離した。
少女が落ち着きを取り戻すと、時計の進みが元に戻った。
理解が追いつかないが、もう少し少女の話を聞いてみることにする。
とにかくこの少女を穏便に帰したい。
「家族が心配してると思うけど、帰らなくていいの? 帰った方がいいよ」
「帰りたくても結婚しないと帰れないの」
いきなり意味が分からない。
「は? なにそれ、どういうこと?」
「私たちの種族はね、一人前の大人にならないと、重力の操作が出来なくて自分の星に帰れないの」
なんだそれ。
「厄介な種族だな。で、一人前の大人になるってのが、結婚ってこと?」
「うーん、えっとねぇ、結婚だけじゃなくてぇ。まず18歳過ぎたら結婚してぇ、その後にぃ」
何故か少女はモジモジし始めた。
「そのあと何?」
「まだ14歳だから言うのは恥ずかしいんだけどぉ」
「じゃあ無理に言わなくてもいいよ」
「えっとね」
「言うのかよ」
「結婚してつがいになった後、繁殖しようとすると重力を操作できるようになるの! だから、お兄ちゃん、優しくしてね」
頭おかしい。
「なにそれ、お前たちの種族、変すぎじゃない?」
「そんなことないよ。普通だよ」
百歩譲って宇宙人だとしても、もう少しまともな設定にして欲しい。
「ちょっと疑問なんだけど」
「あ、なになに? 私に興味持っちゃった? 何でも聞いて」
「いや、宇宙人っていうわりに何で人間の姿なの? 完全に普通の日本人に見えるけど」
「私たちはね、着いた惑星で一番生存し易い姿になるんだよ。だからこの惑星だとこの姿で言葉も文化もわかるの!」
いい加減過ぎる。
「都合の良い種族だな」
「そうかな、えへへ」
俺は少女をジッと見る。パッチリとした目にコロコロ変わる愛嬌のある表情。サラサラの長い黒髪。そこらのアイドル顔負けだ。
「ふーむ、確かに愛嬌もあるし、その可愛いらしい容姿なら生活は楽そうだ」
「あ、お兄ちゃん、私のこと、可愛いって言った! 嬉しい。えへへ。結婚しようね」
俺は、ヤバい奴だが害は無さそうだし、そのうち飽きて帰るだろうと簡単に考えてしまう。
「まあいいや。結婚はともかく帰るところがないなら、少し置いてやるよ。部屋もあるし」
「やったぁ、優しいお兄ちゃん。ありがとう!」
元々は両親と一緒に住んでいた一軒家。両親が海外へ赴任してしまったので、俺は一軒家に1人で住んでいた。
いくつか空いている部屋の一つを少女に使わせることにした。
「この部屋を自由に使っていいよ」
「わぁ、素敵なお部屋。ありがとう! お兄ちゃん!」
「あとキッチンに飲み物や食べ物があるから好きにしていいよ」
「お兄ちゃん、優しい! 大好き! 結婚しよっ!」
「今日はもう遅いから早く寝ろよ。おやすみ」
「うん、ありがとう。お兄ちゃん! おやすみなさい」
◇
宇宙からやってきた、重力を発生させるという不思議な性質を持つ少女、重力少女。
俺は重力少女との生活を気軽に始めた。
地球が消滅するかどうかを決める命運を背負ってしまったとも知らずに。
〜あとがき〜
第1話をお読みいただきありがとうございます。フォローや応援、お星様を貰えると執筆の励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
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