地中から煩わしいのがやって来た!?

 実際、ヘルミさんとは違い、怒りとかは湧いてこなかった。

 薄情なのかもしれない。

 だけど、別の感情が邪魔をして、それどころじゃなかった。

 人間が、人間同士で争うのが。

 人間が、人間に暴力を振るうということが……。


 そうだ、わたしは怖いんだ。

 怖くて、仕方がないんだ。


 近づいてくる気配を感じ、視線を向けると組合長のアーロンさんが心配そうな顔で歩いてきた。



 促されるまま組合長室のソファーに座ると、正面に腰を下ろした組合長のアーロンさんは大きくため息を付いた。

「かなりやっかいなことになってきた」

「そうみたいだね……」

 わたしも同意する。


 因みに、赤鷲の団団長のライアンさんはしばらくすると目を覚ました。

 そして、凄く悔しそうにしていた。

 なんでも、護衛のおじさんの拳は避けれたんだけど、そうなると問題になるのではとか色々脳裏をよぎって、躊躇しているうちに殴られたとの事だった。

 その、どことなく間の抜けた発言にピリついていた皆も、少し柔らかくなっていた。

 頭の中とかに損傷があったらマズイので、念入りに治療魔法をしつつ、しばらく安静して貰うことにした。

 あと、ハルベラさんの頬も治療して上げると、アーロンさんに促されるまま、ここまで付いてきた。


 アーロンさんは続ける。

「領主様の宝探しだが、想像以上に本気でされているようだ。

 というより、それに命運をかけている様でもあるんだ」

「え?

 何それ?」

 わたしの問いに、アーロンさんは苦笑しながら首を横に振る。

「詳細は分からん。

 恐らく、貴族的ななにかなのだろう。

 だが、どう考えても胡散臭い宝探しを、驚くほど食い気味にされていた。

 ……例の宗教団体の連中だが、全員、捕らえられた」

「え!?」

「既に、そのうちの何人からしい死体が町中で見つかっている。

 明らかに拷問されただろう、痕を残して、な」

「怖っ!」

 アーロンさんは真剣な顔でわたしを見る。

「サリー、よほどの事が無い限り、町には近づかない方がい。

 少なくとも、町から物を入れたり出したりはしないことだ。

 領主様の命で、騎士達が見張っているからな」

「うん……。

 あ、今日、布とかを買って帰らなくちゃならないんだけど……」

 アーロンさんは少し渋い顔をしつつ「今日はわしが付いて行ってやろう」と言ってくれた。


 助かります!


「ねえ、何か手伝えることある?」

と訊ねてみる。

 だって、町の皆が困っているのに、何もしないのは辛い。

 怖いけど、辛い。

 だけど、アーロンさんは厳しい表情で首を横に振った。

「サリー、お前には力がある。

 それを振るえば、ひょっとすると、この場は収まるかもしれない。

 だが、一度でもそうすれば、今後、繰り返し行わなくてはならなくなる。

 まだ幼いお前が、そのような立場になるのは極力避けるべきだ。

 以前も話したが、これは大人が何とかすべき事なんだ」

「うん……」

 マッチョなアーロンさんは優しく微笑む。

「お前が町のために、皆のためにどうにかしたいと思ってくれる気持ちは凄く嬉しい。

 ただ、ここは大人のわしらに任せてくれ。

 何か、必要になったら、その時は声を掛ける」

「うん……」

 まあ、確かにわたしがしゃしゃり出ても、場をかき乱すだけかもしれない。

 ただただ、アーロンさんやヴェロニカお母さんに心配を掛けるだけかもしれない。


 以前の、食糧問題の時みたいに……。


 そう考えると、頼まれた時にだけ行動するのが正しいのかもしれない。

「そんな顔をするな! 大丈夫だから!」とアーロンさんに頭を撫でられつつ、そう思うのだった。



 結界を超えて、我が国に到着する。

 手芸妖精のおばあちゃん達が飛んできたので、布とか糸とかを渡すと、嬉しそうに持っていった。

 帰りに関しては組合長のアーロンさんが一緒に来てくれたので、騎士さん達も鋭く睨んできたけど、何もされなかった。

 流石はマッチョ系組合長! って感じだ。

 あと、門を抜けた辺りで、話さなくてはならないことがあった事を思い出した。


 軍隊雀ぐんたいすずめ君の事だ。


 あれは、結構やっかいだし、空を飛ぶから壁で防げないからって事で伝えたんだけど、アーロンさんはそれほど驚く様子を見せなかった。

「そいつはこの地方では〝地獄の使い〟と呼ばれている魔鳥だな。

 この時期になると現れ、集団で襲い、馬も人も関係なくさらっていくことで古くから恐れられている。

 とはいえ、特殊な柄の旗を恐れる習性もあって、油断さえしなければ問題なく対処できる」

「そうなんだ!」

 何でも、黄色や黒で円を描いた柄らしい。

 そういえば、前世日本でもそんなようなので鳥を追い払っていた。

 凶暴な今世、雀君も、その辺りは一緒ってことの様だ。

「壁の周りには、〝地獄の使い〟用に布が用意されているし、町から出る行商らも旗を用意しているから恐らく大丈夫だ」

 地元の人間なら、誰もが知っていることらしい。

 なら、そこまで心配する必要ないかな?


 そんなことを考えつつ歩いていると、結界付近に気配を感じる。

 視線を向けると、結界の端にイメルダちゃんとケルちゃんが何やらやっていた。

 結界の外には、魔木まぼく君と兵隊蜂さんがいるみたいだ。


 何やってるんだろう?


 近づきながら「どうしたの?」と声をかけると、イメルダちゃんが振り向く。

「あ、お帰りなさい!

 何か、伝えようとしているんだけど、わたくしではちょっと分からないの」

 すると、兵隊蜂さんが〝あっち! あっち!〟と言うように前足を指している。

 何かあるのかな?

 付いていこうとすると、イメルダちゃんから「わたくしもいいかしら?」と訊ねられる。

 ん~

 視線を向けると、イメルダちゃんの肩付近に、近衛兵士妖精の黒風こくふう君と青空君が飛んでいる。

 今、胸から飛び出した白雪ちゃん、プラス、ケルちゃんがいれば大丈夫かな?

「ケルちゃんの側にいてね」

と言いつつ、手を取り、結界から出して上げる。


 しばらく、兵隊蜂さんの後を付いていくと、蜂さんの巣が見えてきた。

 物作り妖精のおじいちゃんが建てた木製の巣の部分、その上から女王蜂さんが顔を覗かせている。

 わたしが手を振ると、女王蜂さんも前足を振り返してきた。


 ん?


 地面の下から、何やら気配を感じる。

「イメルダちゃん、ちょっと、ケルちゃんの上にいて」

「きゃ!

 ちょっと!」

 脇に手を入れ、姉的妹ちゃんをケルちゃんの背に横乗りに座らせた。

 なにやら、怒っているけど、今はそれどころじゃない。

 地中から、気配が大きくなる。

 そして、地面から巨大な毛むくじゃらが顔を出した。


 巨大モグラ君だ。

 わたしの足を噛みつこうとするその顎を、蹴り上げた。

 ガクン! とのけぞった巨大モグラ君はそのまま動かなくなった。


 まあ、5メートル級とはいえ、所詮モグラ君、こんなもんだよね。

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