ユニコーン君に出会う!
もちろん、わたし達、フェンリル家族にとっては、纏わり付かれてもただただ煩わしいだけだし、そもそも、彼らは白大ネズミ君みたいに死を恐れぬといった所までは徹底していない。
なので、ママの洞窟近辺ではそこまで注視されていなかったんだけど……。
あれだけの集団になっている彼らが町に行ったら、相当ヤバいなぁ。
間引いた方が良いかな?
などと考えていると、向こうから飛びかかってきた。
なら、考えるまでもないね。
「うぁおぉぉぉん!」
わたしが”威嚇の一吠え“をすると――羽とか〝赤いの〟とかが、バァっと空に舞った。
うっ! グロいことになった!
三百羽ぐらいはいた彼らは、半壊したのちに散り散りになり逃げていく。
酷い有様に、思わず途中で止めちゃったけど……。
ま、まあ、あれだけ減らせたら良いかな?
わたしは地面に散らばるあれこれを、なるべく見ないようにしつつ、白狼君(リーダー)に『食べて良いよ』とがうがう言いつつ、先を急ぐことにした。
林に着き、白狼君が帰っていく。
わたしは目立たぬよう、速度を落としつつ町に向かう。
あ、今日も冒険者の皆が林の中を歩き回っている。
その表情からはやる気など見当たらない。
まあ、宝物なんてそこらに転がっている訳ないし、それも仕方がないか。
しかも、見つけても取り上げられるだろうしね。
そんなことを考えつつ、冒険者の皆に手を振る。
わたしに気づいた冒険者の皆は、表情を緩めながら振り返してくれた。
門に到着すると、いつもの門番さん達と共に鎧を着たおじさん達が立っていた。
昨日、組合長のアーロンさんが言っていた、詰めている騎士さんなんだろう。
何やら、その目は真剣そのものだ。
うんざり顔の門番さん達とは対照的だなぁ。
わたしが近づくと、その騎士さんは目をつり上げて怒鳴る。
「そこの娘!
さっさと、その籠の中身を見せろ!」
まあ、特に問題ないので、駆けていくと、背負っていた空の籠を見せる。
その騎士さん、籠の蓋を開けると中を見る。
空にもかかわらずその中に手を突っ込んでいる。
そして、「紛らわしい!」とかいうと、籠を投げ捨てた!?
えぇぇぇ!
ちょぉ!?
何てことするの!?
驚いていると、わたしの腰に付けている小袋を掴むと、引っ張った。
えぇぇぇ!?
無理矢理やるから、わたしの腰が上がり、つま先立ちになってるんだけど!?
小袋には念のため、いつもより少なくしたお金が入っている。
それを見た騎士さんは「小銭か! 邪魔だ!」とか言って、わたしの背中に腕を振るった。
「!?」
反撃が出そうになったのを何とか堪えた。
危うく、騎士さんの脇に拳を叩き込む所だった。
騎士さんとしては軽く叩いただけのようで、まったく痛くなかったから恐らく女の子なわたしに手加減をしていると思われる。
にもかかわらず、やり返したら、流石にマズイよね。
そんなことをその場で考えていたのが拙かったのか、何やら、騎士さんは少し呆けた顔になる。
そして、顔を赤めながら、「邪魔だぁぁぁ!」と拳を振り上げた。
ひゃぁ! 怖い!
急いで籠まで行くと、持ち上げ、門番さん達に手を振ると、逃げるように町に入った。
町に入って籠を確認すると、少しひしゃげていた。
酷いことをする騎士さんだなぁ~!
籠に手を入れながら、何とか直す。
帰ったら、物作り妖精のおじいちゃんにちゃんと直して貰おう。
いや、おじいちゃん達なら、新しいのを作り始めるかもしれない。
この籠、赤鷲の団のアナさんに貰ったやつだしね。
そんなことを考えつつ歩いていると、冒険者組合の前で、小白鳥の皆がやたら派手派手しい服を着たおじさんとなにやら口論をしているのが見えた。
口論、というより、小白鳥の団団長のヘルミさんが何やら、一方的に言われているような気がする。
えぇ~
アーロンさんを呼んだ方が良いのだけど、冒険者組合の入り口はヘルミさん達で通れない状態になっているし……。
組合って裏から入れたかな?
そんなことを考えていると、受付嬢のハルベラさんが窓からヘルミさんの様子を窺う姿が見えた。
慌てた様子で中に入っていったので、アーロンさんには話が伝わるかな?
なら、わたしが何かをする必要はないかな?
そんなことを考えつつ、さらに様子を窺う。
ヘルミさん達から少し離れた辺りには、何故か馬が何頭も立っていた。
その中には、一際目立つ、白馬の子がいる。
首には豪奢な首輪っぽいのが付いているし、背には鞍が付けられているので、ひょっとしたら、例の派手派手しい服の人が乗ってきたのかもしれない。
あ!?
あの馬、ユニコーンだ!
額部分に細長い角が付いている。
そんなユニコーンだけど、何やら顔を顰めているようだった。
そして、右前足を何やら気にしている様子だった。
ひょっとして、ヘルミさん達が揉めているのは、あれが理由かな?
ヘルミさん「知らない! 言いがかりは止めて!」とか言ってるし。
わたしは気配を消して、そっとユニコーン君の
そして、首の辺りを撫でて上げる。
「どうしたの?
足が痛いの?」
ユニコーン君は悲しげな目をこちらに向けつつ、右前足を少し上げた。
ん?
あ、
何か尖ったものでも踏んだのかな?
彼が踏んでいる地面部分が赤くなって痛々しい。
「もう少し、足を上げるね」
と右足を手で持ち上げる。
念のため、白いモクモクで出した水で傷を洗うと、治療魔法で傷を癒やす。
「どう?
まだ痛い?」
訊ねると、ユニコーン君は〝痛くない!〟とでも言う様に、嬉しそうに鳴いた。
それは良かった!
などと、ユニコーン君の足を降ろしていると、突然、「何をしている!」という怒声が聞こえてきた。
そして、小白鳥のヘルミさん達に絡んでいたおじさんが、顔を真っ赤に怒らせ、駆けてくる。
そして、「離れんか!」と拳を振り上げた。
わっ!
おっかない!
ただ、ただの振りだけだったのか、わたしが離れると、上げた腕をそのままに、何やら挙動不審な感じに体を揺らすと、それをゆっくりと降ろした。
「ちょ!
その子に絡むのは止めて!」
と、ヘルミさん達が駆けてくる。
そして、わたしを庇うように立つとヘルミさんが叫ぶ。
「わたし達はユニコーンに触れるどころか、近づくこともしてないって!」
「う、うるさい!
お前ら以外にいないだろう!
いないと言ったらいないんだぁ!」
「おい、木偶の坊!
何をやっておる!
さっさ来んか!」
更に大きな怒声が、冒険者組合の入り口から聞こえてくる。
視線を向けると、冒険者組合から豪奢な刺繍で彩られた服を着た、ふっくりと太ったおじさんが出てくる所だった。
周りには、屈強そうな騎士さんが取り囲んでいる。
すると、ヘルミさんが慌てた感じにわたしを馬から離すように引っ張り、建物の影に押し入れる。
え?
何?
「サリーちゃんはここにいて!
静かにね!」
とか言うので、静かにするけどあのおじさんは……。
ひょっとして、噂の領主様かな?
そんなことを考えていると、先ほどヘルミさんと揉めていたおじさんの声が聞こえてくる。
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