第二十四話

雀君登場!

 朝、起きた!

 横を見ると、可愛い妹ちゃんであるシャーロットちゃんが掛け布団から抜け出て眠っていた。

 そろそろ、暑くなってきたから寝苦しかったのかな?

 それでも、朝は気温が下がるので抱き上げると布団の中に戻して上げた。

 そして、更に横に視線を向ける。

 イメルダちゃんが眠っている龍のジン君の、その体に頬を付けて眠っていた。


 ……龍のジン君の体で暑さをしのいでいるようにも見える。


 掛け布団、薄手のものに変えた方がよね。

 手芸妖精のおばあちゃんに相談しよう。

 そんなことを考えつつ、ベッドから出ると服に着替える。

 国家を口ずさみつつ、中央の部屋食堂に行くと、いつも通りケルちゃんがお座りをしていた。

 嬉しそうにしているから、天気が良いのだろう。

 三首、プラス、尻尾を撫でつつ外に出して上げる。


 今日も良い天気だ!


 すると、頭の上に小さいものが乗る感触が有る。

 恐らく、妖精ちゃんのうちの誰かだろう。

「ちょっと!

 頭の上に乗るのは止めて!」

と抗議すると、頭上の感触がなくなり、ひらひらとした金色のものが眼前に降りてきた。


 姉姫ちゃんだった。


 白いワンピースを着た姉姫ちゃんはニコニコしながら身振り手振りをする。


 え?

 天気が良いから、外に連れて行って欲しい?

 大きい? 川? それが見たい?

 いや、今日は町に行かないといけないから、ちょっと無理かな?

 え?

 なら町で良い?


 すると、悪役妖精と近衛兵士妖精ちゃん達が6人、凄い勢いで飛んできた。

 そして、近衛兵士妖精ちゃん達が姉姫ちゃんを取り囲み、悪役妖精がわたしに向けて身振り手振りをする。


 え?

 姉姫ちゃんを外に出すのは早すぎる?

 倒れる?


 姉姫ちゃんが”行きたい! 行きたい“と手足をバタバタさせるも、遅れて到着した妖精姫ちゃんに首根っこを掴まれ運ばれていった。

 う、う~ん。

 まあ、活発系姉姫ちゃんとしては、外に出たいということだろうし、連れて行って上げたい気持ちもあるけど……。

 体調とか、状態とか分からないから、流石に何の対策もなく一緒に行く訳にはいかないなぁ。

 などと思いつつ、家に入る。

 洗面所で身なりを整え、スライムのルルリンと妖精メイドのサクラちゃんを肩に乗せ、飼育小屋に向かう。

 卵と乳を頂き、元気のない黄金羊さんの背中をポンポンと叩いて上げ、外に出して上げる。

 そして、中央の部屋食堂に戻る。


 ん?


 龍のジン君がくねくねと天井近くを飛んでいるのが見えた。

 以前に比べて、ビクビクしている感じはしない。

 大分慣れてきたかな?

「お~い、ジン君!」

と手を振ると、見下ろしてきたジン君は少しこちらを見つめた後、スルスルと下りてきて――なんと、わたしの手に降りた!

 そして、わたしの腕に巻き付く。


 お、おお!


 初めて自分から来てくれたジン君に感動しつつ、「ジン君も一緒に、食料庫に行く? 葡萄を上げるよ?」と声をかける。

 が、寝室の方に顔を向けると、そちらに向かってくねくねと飛んで行ってしまった。


 くっ!

 残念!


 とはいえ、ヴェロニカお母さんが言うように、続けることが大事なのだろう。

 うん、いつかは体にも巻き付いてくれるはずだ!

 そう自分に言い聞かせつつ、シルク婦人さんに卵と乳を渡し、食料庫に向かう。

 スライムのルルリンが体をとがらせ、葡萄を指すので、それを上げる。

 あと、妖精メイドのサクラちゃんも欲しがったので、一粒渡して上げる。

 うむ、わたしも一粒食べようかな?

 口の中に放り込む。

 甘酸っぱくて美味しい!

 う~ん、多分前世の記憶があるからだろう、葡萄のゼリーが食べたくなった。

 やはり、ゼラチン、もしくは寒天が欲しい。

 などと考えつつ、ルルリンに葡萄の皮を証拠隠滅的に溶かして貰いつつ、中央の部屋食堂に戻る。

 龍のジン君を体に巻き付かせたイメルダちゃんがシルク婦人さんと話をしていたので「おはよう」と挨拶をする。

 こちらを向いたイメルダちゃんが「おはよう」と応えつつ、訊ねてくる。

「今日は町に行くのよね?

 領主には気をつけてね」

「うん、そうする。

 まあ、手芸妖精のおばあちゃん達に頼まれた買い物をかたづけるだけだから、問題なんて起きないよ」

「まあ、そうね」

 そんなやり取りをしつつ、テーブルを拭いたり、パンを焼いたりする。

 そして、朝ご飯を食べ、洗濯物をして、姉姫ちゃんが”連れてってぇ!”とくっ付こうとして、妖精姫ちゃんに止められ、怒られている様子を苦笑しつつ、「元気になったらね」と宥めつつ、籠の用意をする。


 結局、荷車でなく、籠にした。


 まあ、問題ないと思うけど、荷車なんかで何かを運ぶつもりだ? と勘ぐられる可能性があるとヴェロニカお母さんに止められたのだ。

 籠も、本当は無い方が良いと言われたけど……。

 今日は手芸妖精のおばあちゃんの頼まれた布や糸をそれなりに買わなくてはいけないから、流石に外せない。

 籠を背負いつつ、ヴェロニカお母さんに「目立たないように」と釘を刺されつつ外に出る。

 畑の様子を見ていたイメルダちゃんに「行ってきます!」と手を振りつつ出発する。


 いつも通り、合流してきた白狼君達に『今日は狩りをしないよ?』とがうがう言うも、彼らは平然としたまま”問題ございません、ご主人様!“という様に「がうがう!」言っている。


 いや、振りじゃないからね!


 それを証明するように、わたしは足に力を入れて加速する。

 荷車がないので、ゆっくり走る必要などないのだ。

 もっとも、数は減らしつつだけど、生意気な白狼君達は、五頭、付いてくる。

 まあ、良いけどね。

 川を飛び越え、森を抜け、平原を駆ける。

 赤ライオン君が歩いているのを横目に、先を進む。


 ん?


 弱水牛君の集団が駆けてくるのが見えた。

 百頭はいる。

 数が多いから、気が大きくなっているのか、わたしや白狼君がいても、”どけどけ!“と言わんばかりに突っ込んでくる。


 ふむ。


『向こう行って!』

 少し強めに、がうがう! 言うと、ビクっ! っと震えた彼らは慌てて、進行方向を変える。


 ふむ、よろしい!


 白狼君(リーダー)などは、”なんてことをするんですか!? ご主人様!“と言うように「がぅぅぅ!」などと悲しげな目で見てくるけど、無視無視だ!


 駆ける足を緩めず先に進む。


 ん?

 あれは?


 晴天の空を茶色の雲が移動してくるのが見えた。


 うわぁぁぁ!

 あれ、軍隊雀ぐんたいすずめ君だ!


 軍隊雀ぐんたいすずめ君は見た目、前世の雀がカラスぐらいに大きくなった感じで、1羽1羽は大して強くもない。

 だけど、油断してはいけない。

 彼らは空飛ぶ白大ネズミ君みたいな存在なのだ。

 集団で襲いかかり、動物や魔獣を食い散らかす。

 一度など、ティラノサウルス君が取り囲まれて、骨だけになっていた。

 あの、カチコチな肉など欠片も残さずにだ!


 しかも、そこそこのサイズの魔獣ですら、集団でボコボコにした後、巣まで運んでいく。

 以前、じゃくクマさんを運んでいく姿を目撃し、ドン引きした事もあった。


 恐ろしい!


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