そっちが子供論争?

 ……いや、ここで怒ったら、それこそ子供だ。

 ここは、いくらか”お姉さま”として、優しくして上げるのが正しいといえるだろう。


「それで、君みたいな”幼い”子が、こんな所で何をやってるの?

 ここら辺、弱いとはいえ魔獣がでるから、女の子が一人だと危ないよ?」

「……いや、何ゆうてるの?

 うちは、あなたあんさんとは違い、”お姉さん”だから平気やから。

 あなたあんさんこそ、こんな町から遠い所で、何やってるんの?

 ママちゃんはどこにおんの?」

 口元がピクピクしてしまうけど、どうにか堪えて、ニッコリ微笑む。

「いやだなぁ~

 わたしは”お姉さま”だから、この土地を開墾しつつ、立派に生きてるんだよ?

 そういうあなたは……。

 あ! あれかな?

 その年頃では良くある、家出とかかな?

 駄目だよ?

 お家で皆、心配してるよ?」

 羽根の生えた女の子が口元を引きつらせる。

「はぁ~ん!

 誰が家でぇ~

 うちはあなたあんさんと“違って”、村長から直々に頼まれた立派な仕事でここにいるんよ?

 お子ちゃまなあなたあんさんには分からんと思うけど、成し遂げるべき責任を抱えてるんよ?」


 気づいたら、羽のある女の子がおでこを擦りつけん位置まで顔を寄せてきた。

 わたしも負けずににらみ返す。

 くそぉ~!

 この子、無駄に背が高いからなんか負けてる感じになってる!


 背伸びをしつつ対抗していると、下の方でくぐった音が聞こえてきて、羽のある女の子がぐにゃりと座り込んだ。

 そして、地面に手を付けてぼやく。

「お腹がすいたん……。

 ここ数日、ろくに食べてへんから、お腹すいたん……」

 詳しく聞くと、どうやら、食料を補給しようとしていた町に入ろうと思ったけど、凶悪な顔をした門番が睨み付けてきたので気を悪くした彼女は、素通りして来たとのことだった。

 一応、食料を補給する目処はあったらしいんだけど、この森の付近で迷ってしまい、うろうろしている所を魔鳥に不意を突かれ、墜落してしまったとのことだ。


 いや、迂闊にもほどがあるでしょう!


 いくら、門番さんが凶悪そうな顔だからって――。

 脳裏に、ジェームズさんのボス顔がよぎる。

 ――まあ、それはしょうがないとしても、食料無しで北方に向かうって、危険すぎる!

 この辺りは弱い魔物ばかりだけど、さらに北にあるママが住む森とかは相当危険な場所だ。


 このお馬鹿さんな女の子では、死んでしまうんじゃなかろうか?


 今も、「あ! あと、さっきの小さい子に負けたのも、お腹がすいてたからだから……」とか言って、地雷を踏んでるし。

 ほら、近衛兵士妖精の白雪ちゃん、ニッコリ微笑んでいるけど、目が笑ってないから!

「ここより北は、凄く危険だよ」

と注意して上げると、羽根の生えた女の子は何やら胸を張りながら、得意げに答える。

「それくらい、知ってるんよ。

 向かってるのは、北東やし、実はこの近くに流れる小川を辿れば、安全に向かえるんよ」

 飛鳥人ひちょうじんのみが知り得る、秘密の経路とのことらしい。

 いや、秘密の割には普通に話しているけど、その辺りは良いのかな?

 空を飛ばないと行けないとかあるのかもしれないけど。

飛鳥人ひちょうじんって、人間の食べ物で食べられないものってあるの?」

「はぁ?

 特にないし」

「じゃあ、食べ物を持ってきて上げるから、ちょっとここで待ってて」

「え?」

 わたしは結界の中に入ると、目に入った林檎の木から、軽くジャンプをして二つほどモグ。

 そして、何やら驚いた顔の羽根の生えた女の子に山なりに投げて上げる。

 慌てて受け取ったのを確認しつつ、軽く駆けて家の中に入った。

 入り口を開けると、イメルダちゃんとヴェロニカお母さんが椅子に座って待ち構えていた。


 イメルダちゃんが「何があったの?」と訊ねて来たのでいきさつを話す。


「まあ、ある程度食料を渡して上げようと思ってる」

というと、「そうね」とイメルダちゃんも頷いた。

 ヴェロニカお母さんが「飛鳥人ひちょうじんとは、ずいぶん珍しいわね」と驚いている。

 詳しく話を聞きたかったけど、今はそれよりやるべき事をやらねば。

 台所から顔を出したシルク婦人さんに「ねえ、パンと卵ってまだある?」と訊ねる。

「卵、二個、パン、四枚」と答えが返ってきたので、”あれ”を作ることにする。

 食料庫から色々持ってくる。

 塩、コショウ、バター、解体所の所長グラハムさんに教えて貰い作ったベーコンっぽいもの……。


 本当はレタスが良いけど、仕方がないよね。


 まずは卵、塩、コショウでスクランブルエッグにする。

 柔らかめにした方が美味しい。

 まあ、個人的な感想だけどね。

 次にベーコンだ。

 こちらもわたしの好みで、カリカリにする。

 そして、パンを二枚、トーストにする。

 焼き上がったら、トーストにバターを塗る。

 バターは白いモクモクで少し溶かしたので、綺麗にぬれた。

 パンにベーコンを乗せ、スクランブルエッグ、ベーコン、最後にパンをのせて完成だ。


 作っていて、マヨネーズが無い事に気づく。


 卵に余裕が出来てきたことだし、挑戦してみたいなぁ。

 横から、シルク婦人さんが「賭場挟み」とか嫌そうに言ってきたので、「外でも気楽に食べられるから良いんだよ」と言っておく。

 確か、Web小説の中で、お貴族様がピクニックをしている時に、食べていたから間違っていないはずだ。

 ……Web小説の中だけかな?

 まあ、良いけど。


 ヴェロニカお母さんがニコニコしながら「確かに、外で食べるのなら良さそうね」と話しているのを聞き流しつつ、もう一つ分を作ると、綺麗な布でサンドイッチを包む。

 これで良いかな?


 それを持ち上げていると、何やら、外が騒がしくなった。


 ん?

 どうしたんだろう?

 玄関のドアを一枚、二枚と開けると外に出る。

 羽根の生えた女の子がいた辺りに、巨大な木が枝を振り回していた。


 えぇ~


 慌てて近寄ると、巨大な木――ていうか、魔木まぼく君(大)が羽根の生えた女の子を枝で捕まえて持ち上げていた。

 羽根の生えた女の子は、涙目で「ひやぁ~!」とか声を上げている。


 えぇ~


「どうしたの?」

 何やら、ニコニコしている白雪ちゃんに尋ねると、可愛勇かわいいさましい近衛兵ちゃんが身振り手振りで答えてくれる。


 え?

 家に近づこうとして結界に阻まれていた?

 更に結界を飛び越えたり、叩いたりしたので、不審者認定された?


 そういえば、魔木まぼく君の他に、兵隊蜂さん達が四匹ほど、羽根の生えた女の子を威圧するように飛び回っている。

 いつもの兵隊蜂さん以外はまだ若い子とはいえ怖いのか、羽根の生えた女の子は近づいてくるたびに悲鳴を大きくしていた。

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