レモンをお願いする!
「酷い目に遭ったやん……」
地面にへたり込んだ羽の生えた女の子がぼそりと呟いた。
因みに、
「この子は大丈夫だから、ありがとう!」とお礼を言うと、兵隊蜂さんは“何かあったら呼んで”という様に顎をカチカチ鳴らしていた。
頼もしい!
しかし、
この辺りの土は栄養豊富なのかな?
そんなことを考えつつ、
「ちょっと!
何で
なので、ママが結界を張ってくれたって説明をすると、羽の生えた女の子は目を丸くする。
「ずっと張られている結界って……。
あんさんのお母さん、凄いんね!
……人間のくせに」
まあ、ママは人間ではないけど、凄いのは間違いないので、取りあえず「本当に凄いんだよ!」と自慢しておいたら、羽の生えた女の子はなにやら不満そうな顔をする。
そして、目を細めながら「親にそこまで過保護にして貰うって、やっぱり子供やん」とか言ってきた。
むかつく子だ!
そんなことを考えつつ、「これ、食べて」と布で包んだサンドイッチを渡して上げる。
「え? なんなん?」
と言いつつ、羽の生えた女の子はそれを受け取る。
そして、少し開いてみるとわたしと、サンドイッチを交互に見る。
「こんなん貰っても、うち、お金なんて無いんよ?」
「いや、そういうのは良いから!
それより、秘密の経路か何か知らないけど、気をつけてね。
あ、あと、あなたが言っているものかは知らないけど、小川ならここから南にあるよ。
上からだと木の陰で少し見にくいかもしれないけど」
多分、いつも町に行く時に渡る川だと思い教えて上げると、何やらもにょもにょと行った後、何故か顔を赤めながら「……ありがとぅなぁ~」と言った。
前世で言う所の、ツンデレかな?
よく分からないけど。
「あ、その……。
食べ物もだけど、怪我も治してくれて、その……。
誇り高き
人間ごときに借りっぱなしにはしたくないというか!」
「いやいいよ、これぐらい」
「それでは、すまないんよ!」
何故か、茶色い羽をバサリと広げつつ、言う。
「うちら、
欲しいものがあれば、言ってみ!?」
はあ、欲しいものか……。
種とかは蟻さんが持ってきてくれるし……。
あ、いや、持ってきてくれなかった種もあるか。
「レモンの種――とかどうかな?
買ってきて欲しいんだけど」
「レモン?
あの黄色くて酸っぱい実の?」
「そうそう!」
「それぐらい、お安いご用やん」
おおお!
ありがたい!
「これで買ってきて」と大銀貨を渡したら、「
いや、確かに分かっているとはいえないけど、全く手に入らないものだからって事で、この金額なの!
そのことを熱く語ると、羽の生えた女の子は苦笑しながら「そうなんね」と言った。
羽の生えた女の子は背負っていたリュックっぽい袋にサンドイッチと林檎を入れつつ言う。
「レモンは用が終わってからになるけど、必ず持ってくるから。
……そういえば、名前ってなんなん?」
「ん?
わたしはサリーだよ。
あなたは?」
「うちはフュルーゆうん。
よろしゅうな」
フュルーちゃんね。
変わった名前だけど、可愛い響きだ。
そう思いつつ、「よろしくね」と微笑んでおいた。
あ、このことを言っておかないといけない!
「あのね、フュルーちゃん!
ここに家があることは、内緒にしておいて欲しいの。
特に人間にはね」
「ん~?」
フュルーちゃんは家の辺りを少し見渡した後、頷いてくれる。
「かまわへんよ。
そもそも、人間とお喋りをするなんて、めったに無いしなぁ」
「よろしくね」
と言うと、フュルーちゃんはニッコリ微笑んだ。
「代わりじゃ全然ないんけど、林檎、もっと欲しいんけど」
わたしは苦笑すると、成っている林檎を三つほど渡して上げた。
フュルーちゃんは嬉しそうに受け取った。
――
そんなことを考えつつ、家に戻ろうとすると、手芸妖精のおばあちゃん達が飛んできた。
そして、身振り手振りをする。
え?
南?
あ、町?
行ってきて欲しい?
夏服を作っているんだけど、糸や布の在庫が足りなくなってきた?
そういえば、イメルダちゃんと行く時にそんな話をしてたね。
すっかり忘れていた。
そうだなぁ~
家の中に入り、皆にフュルーちゃんの説明をした後、イメルダちゃんに町に行っても良いか確認する。
姉的妹ちゃんはそれに頷く。
「そうね、夏用の服は早めに欲しいから、行ってきて貰える?」
「うん、じゃあ、そうする」
わたしはそう答えつつ、町に行く準備をする。
ケルちゃんが嬉しそうに近づいてきたけど、ヴェロニカお母さんがニコニコしながら「ケルちゃんにはちょっと、わたくしのお手伝いをして欲しいの」と制した。
困った顔をするケルちゃんだったけど、「お願い!」とヴェロニカお母さんに撫でられて嬉しいのか”分かった!“というように「がう!」「がう!」「がうう!」と吠えた。
可愛いけど、チョロい!
帽子を被り、荷車を引き、白雪ちゃんを胸元に入れ、見送りに来てくれたイメルダちゃんに手を振り出発する。
進んでいると、白狼君達が合流してくる。
森を駆け、川を越える。
弱クマさんが馬鹿みたいに突っ込んできたので、「てい!」とキックした後、処理をして、荷車に寝て貰う。
平原に出ると赤ライオン君がイノシシっぽいものを食べているのを横目に先に進む。
ん~……。
一時期増えた魔虫達の姿が減った気がする。
代わりに魔鳥が増えたかな?
あちらこちらに、そこそこ大きいのが飛んでいる。
あ、赤ムカデ君の時にいた青羽根魔鳥さんが五羽ほど飛んでいる。
鷹っぽい魔鳥もいたりする。
流石にロック鳥さんはいないけど、なかなか種類が豊富だなぁ。
そんなことを考えていると、真っ黒な鳥が一羽、正面から突っ込んできた。
大カラス君だ。
前世のカラス同様、なかなか賢い彼らは、ママの洞窟近辺の森、その外れの一角に住んでいて、強者の食べ残しをついばみ生きていた。
基本、こそこそしているイメージしかないので強いのかどうかはよく分からない。
まあ、強ければこそこそするはずがないので、弱いのだろうとは思うけどね。
そんな彼が一羽で向かってくる。
まあ、あり得ないよね。
胸元から抜け出す気配を感じたので、そのまま進むことにした。
正面の大カラス君は――わたしのすぐ側を右に転じる。
はいはい。
後ろを振り返ると、三羽ほどの大カラス君達が切り刻まれつつ墜落していく。
当然、それをやったのはこちらに振り返りつつ、胸を張る
流石だね!
カラス肉は不味いので、白狼君達に『食べて良いよ!』とがうがう言いつつ、先を行く。
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