天空の覇者闘争?

 恐る恐る腕に触れてみると、微かにだが温もりを感じる。

 胸も上下しているから、生きているようだ。

 わたしは急いで、白いモクモクをだし、まずは体力回復魔法をかける。

 そして、頭部から、翼と治療していく。

 家からこちらに近寄ってくる気配を感じる。


 魔力を流しつつも視線を向けると、イメルダちゃんが早足で駆け寄ってきた。

 側には、近衛兵士妖精の白雪ちゃんや潮ちゃん達が飛んでいる。


 わたしは魔法をそのままに、手を上げて、イメルダちゃんを制す。

 この子は気を失っているから大丈夫だと思うけど、イメルダちゃんの存在は出来るだけ知られない方が良い。

 手で家に戻っていてと合図をすると、イメルダちゃんは意図を察してくれたのか声を出さずに頷くと戻ってくれる。

 白雪ちゃんだけはわたしの側まで飛んできた。

 いや、それよりもだ。

 わたしは視線を女の子に戻す。


 しかしこの子の傷、酷いなぁ。


 ひょっとしたら、何かの弾みで墜落したのかもしれない。

 魔鳥に襲われたのかな?

 まあ、意識を戻したら聞けば良いかな?


 そんなことを考えつつ、魔法をかけ続け、見える箇所の傷は全て癒やした。

「ふ~」と一息つくと、隣にいた蟻さんが身振り手振りをする。


 え?

 これは欲しいものでしょう?

 いや、欲しいものというか……。


 悩ましい!

 いらないって言ったら、この子みたいな女の子を見捨てることになる。

 かといって、死体とか、盗賊のおじさんとか連れてこられても、非常に困るし……。

 それに、そもそも、蟻さんって相当広い範囲で活動してるんだよね!

 関係ない、それこそ赤ちゃんとか連れてきたら誘拐事件だし!


 う~ん、と悩んだ後、「この近辺で、生きているけど、怪我などをして動けない人なら、嬉しいかな?」と答えておいた。


 蟻さん、任せろ! と言うように頷いているけど、あまり頑張らなくて良いからね!

 しかし、それをどうやって伝えるべきか、悩ましい!


 まあ、一応ってことで、スモモとライチを持たせて上げる。

 なにやら、いつも以上に嬉しそうに帰っていった。


 そんな蟻さんを見送っていると、羽根の生えた女の子が「う、ううん」と声を上げた。

 そして、ゆっくり目を開ける。

「あ、気づいた?」とわたしが訊ねると、羽根の生えた女の子は目をかっと見開き、飛び跳ねるように起きた。

 そして、ジャンプすると近くにある木の枝に止まった。


 どうやら、驚かせてしまったようだ。

 ちょっと反省しつつ、木の枝を掴む足を見る。

 特殊な靴なのかな?

 枝を無理なく掴んでいる。

 羽根の生えた女の子は、わたしに指をさし叫ぶ。

「あ、あんさんは!

 あんさんは、にん――。

 ……え?

 犬耳?」

「これ、帽子だよ」

 ひょっとしたら、犬耳の人が怖いのかな? と思い、帽子を脱いで上げると、何故か、更に警戒するように目を険しくさせた。

「やっぱり、人間!

 うちを、うちをどうするつもりなん!?」

「いや、どうって……」

「分かってるわ!

 うちを酷い目に遭わせるつもりやろ!

 如何わしい、春画しゅんがみたいに!」

「?

 しゅんがって何?」


 何故か、羽根の生えた女の子は硬直する。


 そして、「あ、子供、なんね……」と言う。

 いや、何やらよく分からないけど、イラりとしたので言い返す。

「いや、見たところ、あなただってわたしと同じぐらいじゃない?」

「いやね、大人か否かは、見た目とか実年齢とか、関係ないんよ。

 頭とか、心とかなんよ。

 それに見た目だって……色々と薄いゆうか、ねぇ?」


 むっかぁ~!

 なんで、初めて会ったばかりの子にここまで言われないといけないの!


 こっちが怒っているのにも気づかないのか、気にしないのか、羽根の生えた女の子は、キリっとした顔で続ける。

「しかし、所詮は地面を這いつくばる事しか出来ない人間など、この天空の覇者たる飛鳥人ひちょうじん、その中でも最も早く飛ぶことが出来る、うちの敵ではあらへんよ!」

 そこまで言うと、その女の子は翼を広げたり軽く羽ばたかせたりしつつ「あれ? うちの翼、折れたような……」などと言っている。

 すると、白雪ちゃんがわたしの前に飛び出ると、身振り手振りをする。


 え?

 天空の覇者はわたしたち?

 あなたなんて、大したことない?


 すると、羽根の生えた女の子が枝を揺らしながら怒る。

「なんね、なんね!

 そんな小さい体格なりで覇者とはおこがましいやん!」

 すると、白雪ちゃんが身振り手振りで”おこがましいのはそっち!”とか言っている。

 羽根の生えた女の子は両手をブンブン振りながら「上等やん! 勝負したるやん!」とか言って、膝を曲げると――高速で飛び上がった!?


 速い!


 すると、白雪ちゃんの体が少し、落下した――と思った瞬間、白いロケットのように上昇した!?


 こちらも、凄く速い!


 木の枝を突き抜け飛んでいく。

 木々が邪魔をしていてよく分からないけど、上空から「なんなん! なかなかやるやん!」とかいう声と何やら戦闘らしき音が聞こえる。


 ……。


 最初の方は威勢が良かった羽根の生えた女の子だったけど、だんだん、「え!? ちょ、え!? 小さくて速くて! 痛い! 痛っ痛っ痛たた!」とかいう悲鳴混じりの声が聞こえてくる。

 そして、しばらくすると……。

「ちょ、待っ!

 ぎゃぁぁぁ!」

という悲鳴と共に、羽根の生えた女の子が落っこちてきた。

 そしてそのまま、地面と正面衝突をした。


 うわぁ~


 しかも、その頭に白雪ちゃんが着地し、女の子の顔が地面にめり込む。

 うわぁ~


 天空の覇者は我ら! ってどや顔をする白雪ちゃん!

 いやあのね、そろそろ、後頭部から下りて上げよう?


――


「調子に乗ってごめんなさい。

 謝るから、酷いことしないでください……。

 翼に杭を打ち、吊しながらいたぶるのは許してください」

とか言いつつ、土下座っぽい格好で縮こまる女の子を宥めつつ、傷を治して上げた。

 詳しく話を聞くと、彼女たちの様な羽根の生えた種族、飛鳥人ひちょうじん――その女性を捕まえ、奴隷にする人間がいるとのことだった。

 うわぁ~……。

 この異世界にも、ろくな事をしない人間はやっぱりいるんだね。


 この子が人間を毛嫌いするのも致し方がないか……。


「ほら、うちって人間とは違い凄く可愛いやん。

 だから、人間に掴まったら絶対酷い目に遭わされるって思ってぇ~」

 ……いや、それを差し引いても、この子にはやっぱりイラっとさせられるなぁ。


 ま、まあ、この子もさ、健康系女子って感じで可愛いは可愛いけど……。


 人間に比べて可愛いを連呼されると、ね。

 我が家にいるイメルダちゃんやシャーロットちゃんを見せて、その認識を正したくなる!

 まあ、もちろんやらないけどね。

「そもそも、わたし、女の子だし、そんな事する訳ないでしょう?」

と言うと「そうだけど……」と何やら、渋々ながらに頷く。


 分かって貰えたなら、何よりだ。


「まあ確かに、いかに鬼畜の血が流れる人間とはいえ、こんなちんちくりんでお子ちゃまな子、そもそも、恐れんでも良かったわぁ~」


 ……本当にいちいち、イラッとする様なことを言う子だなぁ~


 いやまあ確かに、身長もわたしより少し高いし、胸もいくらか大きいよ。

 でも、前世、高校生ぐらいの赤鷲の団のアナさんより、いくらか若い――中学生ぐらいの女の子だ。

 つまり、わたしと特に変わらないということなのだ。


 今までのやり取りを加味すれば、むしろ、わたしより幼いまであるように思える。


 そんな子に、なんで”ちんちくりん”とか”お子ちゃま”とか言われなくてはならないの!

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