蟻さんが良いものを拾ってきた?

「問題ないよ!

 そもそも、ケルちゃんは、ケルベロスじゃないから」

「え!?

 いや、あのね……」

とか、珍しくあたふたするヴェロニカお母さんを面白く思いながら、シャーロットちゃんに撫でられてご満悦なケルちゃんに近づく。

 そして、尻尾を手に取ってヴェロニカお母さんに胸を張った。

「ほら!

 これがその証拠だよ!」

 すると、シャーロットちゃんが何故か目を輝かせながら言った。

「あ!

 尻尾ちゃん!

 ほら、今が好機!」


 え?

 何が?


 わたしが妹ちゃんに訊ねるより先に、尻尾がモゾモゾと動き出した。


 え?

 ええ!?


 わたしの手の上でモゾモゾ動く黒い尻尾、そのふさふさの毛がぺたりと倒れ、ハードなワックスにでも固められたかのようにぺったりとする。

 そして、くねくねと動いたと思ったら、先からパカリと裂け、赤い紐、いや、細い舌が出てきた。


 ……。


 裂けた尻尾の上部に二つの切れ目――いや、赤い目が開き、蛇の姿になった尻尾ちゃんがこちらを恐る恐るといった感じに見てきた。


 ……。

 ……。

 ……。


 え、えええ!?

 いや、驚きすぎて「え? あ? 初め、まして?」としか言えなかった。

 すると、逆再生をするように蛇から尻尾に戻ってしまう。

「あぁ~!

 もうちょっと、ね!」

とかシャーロットちゃんがケルちゃんの尻尾に向かって言っているけど、蛇の姿には戻らない。


 え、ええっと?


 混乱しているわたしに、ヴェロニカお母さんは少し呆れたような顔で「で? 何が証拠なの?」と言ってくる。

 それに対して、わたしは返す言葉がなかった。



――


 朝、起きた!

 上半身を起こし、伸びをする。

 暑くもなく、寒くもない今の時期は何時までも寝ていたい衝動に駆られる。

 ……スロー、ライフ。

 いや、ダメダメ、絶対にシルク婦人さんに怒られる。

 ため息をつきつつ、布団から出る。

 振り返ると、布団の中でシャーロットちゃんが「尻尾ちゃん、良かったねぇ~」とかむにゃむにゃ言いながら眠っている。


 可愛い!


 服を着替えて、部屋から出る。

 中央の部屋食堂に行くと、ケルちゃんが嬉しそうにお座りをしていた。

 ふむ。

 三首をまずハグをする。


 モフモフ温かぁ~い!


 次に後ろを覗く。

 尻尾ちゃんがゆっくりと首を(?)振っている。

「おはよう!」と声をかけると、ピクっと震え、再度、首を振っている。

 先ほどより振り幅が大きいので嬉しいのかな?

 撫でて上げつつ、三首に「早く早く」と促されるので外に出して上げる。


 因みに、ケルちゃんの尻尾ちゃんについては、話題に上がらなかっただけで皆が知っていたとのことだった。

 というより、わたしだけが知らなかったらしい。

 イメルダちゃんなんかは「え? サリーさん、なんで知らないの?」とか言い出す始末だ。


 凄くショックだ!


 ご飯も結構最初期からシルク婦人さんが上げていたらしい。


 無茶苦茶ショックだ!


 あの後、ケルちゃんに聞こえないようにヴェロニカお母さんと相談し、極力町には連れて行かないことにした。

 まあ、問題ないとは思うけど、何かの弾みでばれると大騒ぎになるからね。

 わたしに気づかれなかったんだから、ほぼ大丈夫だとは思うけど、一応ね。


 そんなことを考えつつ家の中に戻る。

 わたしの小さな家の中から姉姫ちゃんが手を振ってくれたので、振り返しつつ洗面所に向かう。

 顔を洗い、妖精メイドのサクラちゃん達に髪を三つ編みにしてもらい、天井から下りてきたスライムのルルリンを肩にのせ、飼育小屋に向かう。

 卵と山羊乳を頂き、シルク婦人さんに渡す。

 食料庫に向かい、ルルリンにブドウを上げつつ戻ると、イメルダちゃんがテーブルを拭いていた。

 いつものように、龍のジン君がその回りを飛んでいる。

「おはよう!」と挨拶をすると、姉的妹ちゃんも「おはよう」と返してくれる。

 そして、訊ねてきた。

「サリーさん、今日は何をするの?」

「う~ん、何をしようかな?

 取りあえず、当面の問題は片づけたし、町にも用はないし、家の様子を少し見て回ろうかな?

 植物育成魔法で、食料庫を埋めつつ」

「ああ、なら、甘芋をもう少し、育ててくれない?

 お昼とかに、よく食べていたから結構減っているのよ」

「うん、分かった」

 そんな話をしつつ、朝ご飯用のパンを作る。

 すると、シャーロットちゃんが中央の部屋食堂に入ってきた。

 可愛らしい妹ちゃんは、わたしを見ると嬉しそうに駆け寄ってくる。


 可愛い!


「サリーお姉さま、お姉さま、おはよう!」

「うん、おはよう!」

「おはよう」

 シャーロットちゃんの元気いっぱいの挨拶に、わたしとイメルダちゃんが挨拶をする。

 シャーロットちゃんが続ける。

「サリーお姉さま、ケルちゃんの尻尾ちゃんのお名前は何にしたの!?」

「え?

 あ、そうだよね。

 尻尾ちゃんにも名前を付けないとね。

 シャーロットちゃんが付ける?」

 訊ねるも、シャーロットちゃんは「サリーお姉さまが付けて!」とニコニコしながら言う。

「う~ん、そうだなぁ~」


 何が良いのかな?

 やっぱり、三首の名前に近い方が良いよね。

 そうなると、英語になるんだけど……。

 バック?

 男の子だったら、ばっくんでも良かったかも知れないけど、女の子だからなぁ~

 もしくは、ビハインド?

 あ、リア!

「リアちゃんにしよう!」

「リアちゃん?

 うん、可愛い!」

 シャーロットちゃんも気に入ってくれたのか、嬉しそうだ。

 イメルダちゃんが「どういう意味なの?」と訊ねてきたので、「確か、魔術語で後部って意味だったはず」と答えると「ふ~ん」と感心したように頷いてくれた。


 まあ、実際に魔術語で使われている言葉かどうかはよく分からないけど……。

 英語イコール魔術語って事で!



 朝ご飯を食べた後、洗濯物をする。

 それを終えた後、ケルちゃんと一緒に再度、外に出る。

 因みに、ケルちゃんの尻尾ちゃんはリアって名前を気に入ったらしく、大きく左右に揺れていた。

 ……蛇の姿にはなってくれなかったけど、シャーロットちゃんが「リアちゃん、凄く喜んでいる!」とはしゃいでいたので、多分、喜んでくれた、ということにした。


 天気は結構良い!


 そうだなぁ~

 サツマイモ甘芋を作った後、ケルちゃんと少し、我がの回りを散歩するのも悪くないかな?

 そんなことを考えていると、何かが結界に近づいてくる気配を感じた。


 ん?

 蟻さんかな?


 気配の方に向かって歩く。

 木々の隙間から、黒いボディーの彼らが見えてきた。


 やっぱり蟻さんだ。


 何か良い種でも持ってきてくれたのかな?

 わたしに気づいた先頭の蟻さんが、なにやら自慢げに胸を張っている。


 おお~

 これは期待でき――。


 わたしは後続の蟻さんが運んでいるものに目を見張った。

 最初は大きな鳥かな? と思った。

 だけど、翼の元にあるのは、鳥のものとは違った。


 羽根のある女の子? かな?


 ぐったりとしていて、目を閉じている。

 褐色の肌に、羽と同じ茶色の髪、上は前世で言う袖なしシャツノースリーブ、下にはミニスカート――いや、股の分かれたキャロットスカートかな? それを履いていた。

 空を飛ぶには寒そうにも見えるけど、腕や足には豊かな体毛が有るので苦にはならないのかもしれない。

 よく見ると、所々に傷が有り、頭部からも赤い血が滲んでいる。

 右の翼が折れていて、白い骨が覗いていた。

 凄く痛そうだ。

 慌てて駆け寄ると、大蟻君が彼女を地面に仰向けで降ろした。


 っていうか、この子、生きているのかな?

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