ケルちゃんを見せに行こう!
朝ご飯を食べて、洗濯をした後、町に行く準備をする。
すると、ニコニコ顔のヴェロニカお母さんが近寄ってきた。
そして、辺りを見渡した後、「ケルちゃんは組合長に駄目だと言われたらすぐに連れて帰ってきてね。あと、目立たないようにね」と念を押される。
「うん、分かった」
と応えた。
近寄ってきたケルちゃんが”大丈夫! 良い子だから!”と言うように三首して「がうがう!」主張した。
ヴェロニカお母さんは困った顔をしながら「ええ、もちろん、分かっているわ」と言いつつ、三首を撫でた。
フェンリル帽子を被り、ケルちゃんと共に外に出る。
車庫からケルちゃん用の荷車を出していると、麦わら帽子を被り、ジン君を体に巻き付けたイメルダちゃんが「いってらっしゃい。気をつけてね」と見送りに出てくれる。
近くには、近衛兵士妖精の
「うん、あ! そうそう」
と言いつつ、山羊さん達に雑草を食べて貰う件を、宰相様に相談する。
少し驚いた顔をしていたイメルダちゃんは、少し考えつつ答える。
「山羊に雑草の駆除をさせる、良い方法ね。
サリーさんが出かけている間に、試して見るわ」
わたしがいる時の方が良い気がしたけど、近衛兵士妖精の
青空君だったら、少々不安だけど、黒風君ならまあ、大丈夫でしょう。
怒るから、絶対に口にはしないけど。
荷車を付けた後、ケルちゃんに跨がる。
飛んできた近衛兵士妖精の白雪ちゃんを胸に入れ、イメルダちゃん達に手を振り出発する。
合流してきた白狼君達と共に、森を抜け、川を越え、草原に出る。
赤ライオン君が木陰の下で悠然と横になっていた。
こちらに視線を向けてきた
しばらく進むと、何かの気配を感じる。
視線を向けると、黄緑色の細い体躯の彼が姿勢を低くしてこちらを見ていた。
緑チーター君だ。
人間の間では
足が速く、短距離ならわたしと余り変わらないぐらいの速度が出る。
もっとも、走る距離が長くなるとすぐに息切れをしてしまうのと、体が軽く耐久力も無いので、ママの森では弱い部類に入る魔獣君だ。
そんな彼が、生意気にもこちらを狙っている。
ふむ。
ママの洞窟近辺では弱いと言っても、白狼君なんかよりは遙かに強いので、攻撃態勢に入られるのも宜しくない。
その前に間合いを詰めるか、それとも、白いモクモクで壁を作って自爆を誘うか……。
そんなことを考えていると、レフちゃんが元気よく「がう!」と吠えた。
ああ、今日はレフちゃんがいたね。
ちょうど、緑チーター君の位置も左側だ。
「じゃあ、よろしく」
とお願いすると、レフちゃんが緑チーター君に向かって「ごう!」と吠えた。
途端、ビクッと震えた緑チーター君はぐにゃりと倒れた。
レフちゃん、強い!
白狼君達が駆けて、トドメを刺しに行った。
「あれ、
と訊ねると、了承するように吠えてくれたので、”食べて良いよ!”と言いつつ、そのまま進む。
林に到着すると、白狼君達は帰っていった。
それを見送った後、わたし達は以前基地としていた場所に向かって進む。
おや?
目的の場所に山吹色っぽい布の何かが見えた。
テントかな?
前も張っていたけど、ケルちゃんのために今回も張ってくれたのかな?
ずいぶん大げさだなぁ。
なんて、少し呆れつつ近寄る。
ん?
中から感じられるのは複数人の気配――組合長のアーロンさんだけじゃないのかな?
そんなことを考えつつケルちゃんから下りる。
荷車を外した後、念のため、ケルちゃんにはその場に待ってて貰うと、中を覗く。
何故か小白鳥の団の皆や、赤鷲の団のアナさん、火蜥蜴の団のおじいちゃん達が待ち構えていた。
あと、奥には魔獣使いのエイダンさんやその魔獣であるキズナシ君もいた。
キズナシ君など嬉しそうに立ち上がり「ガウガウ」言っている。
えぇ~!
わたしに気づいた小白鳥の団団長のヘルミさんが嬉しそうに破顔する。
「あ、サリーちゃん!
やっと来た!」
「いや、え?
なんで、ヘルミさん達がいるの!?」
わたしの問いに、小白鳥の団長さんは満面の笑みで言う。
「そりゃ、サリーちゃんの可愛らしい魔獣ちゃんを見に来たに決まってるでしょう!」
えぇ~!
「教えてなかったよね!
今日、ここに連れてくるって!」
わたしの問いに、エイダンさんが申し訳なさそうに言う。
「ごめん。
キズナシが落ち着かなくてさ、それに気づいたヘルミさんに訊ねられて、今日、組合長に見せに来ることを話しちゃった」
えぇ~!
さらに、アーロンさんがこの場所で準備をしていることを知り、ヘルミさんの直感的に、ここで待ち合わせていると気づいたとのことだった。
無駄に勘が良い!
「さあさあ、ケルちゃんだっけ?
紹介してよ!」
とヘルミさんは近づいてくる。
クッカさんやリリヤさんも、そして、「わたしも興味があって!」というアナさんや「変わった子だと良いのう」とか言いつつ、火蜥蜴のおじいちゃんも近づいてくる。
えぇ~!
このまま、会わせて良いのかなぁ~
なんて悩んでいると、「がう!」「がう!」「ご!」という声と共に、わたしの背に温かいものが乗っかった。
「あ、こら!」
待ちくたびれたのか、ケルちゃんがわたしにのし掛かるようにしてきたのだ。
「うわぁ~!
本当に大きいわね」
わたしの背後から現れた三首に、ヘルミさんが目を丸くしている。
他の皆も同じように驚いている。
「柔らかそう!
撫でさせて!」
と言いつつ、ヘルミさんが嬉しそうに駆け寄ってくる。
他の女性陣も同じだ。
あぁ~!
もう無理だぁ~!
最初に気づいたのはヘルミさんだった。
「あ、この子、首が三つあるのね!」
「本当だ!」
「変わっているわね」
ヘルミさんに続き、リリヤさん、クッカさんも驚いている。
ただ、ヘルミさんは気にしないのか、わたしに「ねえねえ、撫でても良い?」と目をキラキラさせてきた。
わたしが許可を取ろうとするも、その前に三首とも嬉しそうにヘルミさんに頬ずりをし始めた。
ヘルミさんは嬉しそうに「うぁ~! 温かいし柔らかい!」などと言っている。
それを見たクッカさんやリリヤさんも「わたしも良い!」「わたしも!」と聞いてくるので「良いよ」と言って上げると、嬉しそうにケルちゃんに抱きついている。
お姉さん達に撫でられて、ケルちゃんも嬉しそうに「がうがう!」言っている。
怖がられるんじゃないかと心配していたけど、杞憂に終わったみたいだ。
などと安心していると、突然、「キャン!」という情けない鳴き声が聞こえて来た。
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