ヴェロニカお母さんと笛!

 朝、起きた!

「サリーお姉さま、はんばぐ、もっと~」

とかむにゃむちゃ言っているシャーロットちゃんや、フェンリルぬいぐるみと一緒に龍のジン君を抱きしめるイメルダちゃんを見てほんわかしつつ、起こさないよう注意しつつ、布団から抜け出る。

 着替えた後、中央の部屋食堂に行くと、ケルちゃんが嬉しそうに座っていた。

「おはよう!」

とハグをして上げると「がうがう!」と凄く嬉しそうにした。


 ご機嫌だね、天気が良いの?

 え?

 違う?

 ああ、町に行けるからかな?


 そのように訊ねると、”その通り!”と言うように「がうがう!」はしゃぎ始めた。


 はいはい、まだ寝ている人もいるから、静かにしようね!


 ケルちゃんを外に出して上げた後、少し、外を見渡す。

 晴天の下、酔っぱらいが転がっている事態は……無かった。

 昨日、わたし達が寝る前に見た、酒飲み共の興奮した様子から、少し懸念されたけど……。

 綺麗に片付けもされている事から、節度を守ったのか、シルク婦人さんに怒られたのかは分からないけど、まあ、一応、問題なく終わったようだ。

 代わりに目に付くのは、そこそこの高さになってきた雑草たちだ。

 畑や妖精姫ちゃんの花壇などは管理されているので無いが、それ以外の場所に結構生えている。

 気になった箇所はそれなりの頻度で抜いてはいたんだけど……。

 う~ん。

 どこかの機会に腰を据えて、雑草抜きをしないといけないなぁ。


 そんな事を考えつつ、家の中に入る。

 洗面所に向かいつつ、わたしの小さい家に視線を向けると、家の前で姉姫ちゃんが、わたし達が時々やっているラジオ体操(もどき)をやっていた。

 白のワンピースで元気いっぱいな感じに体を動かしている姉姫ちゃん、可愛い!

 わたしに気づいた姉姫ちゃんが大きく手を振ってくれたので、振り返しておいた。


 顔を洗い、身支度を整え、妖精メイドのサクラちゃんとスライムのルルリンを肩に乗せ、シルク婦人さんから壺と籠を受け取る。

「昨日の夜はどうだった?」

と訊ねると、シルク婦人さん、薄らだけど苦笑しつつ「何とか解散」とぼそりと呟くように言った。


 ほどほどの時間に何とか解散させたって事かな?

 お疲れ様です!


 飼育小屋に入ると、元気いっぱいの雛ちゃん達が纏わり付いてきた。

「はいはい、後でご飯を上げるからね」と宥めつつ、「こっけこっけ!」と相変わらず騒々しい雄の赤鶏君の鶏冠を軽く引っ張りつつ、卵を頂き、餌を与える。

 移動し、不満そうな山羊さんを「外は良い天気だったよ」と宥めつつ、乳を頂く。

 あ、そういえば、Web小説で山羊を使って雑草の駆除をさせるって書いてあった気がする。

 一辺試してみようかな?

 そんな事を考えつつ、餌を上げる。

 その後、羊さんにも餌を上げる。

 う~ん、今日も黄金羊さん元気が無いなぁ。

 白羊さんだけではなく、山羊さん夫妻もなんだか心配そうに見ている。

 でも、「どうしたの?」と聞いても”気にするな”と言うように「メェ~」って鳴くだけだから、打つ手が無いんだよね。


 気になりつつも、山羊さんと共に外に出して上げる。


 台所に戻り、シルク婦人さんに卵と乳を渡す。

 そして、籠を持って食料庫に向かう。

 食材を籠に入れつつ、ルルリンにサクランボを上げつつ中央の部屋食堂に戻ると、龍のジン君を体に巻き付けたイメルダちゃんが、飛んでいる姉姫ちゃんと何やら話をしていた。

 イメルダちゃんの手には茶色の棒があった。

 棒というか、笛かな?

「おはよう、どうしたの?」

 わたしが訊ねると、イメルダちゃんはこちらを向き応えてくれる。

「おはよう。

 姉姫ちゃんが笛を吹いて欲しいって言ってるみたいなんだけど、わたくし、まだ習ってないのよ」

 姉姫ちゃんに視線を向けると、”吹いて! 吹いて!”という様に身振り手振りをしている。

「どうでも良いけど、それ、どうしたの?」

 わたしが訊ねると、姉姫ちゃんが身振り手振りで言う。


 え?

 ヴェロニカお母さんが吹いて倒れた笛を参考に、物作り妖精のおじいちゃんが作った?

 いや、そんな危険なものを吹かせないでよ!

 え?

 参考にしただけで、別物?

 そうかもしれないけど……。

 え?

 わたしが吹くのでも良い?

 わたしだって吹いた事なんて無いんだけど……。

 え?

 構わない?


 仕方がなく、吹いて上げる事にする。

 ヴェロニカお母さんが倒れた事を、後で聞かされたイメルダちゃんが「大丈夫なの?」と心配そうにするけど、「まあ、物は違うし問題ないんじゃないかな?」と応えておく。

 吹き方なんてよく分からないから、取りあえず、適当に指で穴を抑えつつ、吹いてみる。


 甲高くも不可解な音が響く。

 んんん?

 魔力が吸い出されるって事は無いみたいだけど……。

 中々、綺麗な音にならないなぁ~


 なんて、試行錯誤をしていると、横から笛が奪われた。

 そちらを向くと、何やらぷりぷり怒っている姉姫ちゃんが笛を振りながら身振り手振りをする。


 え?

 違う?

 そんな変な音じゃない?

 いや、だから吹けないって言ったじゃない……。

 え?

 失格?

 えぇ~!


 そんな事をやっていると、ゴロゴロルームから、ヴェロニカお母さんが出てきた。

 そして、訝しげな顔で訊ねてくる。

「何か、奇っ怪な音が聞こえてきたけど、どうしたの?」

 なので、姉姫ちゃんにお願いされて、笛を吹いた事を説明する。

 ヴェロニカお母さんは面白そうにふふふと笑う。

「習っていないと、綺麗な音にはならないわよ。

 貸してみて」

 手を伸ばしてきたので、ポケットからハンカチを取り出すと、口を当てた所を拭く。

 そして、ヴェロニカお母さんに渡した。

 ヴェロニカお母さんは、楽しそうにそれを受け取ると、それを口に当てた。


 それはおとではなく、音色ねいろだった。

 綺麗で柔らかな笛のが、部屋中に響き渡った。

 ヴェロニカお母さんの白くて細い指が横笛を押さえるごとに、澄んだ音が流れてきて、とても心地よかった。


 一通り吹き終えると、ヴェロニカお母さんは笛から口を離す。

 わたしは思わず、拍手をした。

 イメルダちゃん、いつの間にか来ていたシャーロットちゃんも、妖精ちゃん達も台所から出てきたシルク婦人さんもそれに続いていた。

 ヴェロニカお母さんはちょっと照れくさそうに笑うと、軽く一礼をする。

 シャーロットちゃんが「お母さま凄い!」と駆け寄り、抱きついた。

 わたしも「本当に凄かった!」と言うと、イメルダちゃんも「本当に」と頷いている。

 小さな家の前に置かれた揺り椅子に座る、妖精姫ちゃんや姉姫ちゃんもニコニコしながら、コクコクと頷いている。

 ヴェロニカお母さんは「嗜み程度よ」と笑っていたけど、それ以上だと思うけどなぁ。

「何だったら、今度教えて上げようか?」と言ってくれた。

「じゃあ、時間がある時にでも教えて」とお願いすると、ヴェロニカお母さんは嬉しそうに頷いた。

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