サンドイッチは駄目?

 ん~


「やっぱり、ケルちゃんを町中に入れるの、マズイのかな?」

 わたしが訊ねると、ケルちゃん達がヴェロニカお母さんを悲しげに見つめる。

 そして、”何でそんな事を言うの?”という様に「がっがう……」「がう~」「がう……」と鳴く。

 ヴェロニカお母さんは慌てて「違うのよ、ケルちゃんが悪い訳じゃないのよ!」と慌てて、三首をハグする。

「わたくし達はケルちゃんが凄く良い子だって知っているけど……。

 ただ、首が三つある子は凄く珍しいから、皆が驚くんじゃないかってね!」


 やっぱり、珍しいのかぁ~

 騒動になるのは本意じゃないし、まあ、あり得ないけど、下手をしてケルちゃんが傷つけられるような事態は避けたい。


「アーロンさんに駄目って言われたら、諦めようね」

とケルちゃんの背中を撫でて上げると、こちらをバッと向いた三首が、”やだやだ!”と言うように顔をわたしに擦りつけてくる。


 凄く可愛いけど、こればかりは仕方がないの!


 わたしはケルちゃんを宥めつつ、この場に、一番小さい妹ちゃんしかいないので、ワイバーン偽竜君の件を、ヴェロニカお母さんに教えておいた。


 ヴェロニカお母さんは頭痛を堪えるような顔をしながら聞いていた。

 そして、わたしが話し終えると、一つため息を付いた。

「良くないわね。

 サリーちゃん、今後は今回の様な事をするのは控えた方が良いわね」

「やっぱり、駄目だった?」

「そうね……。

 サリーちゃんの行いは善悪で言えば、間違いなく善ではあるけど、世の中にはそこにつけ込み、全てを奪わなければ気が済まない人種が存在する事は覚えておいて欲しいわ。

 特に相手がね、正しい領主なら、もしくは優秀な領主なら、当然問題ないのだけど……。

 無能で強欲な領主の場合は、ね。

 ……でも、法令で禁止されているはずなのだけど――」

 物思いにふけ始めたヴェロニカお母さんを眺めていると、上の方で何かが動く気配を感じた。

 視線を向けると、屋根裏に向かう入り口がゆっくりと開く所だった。

 そして、隙間から妖精メイドのウメちゃんが顔を覗かせた。

「シャーロットちゃんを下に降ろすの?」

と訊ねると、わたしに気づいたウメちゃんがニッコリと微笑み頷いてくれる。


 可愛い!


 足から出した白いモクモクを階段状にすると上る。

 そして、ウメちゃんの代わりに顔を出したシャーロットちゃんに手を伸ばす。

 わたしに気づいたシャーロットちゃんは「サリーお姉さま、お帰りなさい!」と嬉しそうに言ってくれる。

「ただいまぁ~!」

と言いつつ、妹ちゃんを抱き上げると、「きゃっきゃ!」と嬉しそうに抱きついてくれた。


 可愛すぎる!



 今日は早く帰って来れたので、皆と軽くお昼ご飯を食べる。

 まあ、パンと簡単な炒め物ぐらいだ。

 少し、寂しい内容だけど、この世界――ひょっとして、この地域? かな、よく分からないけど、お昼は軽く済ませるのが一般的らしいので、この辺りは諦めている。

 でも、う~ん……。

「サンドイッチは無いのかな?」

「さんど?

 何それ?」

 イメルダちゃんが訝しげに訊ねてくる。

 この辺りには無いのかな?

「えとね、パンにバターを塗って、卵とかの具を挟んで食べるの」

 そう説明すると、「また変なことを考えるわね」

と呆れた顔をされてしまった。

 え~

 変なことかな?

 すると、シルク婦人さんがティーポットを持って近寄ってきた。

 そして、薄らとだけど、険のある顔で言う。

「賭場挟み」

「え?」

「下品」

「えぇ~

 そうなの?」

 ヴェロニカお母さんも少し困った顔で言う。

「多分、サリーちゃんが言っている料理は、賭場で良く食べられているものなのよ。

 なので、敬遠されがちなのよねぇ」

 えぇ~

 異世界ではそんな話になってるの?

 あれ?

 そういえば、前世でもトランプをしながら食べやすいとかWeb小説に書いてあった気がするから、似たような感じなのかもしれない。


 シャーロットちゃんは「食べてみたい!」と言ってくれたけど、シルク婦人さんは首を大きく横に振る。

 えぇ~

 美味しいと思うけどなぁ~

「一度、試食してみてよ」

と言うも「下品」と返ってくるだけだ。

 ここまで頑なだと、少なくとも今日は無理だなぁ~

 なんて考えていると、妖精姫ちゃんがすーっと飛んでくる。

 そして、身振り手振りをする。


 え?

 早く作って欲しい?

 姫ちゃんもサンドイッチ食べたいの?

 え?

 違う?

 ぼよぼよ?

 ああ、プリンね。


 そういえば、朝に作って上げると約束してたんだった。

 ヴェロニカお母さんも「楽しみだわ~」なんて嬉しそうにしている。

 仕方がないなぁ~



 シルク婦人さんに手伝って貰いつつ、プリンを作った。

 完成したのをテーブルに並べると、皆、キラキラした目で見ていた。

「どうぞ」と勧めると、一斉に食べ始めた。

 そして、「美味しい!」と大絶賛だ。

 シャーロットちゃんも「サリーお姉さま! 凄く美味しい!」とニコニコ言ってくれるし、イメルダちゃんも「わたくし、これ凄く好きだわ」とウットリしている。

 ヴェロニカお母さんなんて「三食全てこれで良いわ」などと狂ったことを言ってるし、妖精姫ちゃんも姉姫ちゃんも、そして、他の妖精ちゃん達も、小さいスプーンを口にくわえて、恍惚とした顔をしている。

 もちろん、わたしも頂く。

 う~ん、自分で作っておきながらなんだけど、凄く美味しい!

 ヴェロニカお母さんほどではないけど、毎日食べたい!


 ……作っちゃおうかな?

 白いモクモクがあれば、そこまで大変じゃないし。


 などと考えていると、近寄ってきたシルク婦人さんに「毎日、体に良くない。たまに」と言った。


 ヴェロニカお母さんが「えぇ~!」と不満げな声を上げ、妖精姫ちゃん達が”毎日食べたい!”と身振り手振りをしたけど、シルク婦人さんは「たまにじゃなければ、無し」と断固とした声で言うものだから、皆、シュンとしてしまった。

 ま、まあ、確かに毎日は駄目かな?

 食べ過ぎると太りそうだしね。


 もう一口食べる。

 うん、美味しい!

 ……でも、そうだなぁ~

 ホイップクリームがあれば、なお良いなぁ~

 Web小説では定番だし、一応押さえて入るんだけど、ゼラチンの作り方が良く分からないんだよね。

 豚とかの皮を煮込めば良いとかあった気がするんだけど……。

 シルク婦人さんも分からないようだし、町で聞いてみようかな?

 そんなことを考えていると、隣に座るシャーロットちゃんがニコニコしながら訊ねてくる。

「ねえねえ、サリーお姉さま!

 伝説中の伝説のお肉料理、今日作ってくれる?」

「ん?

 そうだね、今日作ろうか?」

「うん!」

 満面笑みで頷いてくれるシャーロットちゃん、可愛い!

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