怪しい宗教団体現れる?
しかし、自分の領土に落ちているものは、自分のものって凄い暴論だよね。
しかも、林の部分って領主様の管轄外だと思うんだけど……。
一番トップがそんな無茶な事を言うんだ。
小白鳥の皆が、拾った銀の笛を届けない訳だよ。
回り回って、自分にとっても損になりかねない気がするんだけどなぁ。
あと、ケルちゃんについて、明日連れてくるように言われる。
場所は以前、赤大鹿君の討伐基地で使った所、とのこと。
なにやら、「覚悟はしておく」とか言われた。
ケルちゃんは可愛いから、そんな必要は無いけどね。
むしろ、ケルちゃんのモフモフに癒やされれば良いと思う。
また、最近、怪しげな宗教団体が町に入り込んでいるとの事だった。
黄色い頭巾を被り、奇声を上げているのだとか……。
「サリー、頼むから関わらんでくれよ!
これ以上は、わしの胃が……」
などと、懇願されてしまった。
いや、わたしだって、そんな宗教団体なんて、絶対に関わりたくないよ!
そんな風に思い返していると、目の前に見覚えのある犬の後ろ姿が見える。
「お~い、エイダンさん! キズナシ君!」
わたしの声に振り向いた魔獣使いのエイダンさんは、温和そうな顔を緩める。
「やあ、サリーちゃん。
久しぶりだね!」
「うん」
と言いつつ、キズナシ君の頭を撫でて上げようとする。
だけど、闘犬系ワンちゃんな彼は、何故か、それを避けるようにプイっと横を向いた。
えぇ~!
エイダンさんが苦笑する。
「君の所の子になかなか会えないから、へそを曲げているんだよ」
「そうなの?」
背けた顔を覗くように体を移動すると、再度、避ける。
えぇ~!
「明日、ようやく従魔登録が出来るようになるみたいだから、近いうちに会えるよ?」
と言って上げると、とたん、”本当に!?”という様に顔をこちらに向けた。
この男子系わんちゃん、本当に現金だなぁ。
「うちの子に会えるの、そんなに嬉しいの?」
とからかいつつ、うなじ部分を撫でて上げると”いや、そんなんじゃないしぃ~”と言うように「がうがう」言っている。
仕方がない、男子だ!
あ、でも、明日の結果次第では難しいかなぁ~
その事をエイダンさんに話すと「制御が出来ないほどの子じゃなければ、大丈夫だよ」と笑っていた。
ならいいんだけど……。
そんな事を話していると、突然、変なかけ声が聞こえてきた。
ん?
視線を向けると、なにやら、黄色い頭巾を被った人たちが「あぁ~! あぁ~!」とか声を上げて、こちらに歩いてくる。
「え?
なに?」
わたしが声を漏らすと、エイダンさんが苦笑しながら教えてくれる。
「サリーちゃんは初めて見たのかい?
ここ最近、町を徘徊し始めた宗教団体だよ」
「ああ、あれが」
関わり合いになりたくないので、わたしとエイダンさんは道の端に避ける。
エイダンさんに引っ張られたキズナシ君はそれに従いつつも不満そうに、黄色い頭巾の宗教団体を眺めている。
そんなわたし達を一瞥もせぬまま、黄色い頭巾の集団は、通り過ぎていく。
「あぁ~! あぁ~! 黄色の君! あぁ~!」
皆、凄く熱心にかけ声? 呪文? よく分からないけど、叫んでいる。
「何の神様を信仰してるんだろう?」
わたしが呟くと、エイダンさんは首を捻る。
「よく分からないんだよね。
訊ねた奴もいるけど、黄色い偉大な方? って叫ぶだけらしい……。
少なくとも、六神のどれかという訳でも無さそうだ」
「ふ~ん」
まあ、いいか。
関わる気も無いし。
そんな事を考えていると、突然、黄色い頭巾集団の先頭の人が、大声で叫ぶ。
「ああ、わたしには分かる!
星を欠片のように支配するあの方が求めて止まぬものが、この地にある!
あぁ~! あぁ~!
あの方が、この地に降臨されようとしている!
集え、称えよ!
あぁ~! あぁ~!
黄金色の酒を飲み、笛を吹け!
あぁ~! あぁ~!
黄色の君!
我らの願いを叶えたまえ!」
それに合わせて、後ろの人たちも「我らの願いを叶えたまえ!」と叫ぶ。
なんかこの人達、中二病とか言っていられないほど、必死だ。
怖い!
エイダンさんと顔を見合わせ、うなずき合う。
そして、その人達から離れるように、そっと移動した。
我が
結界石に注意しつつ中に入ると、龍のジン君を巻き付けたイメルダちゃんが「お帰り」と言いつつ近づいてきた。
近衛兵士妖精の白雪ちゃんと日傘を差す妖精メイドの黒バラちゃんも一緒だ。
「ただいま!
冷房の魔道具を買ってきたよ」
と言いつつ、荷車の覆いを少し捲る。
中には色んな種類の魔道具がある。
風を起こすのと、除湿するものがそれぞれ五つずつだ。
さらに、それ用の魔石も買ったので結構な金額になったけど……。
まあ、健康には代えられないからね。
イメルダちゃんもそれを見て、頷いてくれる。
イメルダちゃんはもう少し、畑を見るとの事なので「無理しすぎないようにね」と注意しつつ家に向かう。
途中、妖精メイドのサクラちゃんが飛んできて、魔道具を家の中に入れておくと身振り手振りしてくれる
ありがとう!
荷車を車庫に入れて、「ただいまぁ~」と言いつつ家に入る。
揺り椅子に座るヴェロニカお母さんが「お帰り」とニッコリ微笑んでくれた。
その隣にはエリザベスちゃんの入った籠があり、その逆にはケルちゃんが座っていた。
ヴェロニカお母さんの手は、嬉しそうに顔を伸ばすセンちゃん達の頭を順に撫でていた。
「あれ?
シャーロットちゃんは?」
と訊ねると、ヴェロニカお母さんはニコニコしながら、天井を指さす。
ああ、屋根裏に行ってるんだね。
「上ってどうなってるんだろう?」
と呟くと、ヴェロニカお母さんは「そっとしておいて上げたら」と笑った。
う~ん、でも気になるんだよね。
そんなことを考えていると、ヴェロニカお母さんは椅子から立ち上がる。
そして、テーブルに近づくと、その上にある袋を手に取った。
「いつでも良いから、
「うん、分かった」
袋を受け取っていると、ケルちゃんが近寄ってくる。
この子は本当に、甘えん坊だなぁ。
腰に頬ずりをしてきたライちゃんの頭を撫でて上げる。
ふわふわな毛が柔らかで良い撫で心地だ。
「ケルちゃん、明日には町に連れて行って上げられるからね」
と言って上げると、三首ともこちらを向き、嬉しそうに「がう!」「がう!」「がう!」と吠えた。
だけど、何故かヴェロニカお母さんがギョッとした顔をする。
そして、ぎこちない笑みを浮かべつつ訊ねてくる。
「……ケルちゃんを町に入れるのは、その、冒険者組合の組合長はご存じなのかしら?」
「ん?
知ってるよ」
応えると、ヴェロニカお母さんは少し焦ったように言う。
「く、組合長は良いと言ったの?
その、明日、ケルちゃんを町に入れるって事……」
「ん?
ああ、町に入れる前に、あらかじめ確認するって」
「あ、ああ、そうなのね」
と言いつつ、何やら安心したような顔になった。
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