黄金羊さん、元気が無くなる?

 カーテンはウメちゃんに任せて、服に着替える。

 そして、部屋から出る。

 中央の部屋食堂に入ると、ケルちゃんが、外の天気が良いからか、興奮した感じに座っていた。

 はいはい、良かったね!

とモフモフな毛にハグをした後、外に出して上げる。


 晴天の中、駆け回るケルちゃんは微笑ましい。


 ふむ。

 今日は冷房の魔道具を組合長のアーロンさんから受け取る手はずになっている。

 その時、ワイバーン偽竜君の受け渡しも上手くいったか確認しないとね。

 そうそう、ケルちゃんの従魔登録、明日することになっているから、その確認もしなくちゃならない。

 そんな事を考えていると、後ろの扉が開く気配を感じた。

 振り返ると、ヴェロニカお母さんだった。

 何やら嬉しそうに、そして、眩しそうに空を見上げている。

「おはよう、サリーちゃん。

 この分だと、今日も夜空は綺麗そうね」

「今日もお酒を飲むつもり?」

 わたしが呆れた感じに言うも、ヴェロニカお母さんは両手を握りながら強い意志を感じさせる目で言いきる。

「当たり前よ!

 昨日は結局、全然飲めなかったのだから!」


 えぇ~


 昨日、魔力欠乏から立ち直ったヴェロニカお母さんは、お酒の席を続けると言い張り始めた。

 わたしどころか、酒飲み仲間である妖精姫ちゃんや物作り妖精のおじいちゃん達ですら、”今日は止めておいたら?”と身振り手振りをしているにもかかわらずだ。

 最終的には、シルク婦人さんから「馬鹿な事を言ってないで、今日は寝なさい」という、婦人さんには珍しい長文で怒られ、シュンとして諦めていたけど……。

 家に入りながら「明日! また明日ね!」とか言っていた。


「ずいぶん長い間、待たされた訪れた機会なのよ!」

とか何とかしみじみとした感じに言っているけど、この大人……。


 井戸を掘る時に手伝って、葡萄酒を貰い、飲んでいるから、別にそれほど間隔は空いていないはずなんだけどなぁ~


 まあ、そのことを突っ込んでも、下らない返答が帰ってきそうだから、あえて、指摘しないけどね。


 因みに、あのよく分からない笛は、悪役妖精がどこか遠くに捨ててくるとの事だった。


 どういうものかよく分からないので、持っている事も勿論だが、下手に壊すのも危険だと妖精姫ちゃんが指摘してくれたからだ。

 わたしとしても、そうして貰った方がありがたいと思っている。


 そんな事を考えつつ、ヴェロニカお母さんと一緒に家の中に戻る。

 顔を洗い、身支度を整えた後、スライムのルルリンや妖精メイドのサクラちゃん達と飼育小屋に向かう。

 中に入ると、ぴよぴよという声が聞こえてくる。

 雛ちゃん達、今日も元気いっぱいのようだ。

 ちっちゃくて可愛いその姿に癒やされつつ、餌を上げる。

 そして、卵を――お、もう産んでくれたの?

 今日は久しぶりに卵が三個、シルク婦人さんも喜んでくれるだろう。

 餌を少し多めに上げる。

 赤鶏さん、皆嬉しそうにしてた。



 次に山羊さんの元に向かう。

 山羊さんは相変わらず不機嫌そうで、赤鶏さんの方を顎でしゃくりながら、”うるさい!”と言うように「メェ~メェ~!」言っている。

 まあまあ、生まれたばかりだし、大目に見て上げようよ。

 宥めるように背中を撫でて上げつつ、乳を頂く。

 そして、餌を上げる。

 ん?

 いつもなら、”我らにもさっさと寄越せ!”と言うように近づいてくる黄金羊さんが、なんだか大人しいなぁ。

 白羊さんもその様子を心配そうに見ている。

 側によると、金ピカの毛ごと背中を撫でて上げた。

「どうしたの?

 調子が悪いの?」

 訊ねると、力なくわたしに視線を向けながら、”気にするな”というように「メェ~」と鳴く。

 どころか、”わたしの毛? いるか?”とでも言うように、「メェ~メェ~」言っている。


 えぇ~!

 いや、本当にどうしちゃったのさ!


 よく分からないけど、取りあえず餌を与えて様子を見る事にする。


 中央の部屋食堂に戻り、シルク婦人さんに「卵、三つ産んでくれた」と籠を渡すと、コクリと頷く婦人さん、どことなく嬉しそうだった。

 すると、妖精姫ちゃんがすーっと飛んできて、身振り手振りをする。


 え?

 ぽよぽよしたもの?

 あ、プリンの事?

 食べたいって事ね。

 そうだなぁ~


と言いつつ、視線をシルク婦人さんに向けると「一個」と端的に言った。

 一個分は作って良いって事かな?

「町から帰ったら、卵一個分、作って上げる」

と言って上げると、嬉しそうにくるくる飛び回っている。


 可愛い!


 食料庫に向かい、スライムのルルリンにラズベリーを上げる。

 ついでに、わたしとサクラちゃんもつまみ食いをした後、中央の部屋食堂に戻る。

 テーブルを拭いているイメルダちゃんがいた。

 その上を、龍のジン君がくるくる飛んでいる。

「おはよう」

と声を掛けると、わたしに気づいたジン君は、イメルダちゃんの体に巻き付く。

 そんな龍君を撫でつつ、イメルダちゃんは「おはよう」と応えてくれる。

 そして、続ける。

「今日は町に行くの?」

「うん。

 冷房の魔道具を受け取りにね」

 シルク婦人さんに食材を渡しつつ応えると「日中だと、少し暑くなってきたから、助かるわ」とイメルダちゃんは頷いた。

 そんな事を話していると、手芸妖精のおばあちゃんがすーっと飛んでくる。

 そして、何やら嬉しそうに身振り手振りで言う。


 え?

 もうすぐ、夏服が完成する?

 可愛く出来ているので、楽しみにして欲しい?

 それは嬉しい!


 イメルダちゃんも表情を緩めながら「それは楽しみね」と言っている。

 可愛い!



 朝ご飯を食べた後、洗濯物をする。

 途中、姉姫ちゃんが飛んできて、”わたしも町に行きたい!”と言うように身振り手振りをしてきたけど、慌てて飛んできた悪役妖精や近衛騎士妖精ちゃん達に回収されていった。


 本当に落ち着きが無いなぁ~姉姫ちゃんは。


 フェンリル帽子を被り、近衛騎士妖精の白雪ちゃんを胸にしまい、外に出る。

 外にいたケルちゃんが付いてきたそうに「がうがう!」近寄ってきたけど、従魔登録の準備が出来たらね、と背中を撫でて諦めて貰った。

 荷車を引きつつ、畑の様子を見ていたイメルダちゃんに「行ってきまぁ~す!」と手を振り出発する。

 白狼君達と合流し、川を越え、森を抜け、草原を走る。

 草原の真ん中に立つ木の、その陰で座る赤ライオン君を横目で見つつ、先を進む。


 赤ライオン君を恐れてか、活発に動く魔獣の数が減った気がする。


 まあ、現状、貯蔵している肉が売るほどあるので、わたしとしては別に構わないんだけど、白狼君は不満らしく、険しい目で赤ライオン君を見ていた。

 そうは言っても、君らで敵う相手ではないからね。

 こちらに向かってくるまでは、スルーしておこうね。

 そのように、がうがう言うと、白狼君達は致し方がないという顔で「がうぅ~」と鳴いた。

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