蜂蜜酒完成!

 白いモクモクを開けてみる。


 うわぁ!

 アルコール臭い!

 葡萄酒の時にも思ったけど、これ、美味しいのかなぁ。

 沈殿物が入らないように壺に入れて、取りあえず完成だ。


「シルク婦人さん、味見してみて」

 わたしが声を掛けると、野菜を切っていたシルク婦人さんは包丁を置き、近づいてくる。

 そして、壺の上で手を扇ぎつつ、匂いを嗅ぐ。

 少し考え込んだシルク婦人さんは、スプーンを手に取ると、少しすくい、口に入れた。

 小首を捻ったシルク婦人さんは、「水」と端的に言った。

「もう少し、水を入れた方が良いの?」

と訊ねると、こくりと頷いた。

 水を多めにして、再度作ってみる。

 改めて試飲をしてくれたシルク婦人さんは首を横に振る。

「水、少し多い」

 う~ん……。

 思ったより難しそうだ。



「疲れたぁ~」

 わたしが湯船に浸かりながら声を漏らすと「ずいぶん、沢山作っていたものね」と先に入っていたイメルダちゃんに呆れた顔をされてしまった。


 いや、別に好き好んで作った訳じゃないからね!


 あれから、五回ほど作り直し、何とかシルク婦人さんに合格を頂き、今度は五百ミリリットルサイズで挑戦した。

 が、割合を同じにしたつもりだったんだけど、量が増えたから微妙に変わってしまったらしく、シルク婦人さんからまさかの不合格を頂いてしまった。

 それから、二回ほど失敗し、作り直して、ようやく完成させたのだ。


 流石に疲れたぁ~とぐったりしていると、後ろから拍手が聞こえてきた。


 振り返ると、酒飲み共が揃っていた。

 揃って、目をキラキラさせていた。

 そっから、「これはママに送るものだから!」というもヴェロニカお母さん達が「お母様に送る前のお毒味を!」とか訳の分からない事を言いながらすがりついてきて大変だった。

 最終的に、シルク婦人さんが失敗作をヴェロニカお母さん達に押しつけ「これも飲める」と静かながらも断固として言ってくれたので、何とか追い払うのに成功した。

 もっとも、少し味見をしたヴェロニカお母さん達が「これもなかなか」とか”味比べをして楽しめる”とかやっていたから、所詮、酒飲み達の舌など、そんなものだと思ったものだ。


 因みにご飯を食べた後、酒飲み共は外でお酒を飲んでいる。


 軽運動室が無くなったので、我が家には酔っぱらい共の居場所はないからだ。

「夜空を肴に飲むお酒も楽しみね」なんて言っていたので、追い出されたという悲壮感は無いらしい。

 まあ、酔っぱらいあの人達の事はもういいや。


「蟹を茹でたのも送っておいたし、ママも喜んでくれたかな?」

「お酒のことはよく分からないけど、あの蟹は美味しいから、喜んで貰えたんじゃない?」

 イメルダちゃんとそんな事を話していると、シャーロットちゃんが不満そうにする。

「サリーお姉さま、お肉の方が良い!」

 それに対して、イメルダちゃんは「シャーロットはそればかりね」と呆れているけど、そうだなぁ。

「ふっふっふ。

 そろそろ伝説中の伝説をお目見えする時が来たようだね」

「伝説中の伝説!」

「そうだよ。

 驚くほど柔らかで、それでいて、肉汁ジュワーで、それが出てくると、大人から子供まで歓声を上げたと言われる伝説中の伝説とまで言われた肉料理だよ!」

「すっごぉ~い!」

 シャーロットちゃんが目をキラキラさせる。

 気分が良い!

 イメルダちゃんも「伝説はともかく、美味しそうね」と言ってくれる。

 是非とも、成功させなくては!


 そんな決意をしていると、外から何かが聞こえてきた。

 ん?

 何だろう?

 笛? かな?

 イメルダちゃんやシャーロットちゃんは気づいていないようだ。


 そもそも、本当に聞こえているのかな?


 耳を澄ましていると、何かが浴室に近づいてくる気配を感じる。

 視線を入り口に向けると、妖精メイドのスイレンちゃんが慌てた感じに入ってきた。

 そして、普段はおっとりとした妖精ちゃんらしくなく、わたしの側まで飛んでくると、腕を引っ張り始めた。


 え?

 どうしたの?

 え?

 早く来て?


 そのただならぬ様子に、慌てて浴室から出ると、体を拭き、服に着替えてスイレンちゃんの先導する後を付いていく。

 どうやら、外に行くらしく、妖精メイドのサクラちゃんが靴を用意してくれた。


 えぇ~

 ひょっとして、酔っぱらいが何かやらかしたの?


 一つ、二つと玄関の戸を開けると、夜の闇の中、待ち構えていたケルちゃんが三首して急かすように「がうがう!」言っている。


 一体何があったの!?


 階段をジャンプしてショートカットする。

 そして、妖精ちゃん達が光っている場所に走る。

 そこは、妖精姫ちゃんの花壇がある場所で、その前に敷かれている敷物の上で、ヴェロニカお母さんが仰向けになって倒れていた。

 シルク婦人さんがそんなお母さんの頭を膝枕している。

 普段は無表情な婦人さんが、どことなく不安そうだ。


 えぇ~!


「だだ大丈夫!」

 駆け寄り、側に座る。


 息はしている。

 苦しそうでも無い。

 でも、顔が青白く、意識も無さそうだ。


 焦った感じの妖精姫ちゃんが身振り手振りで言う。


 え?

 魔力?

 あ、魔力欠乏?

 送れば良いの?

 でも、わたし、そんなのやった事がないよ?

 え?

 あ、体力回復魔法で良いの?

 ゆっくりと?

 うん、分かった!


 白いモクモクでヴェロニカお母さんを包むと、魔力をゆっくり送る。

 少しずつだけど、顔色も良くなっていく。

 妖精姫ちゃんが少し安心したように身振り手振りをする。


 え?

 妖精ちゃん達の魔力を与えると、少し問題がある可能性があった?

 種族が違うから?

 んん?

 魔力に種族とか関係あるの?


 姫ちゃんが、何やら一生懸命説明してくれてるようだけど、言葉が通じないのでよく分からない。

 いや、まあ、その辺りは良いとして。

「ヴェロニカお母さんはどうして魔力欠乏になったの?」

 訊ねると、妖精姫ちゃんは眉を寄せながら指を地面にさす。

 地面――と言うより、落ちている銀色の棒か。

 あ、これヘルミさんに貰った横笛だ!


 姫ちゃんが身振り手振りで言うには、物作り妖精のおじいちゃんが綺麗にしたそれを、お酒を飲んで陽気になったヴェロニカお母さんが吹き始めて――倒れたとの事だった。


 え?

 どういうこと?


「これ、魔道具か何かなの?」

 訊ねるも、姫ちゃんも分からないのか、腕を組み、眉を寄せながら首を捻っていた。


――


 朝、起きた!

 ベッドからそっと抜け出て、伸びをする。

 そして、遮光用カーテンを開ける。

 強めの陽光が薄暗い部屋に飛び込んできた。

 あ、まだ、妹ちゃん達は眠っているから、開けない方が良いかな?

 そっと閉じると、近づいてくる気配を感じる。

 視線を向けると、妖精メイドのウメちゃんだった。

 ニコニコ顔のウメちゃんは、身振り手振りで、”皆が起きる頃に、わたしが開ける!”と言ってくれる。


 ありがとう!

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