龍君の診断をお願いする。1

 振り返ると、ニコニコ顔のヴェロニカお母さんだった。

 側には近衛騎士妖精の黒風こくふう君が飛んでいる。

 ヴェロニカお母さんはイメルダちゃんやシャーロットちゃんに「サリーちゃんや妖精姫ちゃん達の言う事を良く聞くのよ」等の話をする。

 エリザベスちゃんの事もあり、今回もヴェロニカお母さんは家でお留守番だ。

 エリザベスちゃんがもう少し大きくなったら、一緒に行けるんだけど、流石にまだまだ、それは難しい。

 ちょっと、後ろめたく思うけど、先ほどヴェロニカお母さんは「気にしなくて良いのよ。小さい家の内装が完成したら見せてね」と笑っていた。

 そんな事を考えていると、妖精姫ちゃんが飛んできて身振り手振りで”さあ、乗って!”と言ってきた。


 ケルちゃんとわたしが乗った籠が無事、樹洞じゅどうの中に到着した。

 ケルちゃんを籠から出していると、シャーロットちゃんが嬉しそうに近寄ってきて、わたしの腰にへばりついてくる。


 可愛い!


 籠は結局、分けて乗る事にした。

 最初に妹ちゃん二人プラス手土産の壺で、後でわたしとケルちゃんだ。

 まあ、近衛騎士妖精君達なら、皆まとめて運ぶ事は出来るとは思うけど、念のためだ。

 結局、危なげなく運んでくれたので、わたしの懸念は杞憂に終わったんだけどね。

 樹洞じゅどうの奥に小さい町が見える。

 あれ?

 少し大きくなった?

 そのことを訊ねると、サクラちゃんは嬉しそうに頷いた。


 皆の家が出来はじめてる?

 サクラちゃんの家も、もうすぐ?

 出来たら、遊びに来て欲しい?

 うん、そうさせて貰うね。


 妖精ちゃん達がわたしの小さな家やイチゴの蜂蜜漬けが入った壺を運ぶのを横目に見つつ、妖精メイドのサクラちゃんに手を引かれながら町に向かって進む。

 足下に見えていた建物がぐんぐん大きくなる。

 う~ん、今日で三回目だけど、やっぱり慣れないなぁ~

 ちょっと、気持ち悪い。

 などと考えつつ、サクラちゃんの方に視線を向ける。

 ピンク髪の可愛い妖精ちゃんが、美人な女の人になっている。

 これも、ちょっと慣れない。

 イメルダちゃんもグラマーな黒バラちゃんに抱きつかれ、龍のジン君をかばいつつ困っている。

 そんな姉的妹ちゃんは可愛い。

 などと考えていると、ケルちゃんが横にやってきた。

 視線を向けると、その上にはいつの間に乗ったのか、嬉しそうな顔のシャーロットちゃんとその後ろで支えるように座るニコニコ顔のウメちゃんがいた。

 シャーロットちゃんが上空を運ばれている、わたしの小さな家を指さしながら言う。

「サリーお姉さま!

 早く、行こう!」

「まあまあ、ちょっと待って」

と言いつつ、妖精姫ちゃんに視線を向けた。

 姫ちゃんは少し、困った顔で身振り手振りをする。


 え?

 ジン君を診断する中で、ひょっとすると、体力回復魔法を使って貰う事になるかも?

 だから、シャーロットちゃんはウメちゃんに任せて、わたしとイメルダちゃんにはジン君の治療に同席して貰いたい?

 うん、分かったよ。


 わたしと姫ちゃんのやり取りを見て、シャーロットちゃんは少し不満そうな顔をする。

 でも、困った顔のイメルダちゃんに「すぐに合流するから」と言われたり、ウメちゃんからたしなめるように背中を撫でられた事もあり「早く来てね」というと、ケルちゃんに指示を出し、わたしの家が置かれただろう場所に向かった。


 妖精姫ちゃんに連れてこられたのは、例の神殿の側にある、木造で出来たビルみたいな所だった。

 三階建てぐらいかな?

 柱などがきちんと四角く切りそろえられ、また、大きめのガラス窓が付けられていた。

 イメルダちゃんが「変わった建物ね」と見上げているので、この異世界では見ない形の建物なんだろう。

 基本、可愛らしく作られている妖精ちゃんの町の中では、どことなく、お堅い雰囲気のある建物だった。

 ひょっとしたら、病院なのかな?

 そんな事を考えつつ、姫ちゃんに促されるまま、中に入る。

 中は、ちょっと想像とは違った。

 前世で言うおしゃれなカフェ? みたいな感じにテーブル席が並び、ローブに杖を持ったいかにも魔法使いな感じの妖精ちゃん達が談笑していた。

 結構多い、二十人ぐらいかな?

 男女いろいろで――あ、ワイバーン偽竜君の時に毒の検査をしてくれた妖精さん達もドライフルーツを抓みながら何やら楽しく話をしているみたいだった。

 こちらに気づいたので、ニッコリ微笑みながら手を振ってくれたので、こちらも笑顔で振り返した。

 イメルダちゃんが少し、困惑しながら「茶話会でもやっているのかしら?」などと呟いている。

 視線を向けると、妖精ちゃん達が多いからか、龍のジン君は不安そうにしつつ、時折、イメルダちゃんの腕に顔をこすりつけていた。

「っていうか、妖精ちゃん達、なんか前より増えてない?」

 見かける妖精ちゃんだけで、最初に結界に入れた人数より多くなった気がする。

 そのことを話すと、妖精姫ちゃんが身振り手振りで言う。


 え?

 眠っていた子が起きただけ?

 でも、眠っている子を結界の中に入れた覚えが無いんだけど……。

 え?

 大木の中にいた?

 え?

 でも、大木ここってわたしが育てたんだよね?


 妖精姫ちゃんが体を使いながら、一生懸命、何かを伝えようとしているけど、言葉が聞こえない現状、さっぱり分からない。


 いや、仮に声が聞こえていても、内容が分かったかどうかは、正直疑問だけどね。


 イメルダちゃんも「よく分からないけど、妖精ちゃん達って、想像していたよりずっと不思議な存在なのかもしれないわね」と言っているし。


 そんな事をやっている内に、妖精姫ちゃんが奥にある扉を開いた。


 中には三角帽子を被ったおばあちゃんな妖精ちゃんが座っていた。

 上から下まで紺で統一された格好をしていて、帽子のツバの端から灰色の長い髪の毛が流れていた。

 右手には木で出来た少しねじ曲がった杖を持っていて、なんか、テンプレ的魔法使いのおばあちゃんって感じだった。

 そんなおばあちゃんがニコニコと愛想良く、わたし達に中へ入るよう促してくれる。

 部屋の中には本がぎっしり詰まった本棚と、前世、診察室にありそうな簡易のベッドと診察用の机と椅子が置かれていた。

 魔女っぽい妖精ちゃんは微笑みながら、自分の前にある椅子を、イメルダちゃんに勧めている様子だった。

 イメルダちゃんがわたしに視線を向けてきたので、頷くと、姉的妹ちゃんはおばあちゃんに「失礼します」と丁寧にお辞儀をした後、座った。

 魔女的妖精のおばあちゃんは何やら話しつつ、杖を持った手を持ち上げた。

 イメルダちゃんがジン君を近づけようとするも、ちっちゃな龍君は嫌がり、イメルダちゃんの背中の方に顔を隠してしまう。

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