龍君を診てもらいに行こう!

 ヴェロニカお母さんの、人によっては神々しいとまで形容しそうな、その微笑みに対して――ジン君はその手から逃れるようにイメルダちゃんを挟む位置に移動する。


「あ、あら?」

 ニコニコしながらも顔を引きつらすヴェロニカお母さんは、すーっと上げていた手を下ろした。


「お、お母様」

と心配するイメルダちゃんにヴェロニカお母さんは「初めてきた場所で怯えているのね」などとニッコリ微笑んだ。

 微笑んだんだけど、ヴェロニカお母さん「昔から、動物”だけ”は親しくしてくれたんだけど……」と耳の良いわたしぐらいが聞き取れるほどの音量で、ぼそりと呟いた。


 ちょ!

 そんな悲しい事を言うの、止めて!


 そんな機微きびを察したのか、ケルちゃんが立ち上がると、ヴェロニカお母さんの側まで行き、”わたし達がいる!”と言うように三首して頬ずりをする。

 ヴェロニカお母さんは「ケルちゃんは優しいのね」とか言いつつ嬉しそうにハグをしている。


 何やってるんの、この大人は……。



 朝食を終えて、後片付けをする。


 因みに、龍のジン君は色々試した中で、干し肉が好物のようで、イメルダちゃんが差し出したそれを嬉しそうに食らいついていた。


 可愛い!


 あと、白い玉を浸した水を、スプーンで飲ませて貰っていた。

 スプーンだとちょっと飲ませにくそうだし、飲みづらそうだった。

 前世で入院してる人が使っていた、水差し? だっけ、そういうのを物作り妖精のおじいちゃんに作って貰った方が良いかな?


 ちょっと相談してみよう。


 テーブルの上を拭きながら、そんな事を考えていると、シャーロットちゃんが腰に抱きついてきた。

「ねえねえ、サリーお姉さま!

 今日はお出かけしない?」

「ん?

 そうだね……」

 ここ最近、忙しくしてたし、町に行く用事も、ワイバーン偽竜君を持っていくまで少し間があるし……。

「今日は人形の家の内装をしようかな?」

 わたしが言うと、可愛い妹ちゃんは「シャーロットもする!」と言ってくれる。

「じゃあ、洗濯を終えたら、一緒にしようね」

「うん!」

「あ、でも、内装をするなら、妖精の町に行って家具とか見て回りたいなぁ~

 あぁ~

 でも、イメルダちゃんは行くのは難しいかな?

 ジン君もいるし」

 などと言っていると、妖精姫ちゃんが目の前まで飛んでくると、身振り手振りで言う。


 え?

 むしろ、イメルダちゃんと来て欲しい?

 ジン君の診察もまだ終えてない? その後、家具を見てくれれば良い?

 なるほどね。


 シャーロットちゃんも「行きたい!」って言うので、イメルダちゃんにも相談する事にする。

 洗濯を終え、服などをたたみ終えた後、食料庫から戻ってきたイメルダちゃんにそのことを話す。

 姉的妹ちゃんは「そうねぇ~」と言いつつ、左腕にある龍のジン君の頭を撫でる。

て貰う必要があるなら、早いほうが良いわよね。

 今からでも問題ないのなら、行きましょうか?」

「そうだね」

 そのことを妖精姫ちゃんに話すと、身振り手振りをする。


 え?

 手土産?

 今日は、ジン君の診察でしょう?

 え?

 訪問する時は、それが礼儀?

 ……なら、我が家にしょっちゅうきている姫ちゃんはどうなの?

 それとこれとは別?

 えぇ~


 致し方が無く、わたしの秘蔵の品である、イチゴの蜂蜜漬けの壺を一つ、持っていく事に。

 めったに出さないそれに、妖精姫ちゃん達は大喜びをしている。


 え?

 もっとあるでしょう?

 これで十分でしょう!

 え?

 壺三つ!?

 贅沢を言わない!


 すると、姫ちゃんが中央の部屋食堂に置いてある、わたしの小さい家を指しながら、身振り手振りをする。


 え?

 これも持っていく?

 だから、せめてもう一壺?

 いや、それ持っていく意味は無いでしょう?

 え?

 家の中に入り、見ながら、内装を決めれる?

 ああ、なるほど、そういう事ね。

 う~ん、でも、変に移動させると、中にある食器関係が割れたりしない?


 家の中には、妖精姫ちゃん用の食器類が、既にそれなりに入っているのだ。

 だけど、姫ちゃんは”魔法で上手い具合に持って行ける!”とアピールする。

 まあ、そういうなら……。


「もう一壺だけだよ!」

っていうと、妖精ちゃん達が嬉しそうに円を描いて飛び回る。

 はぁ~

 全く……。

 いや、そんな事をやっている場合じゃ無いか。


 シャーロットちゃんが今回もケルちゃんに乗りたいというので、わたしのお古を着てもらう。

 妖精メイドのウメちゃんに手伝われながら、着替える様子を見つつイメルダちゃんに訊ねる。

「イメルダちゃんも着替えたら?

 ケルちゃんに乗るの、楽しいよ?」

「わたくしは良いわよ。

 そもそも、今回はジンをて貰うのが目的だし」

 すると、妖精メイドの黒バラちゃんがすーっと飛んできて、イメルダちゃんの袖を引っ張る。

 そんな、黒バラちゃんに向けて、『べ、別にそんなんじゃないわよ! 変な事を言うの止めて!』などと顔を赤めている。

 う~ん、何を言っているのか、凄く気になる!

 そんな事を考えていると、妖精メイドのサクラちゃんが飛んできて、身振り手振りで”大木に行く準備が出来たよ”って教えてくれる。

 その仕草がとても可愛い!

 あ、そうか、言葉が通じると、こういうジェスチャーが見えなくなるんだ。

 それはちょっと、寂しいかも。

 そのことを話すと、イメルダちゃんに「身振り手振りをする方は大変でしょう」と呆れた顔をされてしまった。

 まあ、そうだけどぉ~

 すると、サクラちゃんがイメルダちゃんに何かを言っている。

 何言ってるんだろう?

 すると、イメルダちゃんは顔を赤めながら「え!? 無理よ! そんな事! え? そうだとしても、わたくしには言えないわ!」などとやっている。

「どうしたの?」

と訊ねるも、イメルダちゃんは「何でも無いわよ! ほら、大木に行くんでしょう! 早く行きましょう!」などと、言って話してくれない。

 えぇ~

 なんでさぁ~

 サクラちゃんは何故か、残念そうにしている。

 なんて言ってるのか、凄く気になるんだけどぉ~!



 玄関から外に出る。

 階段を降りた先に、大きな籠が置かれていた。

「え?

 前より大きくない?」

 妖精メイドのサクラちゃんに訊ねると、ケルちゃんを指さす。

「え?

 ケルちゃんも乗せるためなの?

 でも、ケルちゃん、ずいぶん大きくなったけど……」

 言うも、籠の上に立った近衛騎士妖精の青空君が”全然大丈夫!”と言うように力こぶを出すポーズをしている。

 いや、申し訳ないけど、その腕、全然こぶが出てないよ?

 ただ、よく分からないけど、他の近衛騎士妖精君達も同じようにアピールをしている。

 そんな男子達を、白雪ちゃんを始めとする女子系近衛騎士妖精ちゃん達が呆れた顔をして見ている。


 お調子者の男子はしゅを越えて存在するんだね。


 生暖かい目で見ていると、家から誰かが出てくる気配を感じた。

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