龍君の名前!

 う~ん、龍君はほっそりしているけど、イメルダちゃんだって小さく、ついでに可愛らしい女の子だ。

 なので、「龍君、重くない?」と訊ねたんだけど、イメルダちゃんは首を横に振った。

「この子、なんだか重さを全然感じないの」

「え?

 そうなの?」

「ええ、だから大丈夫よ。

 気になるとしたら、服の捕まれている部分が痛むんじゃないかって所だけど……。

 しばらくは、仕方がないわ」

 そう言いながら、イメルダちゃんは龍君の背を優しく撫でていた。


 食前のお祈りを済ました後、「頂きます」をしてご飯を食べる。

 イメルダちゃんが自分の胸元にある龍君の頭に視線を向けながら言う。

「この子は、何を食べるのかしら?」

 すると、妖精メイドのサクラちゃんがイメルダちゃんの側に飛んでいき、何かを言っている。

「へぇ~

 そうなのね。

 じゃあ、林檎でも与えてみようかしら」

とイメルダちゃんは頷いている。

 イメルダちゃん、サクラちゃんとちゃんと会話をしている……。

「羨ましい!

 わたしもサクラちゃんと会話したい!」

 そんなわたしに、隣に座る妹ちゃんも「シャーロットも、ウメちゃんとお話ししたい!」と同意してくれた。

 そして、シャーロットちゃんはイメルダちゃんの方に顔を向けながら「なんで、お姉さまだけ、お話が出来るようになったの!?」と不満そうにした。

 それに対して、イメルダちゃんは困ったように眉を寄せる。

「多分、龍君この子にも与えた白い玉の欠片が原因じゃないかしら?」

 まあ、そうだよね。

「でもあれ、全て龍君に食べさせちゃったし……。

 あ、ため池の水!

 あれはまだ残っていたはず!」

とわたしが言うも、イメルダちゃんから「駄目よ! あの水は龍君この子に与える物だから!」と怒られてしまった。


 すると、テーブル上のミニチュアテーブルでお茶をしていた妖精姫ちゃんがニッコリ微笑みながら、イメルダちゃんに口をパクパクさせた。

 それに気づいたイメルダちゃんは「え? 今なんて言ったの?」と耳を近づける。

 訝しげな顔をした妖精姫ちゃんは更に大きな声(推定)で何かを言った。

 それに対して、イメルダちゃんは「あれ? 聞こえないんだけど?」と言っている。

 そんなイメルダちゃんの前で、サクラちゃんが口をパクパクさせた。

 それにイメルダちゃんは「サクラちゃんの声は聞こえるわね」などとやっている。

「どうしたの?」とわたしが訊ねると、イメルダちゃんが小首を捻りながら「何故か分からないけど、姫ちゃんの声だけが聞こえないの」と言う。

「え?

 そうなの?」

「ええ。

 サクラちゃんや黒バラちゃんは……。

 ちょっと、黒バラちゃん!

 その呼び方で呼ぶの、止めて!」

と何やら怒っている。

「黒バラちゃんになんて呼ばれているの?」

と訊ねても、「サリーさんは知らなくて良いの!」とぴしゃりと言われてしまった。


 えぇ~知りたいなぁ~


「それより、姫ちゃんの事よ!

 何故か、姫ちゃんの声が聞こえないの!」

 何やら、イメルダちゃんは強引に軌道修正しようとしている。

 う~ん、知りたいけど、声が聞こえているのがイメルダちゃんだけだと、聞き出すのは無理だ。

 諦めて、妖精姫ちゃんの方に視線を向ける。

 姫ちゃんは可愛らしくも、不思議そうに小首を捻っている。

「まあ、姫ちゃんって特別な妖精ちゃんだからって事かな?」

「そうね、そうかもしれないわね」

 イメルダちゃんも頷いている。

 妖精姫ちゃんはイメルダちゃんに”お喋りが出来なくて残念”って言うように身振り手振りをしている。

 なんとなく、それが分かったのかイメルダちゃんも「わたくしも残念だわ」と言っている。


 ん?


 妖精姫ちゃん、イメルダちゃんの視線が外れた瞬間、なんか”計画通り!”って言わんばかりの悪そうな顔になった気がしたけど……。


 気のせいかな?


 今はいつもの可愛らしい姫ちゃんに戻ってるし、わたしの方を見て”どうしたの?”って小首を捻っているし……。


 うん、気のせいだよね!

 そうに違いない!


 そんな事を考えていると、シャーロットちゃんが言う。

「ねえねえ、お姉さま。

 その子に名前は付けないの?」

「ああ、そうね」

 イメルダちゃんは頷く。

 そして、こちらを見た。

「サリーさんが付けて上げて」

「え、わたし?」

「ええ、サクラちゃんとかウメちゃんとか、サリーさんが付けた名前、わたくし、好きなの」

 そう言われると、悪い気はしない。

 でも、勝手に付けても良いものなのか?

 視線を妖精姫ちゃんに向けると、姫ちゃんは”問題ない”と言うようにニッコリ微笑んだ。


 なら良いのかな?


 大体の名前は思いつきで――しかも、前世日本の言葉で付けたものが多い。

 だから、異世界であるここでは、その聞き慣れない響きが良いと思って貰えているのだと思う。

 因みに、異世界の言葉で付けたものもある。

 妖精姫ちゃんや悪役妖精もそうだし、黒バラちゃんもこちらの言葉だ。

 ここら辺は、こだわりがなく、正直、何となく思い浮かんだもので付けているからなぁ。

「う~ん、”青龍せいりゅう”とか”龍神りゅうじん”とかは、そのままかな?」

「どういう意味なの?」とイメルダちゃんが訊ねてきたので「青い龍と龍の神という意味だよ」と教えて上げる。

「そうなのね」とイメルダちゃんは頷き、ヴェロニカお母さんが「不思議な響きね」と言う。

「”セイ”君とか”リュウ”君とかも有りかも。

 もしくは”ジン”君とか。

 あ、そもそも、この子、おすなのかな?

 メスなのかな?」

 妖精姫ちゃんに訊ねると、身振り手振りで返してくれる。


 え?

 雄とか雌とかは無い?

 あえて言うなら、雄?

 そうなんだ。


 そんなやり取りをしていると、イメルダちゃんが言う。

「わたくし、決めたわ。

 この子はジンにしましょう」

「え?

 ジン君?」

「ええ、なんとなく、勇ましそうだわ」

 ジンって神という意味なんだけど、その辺りは宗教的に良いのかな?

 ……まあ、最悪、ジンには陣という意味もあるとか何とか、ごまかせば良いかな?

「じゃあ、君の名前はジン君だね。

 よろしく!」

 ニッコリ微笑むと、龍のジン君はこちらを見ながらビクっと震える。

 そして、頭をイメルダちゃんの背中に隠すようにスススっと移動した。


 えぇ~


「あらあら、ジン君はサリーちゃんの事が怖いようね」

とヴェロニカお母さんはおかしそうに言う。


 むぅ~!

 なんか、ヴェロニカお母さんに言われると腹が立つんだけど!


 すると、今度はシャーロットちゃんがニッコリ微笑みながら言う。

「ジン君、よろしくね!」

 だけど、ジン君は顔だけで無く、体ごとイメルダちゃんと椅子の背の間に潜り込んでいく。

 そんな様子にシャーロットちゃんは「えぇ~」と悲しげに声を上げる。

 すると、何やら「ふふふ」と含み笑いをするヴェロニカお母さんが、隣にいるイメルダちゃんの――その背に左手を差し伸べる。

 そして、「ジン君、これから仲良くしましょう」と柔らかく微笑んだ。

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