声が……聞こえるようになった!?

「イメルダちゃん、とにかく池から出よう。

 寝間着も着替えないと」

「ああ、そうね」

 籠の中に龍君をそっと入れたイメルダちゃんが、頷く。

 わたし達が池から出ると、妖精姫ちゃんが妖精ちゃん達に身振り手振りで指示をする。

 すると、各自、壺を持った妖精ちゃん達が池の水をそちらに移し始めた。


 姫ちゃん、何してるの?

 え?

 ああ、玉を溶かした水は必要ってことね。

 しばらく、龍君に飲ませる?

 なるほどね。


 ちらっと確認した所、土管のため池側が閉じられ、排出側が開いていた。

 わたしが「水を取り出すのを手伝おうか?」って言うも、身振り手振りで”大丈夫、それより、寝てきて”と返された。

「白いモクモクでやれば早いよ?」と言うも、”大丈夫!”と返してきた。

 まあ、妖精ちゃんはやる事が早いから、すぐに終える事が出来るかな?

「なら、ちょっと眠らせて貰うね」

と手を振ると、ニッコリ微笑んだ妖精姫ちゃんは手を振ってくれた。


 可愛い!


 シルク婦人さんが毛布を持ってきてくれたので、イメルダちゃんの肩に掛けつつ、姉的妹ちゃん達と家に戻った。


――


 朝、ちょっと眠い!

 ベッドからむくりと体を起こす。

 隣にはシャーロットちゃんが、ケルちゃんぬいぐるみに顔を埋め、「センちゃん、凄い!」とかモニョモニョ言っている。


 可愛い!


 更に隣にいるイメルダちゃんは、フェンリルぬいぐるみを抱きしめながら寝入っている。

 夜中に起こしちゃったから、ゆっくり寝かせて上げよう。


 そっと、ベッドを抜け出し、パジャマから着替える。

 そして、部屋から出た。

 外にはケルちゃんが嬉しそうに待ち構えていた。

 雨の音は止んでいるから、外は晴れかな?

 待ちきれないって感じに、三首とも腰に頬ずりをしてくる。


 はいはい、出して上げるからね。

 その前にもふもふハグさせて!

 あ~寝不足に、モフモフは染み渡る~


 などと、自分でもよく分からない事を言いつつ、抱きしめた後、外に出して上げる。


 ふむ、外は晴天なり!

 あ、所々水たまりがあるから注意をしなくては!


 が、既にケルちゃんは玄関から飛び降りて、駆け回っている。

 勿論、彼女の漆黒の毛には跳ねた泥が付いている。


 ちょっとぉ~


 ため息を付きつつ、中に入る。

 顔を洗い、身なりを整えていると、天井からスライムのルルリンが肩の上に、ぽよんと下りてきた。

 そして、ポヨポヨ揺れながら主張する。


 え?

 あれが欲しい?

 何のこと?

 え?

 小さい家が欲しいの?

 ルルリンだけのが欲しいってこと?

 ……ルルリンはここ最近、作って貰ってばかりだから、駄目!

 え?

 意地悪?

 少しは遠慮しなさいと言ってるの!


 余りにもポヨポヨするので、「だとしたら、屋根裏の部屋は没収だね」と言ったら、ショックを受けたようにぷるんと揺れた後、流石にお気に入りの場所との交換は嫌だったのか、諦めるようにぽよんと揺れた。


 そんな、シュンとしているルルリンをペチペチと叩きつつ、妖精メイドのサクラちゃんを逆側の肩に乗せつつ、台所に向かう。

 シルク婦人さんに籠と壺を受け取り、飼育小屋に移動した。


 相変わらず騒々しい、赤鶏君の鶏冠を軽く引っ張りつつ餌を上げ、卵を貰う。

 山羊さんが”今日こそは、外に!”と「メェ~メェ~」うるさいので「はいはい、後でね」と首元を撫でつつ、乳を頂く。

 山羊さんに餌を上げた後、外に出して上げると、”我らにも早く!”と黄金羊さん達が騒がしくするので「はいはい」と餌箱に大麦を入れて上げる。

 っていうか、黄金羊さん、また毛が伸びたね。

 明日には、ここに来た頃ぐらいの長さまで戻っていそうだ。

「それ、暑くないの?」

と訊ねるも、”問題ない”と言うように「メェ~」と言っている。

 でも、夏になったら大変じゃ無いかな?

 まあ、その時になったら考えれば良いかな?

 背中を金ぴかな毛ごと撫でて上げると、”仕方が無いから、少しぐらいなら与えてやっても良いぞ?”と言うような流し目で「メェ~メェ~」言っている。


 ま、まあ、必要になったらね?

 必要になったら、遠慮無く頂くね。

 ……そんな日が来るかは、ちょっと不明だけど。


 羊さん達も食事を終えたので、外に出して上げる。

 そして、家の中に戻る。


 シルク婦人さんに卵や山羊乳を渡していると、寝室からイメルダちゃんが出てきた。

 何やら、凄く困った顔をしている。

 ……理由はすぐに分かった。

 姉的妹ちゃんのほっそりした体に、青い紐状の物が絡んでいた。


 ……紐状というか、龍君だった。


 よく分からないけど、イメルダちゃんの体に巻き付き、しがみ付いている。

 そのそばを、困った顔をした妖精姫ちゃん達が飛んでいる。

「どうしたの?」

と訊ねると、イメルダちゃんが苦笑する。

「何というか、着替えていたら、突然、この子が部屋に入ってきて、しがみ付いてきたの」

「はぁ?」

 すると、妖精メイドのサクラちゃんがわたしの前に立って、身振り手振りをする。


 え?

 イメルダちゃんが玉の欠片を食べさせたから?

 ああ、信頼できるって判断したのね。

 え?

 落ち着くまで、イメルダちゃんに預かって欲しい?

 いや、大丈夫なの?

 小さくて弱々しいけど、突然、暴れたりしたら……。

 え?

 大丈夫?

 近衛騎士妖精達が厳重に守ってくれる?

 なら良いかな?


 すると、「ちょ、ちょっと待って!」と何故か、イメルダちゃんがわたし達を制する。

 そして、何故か「あれ? 嘘? どういうこと?」と混乱したように頭を抱えている。

「どうしたの?」

と訊ねると、イメルダちゃんは一度、わたしに視線を向けた後、側を飛んでいる黒バラちゃんに話しかける。

「ねえ、黒バラちゃん。

 わたくしの名前、呼んでみて?」

 え?

 どういうこと?

 わたしと同じく、不思議そうな顔をした黒バラちゃんが口をパクパクさせる。

「ちょ!

 待って、黒バラちゃん!

 黒バラちゃん達、今までわたくしの事、そんな呼び名で呼んでいたの!」

 叫ぶイメルダちゃんに、黒バラちゃんは目を丸くする。

 妖精姫ちゃんを始めとする、妖精ちゃん達も驚いた顔をした。

 無論、わたしも驚いた。


 え?

 待って!

 それって!?


 イメルダちゃんがわたしに顔を向けると、悩ましげな顔で言った。

「サリーさん、どうやらわたくし、妖精ちゃん達の声が聞こえるようになったみたい」

「えぇ~!」

 いや、何その急展開、意味が分からないんだけど!?


――


 龍君が我が家にやってこようが、イメルダちゃんが妖精ちゃんの声を聞けるようになろうが、やる事はやらなくてはならない。


 イメルダちゃんの告白に大騒ぎをしているわたし達は、シルク婦人さんの「やる事をやってから」という冷たい一言により、話は朝食の席まで先送りすることとなった。

 食料庫から食材を運びつつ、スライムのルルリンにスモモを上げ、シルク婦人さんに荷物を渡した後、パン作りをする。

 で、出来た料理をテーブルに並べて、皆で朝食を食べる事となった。


 その間、龍君はイメルダちゃんに巻き付き、前後の足で服にしがみ付いたまま動かなかった。

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