龍君の診断をお願いする。2

「ほら、ちゃんと見て頂きましょう」

と龍のジン君の背中を撫でるも、嫌がって出てこない。

 すると、魔女的妖精のおばあちゃんはニッコリ微笑みつつ、何かを言う。

 そして、杖の手元でゆっくりと円を描いた。

 杖から白い魔力が湧き上がり、ジン君の体を包む。

 魔女的妖精のおばあちゃんは、表情を真剣なものに変えると、視線を少し下ろし、しばらく考える。

 そして、頷くと、イメルダちゃんに何かを言っている。

 イメルダちゃんはそれに頷いた。

「何だって?」

と訊ねると、イメルダちゃんはこちらを向きながら「ジンは凄く弱っているけど、一日一回、体力回復魔法をかけて上げて、安静にしていれば大丈夫だって」と答えてくれる。

「そもそも、ジン君は何で、そんなに弱っているんだろう?」

と言いつつ、視線を妖精姫ちゃんに向けると、姫ちゃんは何やら慌てた感じに身振り手振りをする。


 え?

 知らない?

 気づいたら弱っていたから助けただけ?

 だから、全く分からない?

 ……。


 わたしの心情を代弁するように、イメルダちゃんがぼそりと言う。

「姫ちゃん、何かを隠してない?」

 それに対して、妖精姫ちゃんは一生懸命、”本当に知らないよぉ~!”と身振り手振りをしている。

 いや、なんかこれでもかってぐらい、怪しいんだけど……

 まあ、かといって、言葉が通じない現状、どうしようも無いので、取りあえずは良いけど……。

 魔女的妖精のおばあちゃんに促され、ジン君に体力回復魔法をかけて上げる。

 イメルダちゃんの胸の中で気持ちよさそうに目を閉じている龍君、可愛い!

 でも、弱っているって事はやっぱり体も辛いんだろうね。

 早く良くなると良いんだけど……。

 あ、そういえば――。

「ねえねえ、姫ちゃん。

 姉姫ちゃんが使っていたの、あるじゃない。

 あれを、ジン君に使って上げる事は出来ないの?」

 以前、お願いされて、姫ちゃんのお姉さん(推定)の回復を手伝った事があった。

 その時に、姉姫ちゃんが使っていた魔道具? なのかよく分からないけど……。

 それを使うと、回復が早くなるんじゃないかな?

 始め、姫ちゃんは何を言っているのか本当に分かっていない表情で小首を捻っていたが、色々説明をすると、理解したというように頷いた。

 そして、身振り手振りで説明してくれる。


 え?

 あれは、姫ちゃん達、妖精じゃないと意味が無い?

 というより、妖精ちゃん達が特殊?

 仮に怪我をした妖精ちゃんを見つけても、治療魔法では無く、どちらかというと、植物育成魔法の方が効果がある?

 へぇ~

 そうなんだぁ~


 植物育成魔法の方が良いなんて、妖精ちゃんはわたしが思ったより不思議な存在なのかもしれない。

 あ、花の精とかなのかな?

 お花が好きだし。



 建物を出てから、わたしの小さな家に向かう。

 妖精姫ちゃんは魔女的妖精のおばあちゃんと少し話が有るみたいなので、妖精メイドのサクラちゃんの先導で、向かっている。

 道すがら、色んな家を眺める。

 可愛らしい新築の家が結構並んでいて、見ているだけで飽きない。

 イメルダちゃんも、ジン君の背中を撫でながら、興味深げな視線をあちらこちらに向けている。

「イメルダちゃんもわたしみたいに、家を作って貰ったら?」

と提案して見るも、「わたくしには不要よ!」ときっぱり言っている。

 だけど、愛らしい家の前を通り過ぎるたびに、視線が吸い寄せられている様子を見ていると、欲しいと思ってるのは間違いなさそうなんだけどなぁ。

 少し強引にでも勧めた方が良いかな?

 でも、へそを曲げられても困るかぁ~

 などと考えている内に、わたしの小さな家の前に到着した。



 以前、来た時にお茶をした待ち中央の噴水広場、その空きスペースにわたしの小さい家が置かれていた。

 いや、”小さい”は不要か。


 普通サイズのわたしの家が建っていた。


「こうやって見ると、ちゃんとした家だね」

 わたしが感想を漏らすと、イメルダちゃんも「そうね」と同意してくれた。

 二階建てプラス屋根裏部屋有りのその家は、いつも見下ろすばかりだったのに、今では見上げなければならない。

 こうしてみると、普段は目に付かない場所にも、可愛らしい細工がされていて、まさにファンタジーな世界のファンシーな登場人物の家って感じだった。

 イメルダちゃんも体を傾けながら、興味深げに外観を眺めている。

 その後ろで何やら楽しげな妖精メイドの黒バラちゃんが、同じく体を傾けている。


 何をやっているのやら。


 そんな事を考えつつ、笑顔で駆け寄ってきてくれた物作り妖精のお姉ちゃんに挨拶をする。


 え?

 家具などの、お薦めの店も紹介する?

 気に入ったら、物作り妖精のおじいちゃんに下で使えるサイズにして貰えば良い?

 ありがとう!


 そんなやり取りをしつつ、家の裏側に移動する。

 そちらにはつまみが有り、それを開けると、家の内部が見えるようになっている。

 このサイズでそれらがどう見えるのか気になったのだ。

「あれ?

 閉じたままなんだね」

 わたしが声を漏らすと、物作り妖精のお姉ちゃんが身振り手振りをする。


 え?

 妖精ちゃんやサリーわたしはともかく、イメルダちゃんやシャーロットちゃんだと危ない?

 そりゃ、そうだよね。


 外から見るにしても、家具が落ちてきたら危ないし、中から見るにしても下に落ちちゃったら大変だ。

 まあ、わたしや近衛騎士妖精の皆がいてくれれば大丈夫だとは思うけど……。

 諦める方が無難だね。

 そんな事を考えつつ、近寄ってくる気配に視線を向ける。

 あ、住宅街の方からケルちゃんが歩いてくるのが見えた。

 勿論、その背にはシャーロットちゃんと――。


 あれ?

 あの後ろにいる女の人は、誰?


 わたしに気づいたシャーロットちゃんは大きく手を振ってくれる。

 その後ろの、先ほどまで妖精メイドのウメちゃんが座っていた場所で、緑髪の女の人が、ニコニコしながら妹ちゃんが落ちないように支えている。

 ケルちゃんの隣を歩くウメちゃんが、困った顔でそんな様子を見上げていた。

 シャーロットちゃんがケルちゃんの背を、ポンポン叩くと、三つ首揃って嬉しそうに――それでいて、そっと早足になる。

 それでも、シャーロットちゃんの揺れが大きくなる。


 だ、大丈夫かな!?


 ケルちゃんの隣にいるウメちゃんも凄く焦った顔で、駆けている。

 わたし達のそんな心配をよそに、シャーロットちゃんは凄く嬉しそうだ。

 後ろに座る女の人も、ニコニコしたまま、そんな妹ちゃんの肩を支えている。

 近くまで来たシャーロットちゃんは嬉しそうに言う。

「サリーお姉さま!

 向こうに凄く可愛らしいカーテンが置いてあるお店があったよ!」

「そうなんだ」と答えつつ、わたしは後ろの女の人に視線を向ける。

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