第二十二章
弱っている闖入者?1
目を開くと薄暗い部屋の中だった。
見知らぬ事も無い――いつもの寝室だ。
どれくらい寝ただろうか?
よく分からない。
胸の中に温かなぬくもりを感じる。
シャーロットちゃんだ。
昨日、寝る時にも鳴り止まない雷に怖がっていたので、抱きしめて眠っていたのだ。
いや、その辺りは良いとしてだ……。
家の外に、何かいる。
巨大な何か――害意は感じないけど、巨大で恐らく強大な何かがだ。
しかも、結界の中だ。
壊れている気配は無いから、無理矢理入ったという訳では無いだろう。
何だろう?
……いや、見に行けば分かる事か。
スヤスヤ眠る妹ちゃんには悪いけど、くすぐり、抜けだし、ケルちゃんぬいぐるみを代わりにする。
雷も、ついでに雨も止んでいるようなので、シャーロットちゃんが仮に起きても大丈夫だろう。
暗闇の中、体を起こす。
夜目が聞くので問題ない。
ベッドから抜け出そうとする。
すると、何かが飛んでくる気配を感じた。
うっすらと光る妖精ちゃん――近衛騎士妖精の白雪ちゃんだった。
何やら、引きつった笑みを浮かべつつ身振り手振りをする。
え?
まだ夜だよ?
眠らないと、朝が大変だよ?
いや、何か外に来てる気配が……。
え?
気のせい?
いつもと変わらない夜?
……いや、ここで白雪ちゃんが来てる時点で、いつも通りじゃ無いんだけど?
え?
良いから、お休み?
えぇ~
何やらよく分からないけど、起こしかけていた体を押されて、ベッドに寝かされた。
そして、掛け布団を肩まで掛けられ、その上に跨がるように座った白雪ちゃんに、ポンポンとリズムを取るように叩かれた。
子守歌でも歌っているのかもしれないけど、白雪ちゃん?
口をパクパクしてる様にしか見えないんだけど?
……まあ、いいか。
白雪ちゃんが大丈夫というのなら、多分大丈夫なのだろう。
眠気がまたぶり返してきたし、もう一眠りしよう。
「何かあったら、ちゃんと起こしてね」
と釘を刺し、目を閉じた。
……。
……。
……何かに頬をペチペチと叩かれた。
え?
今度は何?
目を開けると、妖精メイドのサクラちゃんだった。
目が覚めたのに気づいたのだろう、一生懸命、身振り手振りで言っている。
え?
大変?
すぐ来て欲しい?
今度は何なのさ。
起き上がると、妖精メイドのウメちゃんと黒バラちゃんが、わたしの黄色いカーディガンと靴、そして、靴下を渡してくる。
靴という事は外かな?
妹ちゃん達を起こさないよう、そっとベッドから出ると、カーディガンを
先ほどの巨大な気配の事もあり、一応、フェンリル帽子をかぶる。
ピンク地に水玉模様のパジャマに黄色いカーディガン、そして、白いフェンリル帽子なわたしは、相当、奇っ怪な格好だろうけど……。
まあ、良いか。
そっと、部屋から出る。
ちょっと、白雪ちゃん!
いつもの夜じゃ無かったの!?
え?
よく分からない?
それを言ったのは夢の中の
今の
……もしかしてだけど、白雪ちゃん。
わたしの事、凄く頭の悪い子とか思ってたりしてる?
などとやり取りをしていると、妖精ちゃん達の光に照らされたシルク婦人さんが、少し心配そうに近寄ってきた。
あ、起こしちゃったのかな?
でも、いつもと変わらない格好だから、ひょっとすると家妖精だから眠らないのかな?
「何か、あったみたいだから、ちょっと外に出るね」
と言うと「気をつけて」と言ってくれた。
「うん」と答えつつ、白雪ちゃんに急かされつつ、玄関前で寝ていたケルちゃんの内、レフちゃんが”どうしたの?”と言うように首を上げたので「気にしないで寝てて」と撫でて上げた後、外に出る。
玄関から出ると、雨はすっかり止んでいて、黒色の晴天に星々が散らばっていた。
転生前ならその雄大でいて美しい夜空に感動しただろうけど、既に転生十三年目のわたしとしてはいつもの光景だ。
まあ、綺麗と言えば、勿論その通りだけどね。
あれは?
空だけで無く、地上にもチラチラと光る物が目に入り、視線を向ける。
ため池辺りに蛍のような光が飛び回っていた。
まあ、妖精ちゃん達だろう。
何やってるんだろう?
玄関の階段から水たまりを避けつつ飛び降り、駆け寄ると、どうやら、妖精ちゃんの皆はため池の中を覗いているようだった。
悪役妖精もその中にいて、難しそうに眉を寄せている。
あ、姫ちゃんもいる。
何やら指示を出していた。
ん?
ため池の中を何かが動いた。
水色っぽくて、細長い――蛇かな?
一メートル、いやもっと長いか、ため池の端を沿うように泳いでいる。
わたしに気づいた姫ちゃんが焦った様子で身振り手振りをする。
え?
中の子が弱ってる?
助けたいの?
回復魔法を使えば良い?
それとも、体力回復?
え?
食べさせてから?
妖精姫ちゃんが指さす先に、ため池に浸かった――白い玉のようなものが見えた。
あ!
あれ、蟻さんが持ってきた奴だ。
砕いてるのは、水の中に溶かそうとしてるのかな?
家から何者かが出る気配を感じ、振り返ると、寝間着姿にカーディガンを羽織ったイメルダちゃんだった。
心配そうな顔をしながら、こちらに歩いてくる。
当然、側には近衛騎士妖精の
白雪ちゃんも、それに気づき、飛んで行ってくれる。
なら、良いかな?
視線をため池に戻す。
中にいる蛇君の体色は、青――水色に近いかな?
蛇と思ったけど……ちょっと違うかな?
黄色い角が生えた頭から、尾の先辺りまで、上部に少し濃い青の毛が生えているようだった。
よく見ると、うろこで覆われた体の、前方と後方に猛禽類のような足が生えている。
顔は鰐っぽい?
よく見たら、細長い髭が生えている。
……。
いや、これ龍だよね!
竜じゃなく、龍だよね!
え?
なんで、こんな所にいるの!?
いや、そんな事をやっている場合じゃないか。
妖精ちゃん達は蟻さんの白い玉、その欠片を持って、龍君の頭の方に飛んでいるけど、どうやら、
ただ、弱っているのは間違いないようで、苦しそうにしていて、時折、弱った魚のように体が浮きそうになっている。
これは、かなりマズいな。
すると、後ろからイメルダちゃんが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「なんか、妖精ちゃん達、あの子を助けようとしているみたいなんだけど……」
と言いつつ、龍君が弱っている事、妖精ちゃん達が白い玉を与えようとしてるけど嫌がっている事を説明した。
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