ちっちゃな家!2
小さい家が観音開きのように開き、内部が露わになった。
「うわぁ~!」
「すごぉ~い!」
わたしとシャーロットちゃんは歓声を上げる。
建物としては二階プラス屋根裏部屋というもので、派手さは無いものの少しファンシーで可愛らしい家だ。
一階にはキッチンやリビング、お茶をするためのスペースまである。
二階には浴室や寝室、その他、空き部屋が何個かある。
ハシゴを登った上にある屋根裏にはまだ、何も置かれていない。
うむ、満足だ!
因みに、全体的に最低限の物しか無く、空き部屋や屋根裏に物が無いのは、わたしがそのようにお願いしていたのだ。
ここから、自由に足していき、わたしだけの家にしていくのだ!
そのことをシャーロットちゃんに話すと、可愛らしい妹ちゃんは目をキラキラさせながら、「楽しそう!」と言ってくれた。
「シャーロットちゃんもやるなら、もう一つ、お願いするけど?」
と訊ねたけど、妹ちゃんは少し考えた後「サリーお姉さまのを見てから考える」と言った。
「じゃあ、一緒に考えてくれる?」
と言うと、「うん! 考える!」と笑顔で頷いてくれた。
可愛い!
あと、物作り妖精のお姉ちゃんにもお礼を言う。
身振り手振りで言うには、このミニチュアな家はお姉ちゃん達が作ってくれたらしい。
”こういう、小さくて可愛い物は、わたし達に任せて!”と胸を張る物作り妖精のお姉ちゃん、可愛い!
因みに、この屋敷の代金は、パウンドケーキ三本とイチゴの蜂蜜漬け小ぶりの壺一つ分である。
この出来であれば、正直、凄くお買い得だと思う。
物作り妖精のお姉ちゃんが”何か追加で必要な物があれば、言ってね!”と身振り手振りで言ってくれる。
追加か……。
中の家具とかは、実は、妖精ちゃんの町で購入しようと思っているんだよね。
だから、あえて作って貰う必要は……。
そこで、ハタと気づく。
「あ、中の住人を作って貰うの忘れてた!」
そうなのだ。
小さな家を作っても、人がいなくてはがらんとして寂しい。
それを防ぐために、住人のお人形が必要なのだ。
前世、日本であれば、確かウサギとか猫の擬人化した人形を置いていたはず。
そのことを物作り妖精のお姉ちゃんやシャーロットちゃんに話していると、肩をちょんちょん叩かれた。
視線を向けると、妖精姫ちゃんが何故か胸を張って飛んでいた。
え、姫ちゃん何?
え?
姫ちゃんが住人になる?
この大きさなら、十分住める?
そりゃ、妖精ちゃんのサイズに合わせて作って入るけど……。
「姫ちゃんは無しの方向で」
わたしがきっぱり言うと、妖精姫ちゃんはショックを受けた顔をする。
そして、”何で! 何で!”と何やらプリプリ抗議をする。
「いや、姫ちゃん、っていうか、多くの妖精ちゃんに言える事だけど、住まわせたらそのうち、我が物顔で占領し、ちょっと触っただけで怒り出したりしそうだもん」
妖精姫ちゃんは”そんな事しない!”って断言してるけど、わたし、妖精ちゃん達のそういう所、もう信用してないから!
少なくとも、わたしの趣味であるこの家には一切触らせないから!
もう、姫ちゃんはあっちに行って!
わたしは容赦なく追っ払うのだった。
わたしとシャーロットちゃんが椅子に座りながらミニチュアの家について話し合っているとゴロゴロルームから出てきたヴェロニカお母さんが「あら、可愛い家ね」と言ってくれる。
さらに、食料庫から戻ってきたイメルダちゃんが「また、変な事を始めたわね」と呆れた顔をした。
変な事では無いと思うけどなぁ~
なんて思いつつ、わたしはシャーロットちゃんと、真剣に話し合う。
「この部屋の絨毯はピンク色の方が良いかな?」
「うん、可愛いと思う!」
ここはピンクに決定っと。
木札にその旨を書き込んでいく。
「じゃあ、次はこの部屋だけど……。
何の部屋にしようかな?」
「そこ、シャーロットの部屋にしたい!」
「え?
シャーロットちゃんの?」
「うん!」
「……そういうのも良いのかな?
じゃあ、そこはシャーロットちゃんの部屋という事で、壁紙はどんな色が良い?」
「えぇ~っと」
とシャーロットちゃんが考え込む。
そんな様子を、わたし達が座る側まで椅子を持って来たヴェロニカお母さんが、ニコニコしながら座りつつ見ている。
イメルダちゃんは「もう、人形遊びをする年じゃ無いと思うけど……」などとブツブツ言っている。
が、ミニチュアの家の前に座るわたし達の後ろを行ったり来たりしてるので、どこかのタイミングで空いている部屋をイメルダちゃんの部屋にする事を提案しないと駄目だろう。
そんな事を考えていると、シャーロットちゃんがわたしを見上げながら言う。
「サリーお姉さま、どんな風にするのが良い?」
「う~ん、そうだなぁ……。
妖精ちゃんの町に行って、考えるのはどうかな?
家具とかも買わないと行けないし」
「うん!
そうする!」
「じゃあ、雨が止んだら、妖精ちゃんの町に行って、探してこないとね」
と言いつつ、チラリとミニチュアな家の中の、ダイニングテーブルでお茶を飲む、妖精姫ちゃんに視線を向けた。
姫ちゃんは”歓迎する”と言うように、身振り手振りをする。
結局、この家を姫ちゃんに使って貰う事になった。
有り体に言えば、根負けした。
ただ、勝手に改造しない事と、わたし達が選ぶレイアウトについて、文句を言わない事を約束させた。
”絶対約束は守る!”というように身振り手振りをしていたけど……。
果たして、どこまで信用して良い物か、悩ましい。
因みに、姫ちゃんは羽があるから入れないのでは?
という疑問もあったけど、器用というか何というか、ミニチュアの家に入る時、羽を小さくしていた。
お茶を用意した妖精メイドのサクラちゃんも小さくしていたので、羽根つきの妖精ちゃんは皆出来そうだ。
凄い!
……のかな?
そんな事を考えていると、家の外で降りしきる雨音に混ざって、雷鳴らしき轟音が響いた。
「きゃ!」「ひゃ!?」
イメルダちゃんとシャーロットちゃんが悲鳴を上げる。
ヴェロニカお母さんも少し、ビクッと体を震わせた。
「なんか、荒れてきたね」
わたしは抱きついてきたシャーロットちゃんの背中を撫でつつ、誰とは無しに呟くと、「そ、そうね」とイメルダちゃんが少し怯えつつ、扉に視線を向けた。
多分、その先にある外に意識を向けているのだろう。
「ちょっと、外の様子を見てこようかな?」
安心させるために行ったつもりだったけど、イメルダちゃんが目を剥いて「駄目よ! こんな時に外に出たら!」と怒ってきた。
ヴェロニカお母さんやシャーロットちゃんからも「イメルダの言う通りよ!」「サリーお姉さま、中にいよ!」と言われてしまう。
心配させるのは本意で無いので「うん、そうする」と前言を撤回した。
因みに、今世のわたしは何回か雷に当たった事がある。
初めて当たったのは、八歳ぐらいの頃か。
びっくりして
そういえば、
なんて思い出していると、イメルダちゃんが心配そうに訊ねてきた。
「ねえ、サリーさん。
結界は雷を防いでくれるかしら?」
「雷は無理なの」
「そうよ……ね」
我が家を覆っている結界は魔術とかは省いてくれるけど、雷は流石に防いでくれない。
避雷針とか作っておいた方が良いかな?
勿論、どうやって作れば良いのかは分からないけど……。
金属の棒を刺して置けば、家への直撃を防いでくれないかな?
そんな事を考えていると、近衛騎士妖精の
そして、身振り手振りで言う。
え?
大丈夫?
大木があるから?
ああ、そういえば、大木が家を庇うように伸びてたね。
でも、大木の方は大丈夫なの?
え?
大木には雷よけの力がある?
近くにもその影響力が渡るから、家も大丈夫?
なら、安心だね!
イメルダちゃんもシャーロットちゃんもホッとした顔になる。
ヴェロニカお母さんは「あの大木、凄いわね」と感心していた。
ん?
視線に入った妖精姫ちゃんが何か険しい表情で、ゴロゴロルームの方を見ていた。
ゴロゴロルームと言うより、南東の方かな?
いつものお茶目で可愛らしい姫ちゃんとは違い、深刻そうに見えた。
だけど、わたしの視線に気づいた妖精姫ちゃんは、いつもの姫ちゃんの笑顔で、”どうしたの?”と言うように小首を捻っていた。
突っ込んだ方が良いのかな?
とも思ったけど、シャーロットちゃんが「サリーお姉さま、この部屋もシャーロットが決めて良い?」と言い出したので「ああ、そこはイメルダちゃんの――」と慌てて止めに入り、突っ込むタイミングを逸してしまった。
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