ちっちゃな家!1

 白いモクモクを開くと、様子を確認する。

 薄黄色のそれは、なかなか上手く出来ているように見える。

 ふむ。

 左右の白いモクモクを駆使して、一個ずつそれを皿の上にひっくり返しながらのせる。

 ぷるんと揺れた黄色いそれの上に、茶色のカラメルが上手く乗っていた。


 中々良い感じ!


 それを、三皿に乗せていく。

「よし、完成!」

と声を漏らすと、台所から覗いていたイメルダちゃんが「何なのそれ?」と訊ねてきた。

 その隣にいるシャーロットちゃんや、”関係ない”ヴェロニカお母さんや妖精姫ちゃん達も興味津々の様子だ。

「これは、プリンって言うの!」

 答えて上げると、イメルダちゃんが「聞いた事無いわね」と小首を捻った。

 まあ、異世界の――イギリスだったっけ? そこのお菓子だからね。


 いや、それより何よりだ。

 お毒味をしないと、成功かどうか分からない。


 視線を戻すと、流石というか、シルク婦人さんがスプーンを渡してくれた。

 どれどれ……。

 軽くすくってパクり。

「うん、美味しい!」

 シルク婦人さんにも勧めると、色んな角度で観察していた婦人さんも、スプーンですくった。

 口に入れたシルク婦人さん、問題ないと思ったのか、こくこく頷いていた。


――


「サリーお姉さま、これ美味しい!」

「そうね、カラメル? だっけ?

 これを含めて口に入れると、なお良いわ」

 中央の部屋食堂で妹ちゃん達はプリンを美味しそうに食べている。

 それは良かった!

 そして、三つのうちの一つは毒味兼わたし用だったんだけど……。

 ヴェロニカお母さんや妖精姫ちゃんの圧に負けて、三等分する羽目になってしまった。


 まあ、いいけどね。


 因みに、先ほどそれを見たイメルダちゃんが「わたくしの分も――」と差し出そうとしたけど、それは止めた。

「これは妹ちゃん達に食べて貰いたくて作ったの!」と言ってだ。

 ヴェロニカお母さん達もそれには頷きながら「わたくし達は少しあれば大丈夫よ」とニッコリ微笑んだ。

 多分、イメルダちゃん自分を慰めるためと悟ったのだろう、姉的妹ちゃんは「もう、これ以上はいらないから」と複雑そうな顔をして言った。


「本当に、滑らかで甘くて美味しいわ。

 ……言ってくれたら、わたくしの朝食分の卵も喜んで渡したのに!」

 などと、ヴェロニカお母さんは、ぼそっとだが何やら悔しそうに呟いた。


 ヴェロニカお母さん、せっかく先ほど付けた、良き母親の仮面が外れかかっていますよ?


 可愛い妹ちゃんも「シャーロット、朝食じゃなくて、こっちに卵を使って欲しかった!」とか言っている。

 まあ、どうせなら甘味にしたかった気持ちは分かるけどね、朝食は朝食で大切だからね!

 そのことを話すと、イメルダちゃんも「そうよ、シャーロット。朝食は朝食でしっかりと取らないと」と同意してくれた。


 イメルダちゃんは、本当に大人だ!


 そして、実際の大人なヴェロニカお母さんは「早く、卵を三つ使えるようになれたら良いのに……」とぼやいていた。


 この大人は!


 ……まあ、それはわたしも思ってるけどね!


「あと、どれくらいでかえるんだろう?」

と分かりそうな人に視線を向けると、プリンを頬張っていた妖精姫ちゃんが身振り手振りで”あと十日ぐらい”と教えてくれた。


 十日かぁ~

 まあ、仕方が無いよね。


――


 プリンを食べ終えて、テーブルを片付ける。

 イメルダちゃんは食料庫に戻り、ヴェロニカお母さんはゴロゴロルームでエリザベスちゃんの様子を見に行っている。

 雨が降っているし、これからどうしようかなぁ~

 なんて思っていると、女の妖精ちゃん達が足をちょこちょと叩いてきた。


 なぁ~に?

 どうしたの?


 物作り妖精のおじいちゃんと同じく、羽の無い妖精ちゃんで、年の頃は二十歳くらいの女の人達だ。

 オーバーオールだっけ?

 ノースリーブに肩紐のあるズボンを履いていて、頭にはタオル(?)を巻いている。

 手には何やら木槌を持ってたりするから、見覚えは無いけど、物作り妖精ちゃんなのかな?

 そんな、彼女らが身振り手振りをする。


 え?

 外?

 付いてきて欲しい?

 え?

 付いて行けば良いの?


 テーブルの上を拭いていた布巾をシルク婦人さんに返し、促されるまま玄関まで行く。

 それに気づいたシャーロットちゃんやケルちゃんも近づいてくる。

「ねえねえ、サリーお姉さま。

 どこ行くの?」

「よく分からないけど、この子達が付いて来て欲しそうなの」

 などと言いつつ、玄関を開ける。

「あ、雨が降ってるから、シャーロットちゃんは中で待ってて」

と制して、妹ちゃんに不満そうにされたけど、その辺りはしょうがない。

「ごめんねぇ~」と言いつつ、シャーロットちゃんの前で内側の扉を閉める。

 そして、物作り妖精のお姉ちゃん達に促されるまま、外側の扉を開けて外に出る。


 外はザアザアと、なかなかの勢いで雨が降りしきっている。

 物作り妖精のお姉ちゃん達が上を指さすので見上げると、何やら箱状の物がゆっくりと下りてくるのが見えた。

 いや、そのまんま箱かな? 皮っぽいもので出来た覆いを被せてある。

 どうやら、それらを運んでいるのは六人ほどの羽を持つ妖精ちゃんの様で、雨合羽あまがっぱっぽいもの着て、慎重に進んでいた。


 あの箱を受け取れば良いのかな?


 わたしは右手から白いモクモクを伸ばし、それを受け取る。

 それを見守った妖精ちゃん達が大木の方に戻っていくので「ありがとう!」と手を振っておいた。


 さて、これは何だろう?


 横長で結構大きい。

 わたしの体格では、腕で抱えるのはちょっと難しそうだ。

 まあ、白いモクモクで運べば問題は無いけどね。

 慎重に家の中に入れる。

 それにしても、なんだろう、これ?

 シャーロットちゃんも「サリーお姉さま、それなぁに?」と聞いてくる。

「さあ?

 何だろう?」

 チラリと物作り妖精のお姉ちゃん達に視線を向けると”良いから開けて!”と身振り手振りをしてくる。

 どれどれ?


 箱を床に下ろすと革製の覆いを外す。

 蓋の部分には釘などで留めてなかったので、蓋は簡単に開いた。

 中にはクッション? っぽい物が見えた。

 あ、緩衝材として入れているのかな?

 それを退かすと……。

 何やら屋根っぽい物が見えた。

「あ!

 これ、出来たんだ!」

 白いモクモクを箱に流し込み、慎重に持ち上げる。

 出てきた物に、シャーロットちゃんは目を丸くした。

「ちっちゃいお家!?」

「うん、ちっちゃいお家!」

 魔法少女のテレビアニメ、その間に流れたCMにちょくちょく出てきた玩具のお家、幼いわたしは、それが凄く欲しかった。

 だけど、前世の両親はそんなものをおねだり出来るような人たちでは無かった。

 だから、恐らく前世のわたしはそれを手に入れる事は無かっただろう。

 だが、前世の敵を今世で討つ、じゃないけど、妖精ちゃんの町に行って無性に欲しくなってしまったのだ。


 わたしだけのお人形の家が!


 わたしがその家をテーブルの上に置くと、物作り妖精のお姉ちゃん達が身振り手振りをする。


 え?

 説明するから、お姉ちゃん達をテーブルの上に?

 いや、羽のある妖精ちゃんとは違い、地面を歩く妖精ちゃん達にテーブルの上を歩かせる訳には……。

 え?

 スリッパを持ってきてる?

 用意が良いね。


 それならばと、スリッパを履いたお姉ちゃん達をテーブルの上に運んで上げると、彼女たちはミニチュアな家に駆けていく。

 そして、二人のお姉ちゃんが家の裏側下にあるつまみを持つと、思いっきり引っ張った。

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