ワイバーン君の羽が欲しい?
飛んできた妖精メイドの黒バラちゃんに花束とクッキーの箱を渡しつつ、イメルダちゃんが訊ねてくる。
「それで、質問の件はどうだった?」
「うん、聞いてきたよ」
回答を書き込んだ木板を渡す。
ゴロゴロルームからニコニコしたヴェロニカお母さんが出てきて「お帰りなさい」と言ってくれたので「ただいま」と答えつつ、少し考える。
うん、一応、起きた事を話しておいた方が良いかな?
シャーロットちゃんにはちょっと早いかな? と思ったので、ケルちゃんと軽運動室に行って貰う。
妖精メイドのウメちゃんも一緒に行ってくれたから、大丈夫だろう。
そして、シルク婦人さんがお茶とクッキーを出してくれたので、それを頂きつつ、黒バラちゃんがテーブルの真ん中に置いてくれた花瓶に挿した金管楽器のお花に癒やされつつ――ヴェロニカお母さんとイメルダちゃんに農家で起きた事を話す。
イメルダちゃんは顔を顰めながら、言う。
「何、その人――信じられないわね」
ヴェロニカお母さんも「そうね」と言いつつ困ったような顔をする。
わたしは腕を組みながら、自分の考えをまとめつつ言う。
「まあ、そのおじさんはともかく、わたし、ちょっと甘かったのかな? って思ったの」
「甘かった?」
イメルダちゃんが不思議そうにするので、わたしは頷く。
「なんとなく、訊ねたら教えて貰える気でいたって事。
冷静に考えたら、作物の育て方なんて、農家の人たちにしたら、自分たちが代々試行錯誤を積み重ねてきた技術だものね。
無償で教えて貰うのは厚かましい事じゃ無いかな」
「そうね……」
とイメルダちゃんも苦い顔で頷く。
「せめて、手土産でも持っていくべきだったと反省したよ。
まあ、今回はお手伝いをしておいたから、問題ないと思うけどね」
「そうね。
わたくしも迂闊だったわ。
今後は注意が必要ね」
とイメルダちゃんは頷いた。
視線に入ったヴェロニカお母さんも少し、渋い顔をしていた。
ヴェロニカお母さんもその部分が抜けていたのかもしれない。
そのことは良いとして、別の事を話す。
「あと、
そう言いつつ、組合長のアーロンさんとの話をする。
タダで上げるという部分で、イメルダちゃんが渋い顔をしたけど、「目立たない為だから」と説明した。
ヴェロニカお母さんが少し困った様に眉を寄せる。
「サリーちゃんの勿体ないと思う気持ちも分からなくは無いけれど……。
目立たないようにするなら、やはり町へは持っていかない方が良いと思うわ」
まあ、そうだよね。
でも、取りあえずはこの方法での譲渡は今回だけと説明すると、イメルダちゃんもヴェロニカお母さんも一応、頷いてくれた。
イメルダちゃんが「あ、物作り妖精のおじいちゃん達が、羽の膜の部分が欲しいって感じにしてたわよ」と言うので困ってしまう。
「アーロンさんもその部分は期待してたからなぁ~
まあ、おじいちゃん達には今回は諦めて――」
気配を感じ、視線を床に下ろすと、いつの間に部屋の中に入ってきていたのか、物作り妖精のおじいちゃん達がわたしが座る椅子まで駆けて来て、わたしの足をベチベチ叩いてきた。
えぇ~
あ、そういえば、白狼君達に上げた分、彼ら、羽の膜は食べてないかも。
そのことを話すと、おじいちゃん達に”だったら、早く取りに行け!”と身振り手振りで言われてしまった。
えぇ~
人使いが荒いなぁ~
――
朝、起きた!
むくりと起きて、横を見る。
イメルダちゃんはフェンリルぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、眠っていた。
その顔は少し、辛そうだ。
平気そうにしていたけど、やっぱり、今でも怖いんだろう。
掛け布団を肩まで掛けて上げた。
シャーロットちゃんは……。
「ワイバーンのお肉……」
と嬉しそうにもにょもにょ言っている。
……楽しみなのかな?
昨日、
でも、イメルダちゃんは嫌がるかと思い、視線を向けると姉的妹ちゃんに「変に気を遣わない!」と怒られてしまった。
でも、しばらくは出すのを控えようと思っていたんだけど……。
シャーロットちゃんがこれだけ楽しみにしているのだから、出さざる得ないかな?
それに、いっそ、さっさと食べてしまった方が踏ん切りが付くかな?
難しい所だ。
そんな事を考えつつ、寝間着から着替え、外に出る。
扉の前で座っていたケルちゃんに「おはよう~」と抱きしめ、モフモフを堪能する。
ただ、なんだかケルちゃん、元気が無い。
「どうしたの?」
と聞きつつ気づく。
外から雨の音が聞こえる。
「がう~」「がう」「がっ」と不満そうに声を上げるケルちゃんに「今日は家の中で大人しくしてようね」とその背中を撫でて上げた。
すると、何かが近づいてくる気配を感じ、視線をそちらに向けると、物作り妖精のおじいちゃん達が近寄ってくる所だった。
そして、身振り手振り何かを言っている。
え?
羽?
ああ、
え?
足りない?
二匹分もあったのに?
昨日、あれからおじいちゃんにせっつかれ、
恐らく、白狼君達が巣まで持っていったんだろう。
それなら、仕方が無いよね――なんて、当然なる事も無く、わたしの肩に乗っていた物作り妖精のおじいちゃんは”探せ! 探せ!”と三つ編みを引っ張ってきた。
致し方が無く、痕跡をたどっていると、どのように気づいたのかは定かで無いけど――白狼君(リーダー)がわたしの元まで駆け寄ってきた。
なので、翼が必要だと説明すると、きちんと
まあ、地面を引きずったりしたからか、土や砂で汚れていたけど……。
それも、わたしが白いモクモクで水を出し綺麗にして上げた。
いくらか不満そうにしながらも、物作り妖精のおじいちゃんも受け取っていた。
なので、この件はこれで終わりだと思っていたんだけど……。
物作り妖精のおじいちゃん達は身振り手振りをする。
え?
後一体分、足りない?
いや、だから三匹分は町に渡すって話になっているの。
え?
羽だけ切り取れば良い?
いや、不自然じゃん!
出来るだけ、自然に渡したいの!
え?
せめて、片翼だけでも?
う~ん、ちょっと考えるよ。
おじいちゃんは”頼むぞ!”という様に身振り手振りをした後、去って行く。
はぁ~
困った、おじいちゃんだ。
あ、雨!
「おじいちゃん!
外にある
わたしはおじいちゃんの背中に叫ぶのだった。
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