町に行かなくって大正解?
そういえばママ、”人間は別”みたいな事を言っていたなぁ~
何やら、説明してくれていたけど、ママの毛に埋もれながらだったから、寝流しちゃった。
あれ、どういう意味だったんだろう?
そんな事を考えている間に、グラハムさんが「なるほど、狩人らしい考え方じゃな」と感心した様に頷いていた。
アーロンさんも少し困ったようにだが頷いた。
「お前の気持ちは分かった。
今回はそのようにしよう。
ただ、どちらにしても毎回同じようには行かないからな。
それについては、考えておく」
「うん、よろしく」
わたしは頷いた。
結界を超えて、我が
早く帰る予定が、空が夕焼けに染まり始めている。
いやぁ~地味に大変だった。
結果的に言うと、イメルダちゃんが町に行かなくて大正解だった。
小白鳥の件もそうだけど、農家にお邪魔した時が酷かった。
話を聞くだけのつもりで行ったのに、散々働かされてしまったのだ。
いや、冷静に考えたら分かるよ?
タダで農業技術を教わるなんて、虫が良すぎるよね。
だけど、紹介された農家のおじさん、わたしを見るなり「何だ、女か!」と吐き捨てるように言い「さっさと、耕せ!」と顎で指図してくるのってどうなのよ!?
しかも、馬鹿広い畑を指示して、当人は木の陰でのんびり座っているの。
もう、むっかぁ~としたけど、ぐっと堪えて、サクサクやっていったの。
急いで帰らなくちゃならないから、手早くね。
そしたらさ、おじさん、なんかニヤニヤ笑いながら近づいてきて「お前、なかなかやるな。ガキだけど顔も良いし、俺の嫁になれ」とか言ってきたの。
もう、わたしね。
なんて言うか、生まれて初めて、人間をぶん殴ろうかと思っちゃったよ。
でもさ、なんかひょろっとしたおじさんを殴るなんて、流石にマズいと思ったからさ「小汚いおじさんとか、結構です」とお断りをしたの。
そしたら、まあ、案の定、そのおじさん怒りだした訳なんだけど……。
それと同時に近くに来ていた他の農家の人たちが大笑いをして「そりゃそうだ!」とか「こんな可愛い子を嫁にとか、身の程知らずが!」とか言い出したの。
そのおじさん、周りの人たちにも色々喚いていたけど、農家の人たちはそれを完全に無視――その中のおばちゃん達にわたし、連れて行かれたの。
そして、何故か全然関係ない他の農家の人たちに「ごめんね、嫌な思いをさせて」と謝られた。
何でも、あのおじさん、ここ最近、たびたびああ言う事をして、問題を起こしているんだって。
受付嬢のハルベラさんは知らなかったのかな?
いや、知ってたらあの真面目委員長系受付嬢さんが紹介する訳無いか。
そんな事を考えつつおばちゃんと話していると、その人達がイメルダちゃんが聞きたいと言っていた内容を丁寧に教えてくれた。
凄く助かった!
そのお礼に、色々お手伝いをしてたらさ、ちょっと頑張りすぎたのか、他の農家の人たちも「うちの息子の嫁に来てくれ!」とか「養女に!」とか大騒ぎになって大変だった。
何とかお断りとお礼を言いつつ、例のおじさんが「まだうちの畑が――」とかぶつぶつ言っているのをスルーしつつ、何とか冒険者組合に帰り着いた時は、精神的に疲れちゃった。
そんな様子に驚いたハルベラさんが声をかけてくれたので、愚痴ったら、美人受付嬢さんに凄い勢いで謝られてしまった。
いや、これもさ、冷静になると無償で紹介して貰った訳だしね。
にもかかわらず、責任を問う事なんて出来ないよね。
だけど、ハルベラさんに首を横に振られてしまった。
「無償、有償は関係ないの。
冒険者組合として紹介したなら責任が生じるのよ」
いつの間にか来ていた組合長のアーロンさんも重々しく頷いていた。
そして、マッチョ系組合長さんが「二度とそのようなふざけたマネはさせない」と言っていて、何故か側に居た冒険者のお兄さん達も険しい表情で頷いていた。
なら、今後は問題ないかな?
わたしはともかく、気の弱い女の人とかだったら、取り返しの付かない事になっていたかもしれないので、この辺りはしっかりして欲しい。
あ、念のために、他の農家の人たちは優しくて、ちゃんと教えてくれた事は伝えておいた。
それを聞いたアーロンさんは「基本的に、あの辺りの人間は気が良い奴らが多いんだ」と頷いてた。
だからこそ、紹介してくれたんだろうね。
あと何やら、冒険者のお兄さんやおじさん達が「サリーちゃんに? ふざけているなぁ~」とか「災難だったな。しかし、犬耳の治療師相手に……なるほど、なるほど」とか「今後は……まあ、多分無いだろうから、元気を出せ!」と慰めてくれた。
皆、優しい!
……なんか、笑顔がちょっと怖かったけど――皆良い人だ!
あと、ハルベラさんに「こちらも、謝罪しないと行けない案件なんだけど……」と言いつつ、ケルちゃん用の首輪を渡される。
「凄く、お待たせしてごめんなさい」
などと申し訳なさそうにされたけど、これも、特に謝られる事では無い。
……まあ、
ハルベラさんを責める事は当然出来ない。
「問題ないよ!
ありがとう!」
と受け取った。
その後、組合長のアーロンさんと少し話をした。
実は解体所で
アーロンさんとしては、ケルちゃんの従魔登録はその後にして欲しいとの事だった。
まあ、今のところ、急ぐ案件など無いから、了承しておいた。
後は、手芸妖精のおばあちゃん達の要望である布や顔料などを手早く買い、途中、再会した小白鳥の皆や赤鷲の団のアナさんと少し話をして、帰ってきた。
荷車を車庫に入れる。
荷物を手に持ち、車庫から出ると、手芸妖精のおばあちゃん達が飛んできたので買ってきた物を渡した。
そして、「ただいまぁ~」と家に入る。
シャーロットちゃんが「お帰り~」と腰に抱きついてきたので「ただいま」と頭を撫でる。
「へへへ」と嬉しそうに笑っている、妹ちゃん、可愛い!
テーブルで何かを書いていたイメルダちゃんが視線を向け、「お帰り」と言いつつ訊ねてくる。
「その花束、どうしたの?」
「これ、小白鳥の皆から、イメルダちゃんにって」
「わたくしに?」
「うん」
わたしが持っているのは黄色くて可愛らしい花を五本ほど、紐で束ねたものだ。
先ほど、わたしが町から出ようとした時に、小白鳥の皆に渡された物だ。
小白鳥の団団長のヘルミさんは「金管楽器のお花」と呼んでいた。
確かに、前世で見た楽器のラッパに似ている気がする。
イメルダちゃんに渡して上げると、姉的妹ちゃんは困惑しながら受け取った。
「魔獣に襲われたって話したら、持っていって上げてって」
と説明すると、「そういうことね」と頷いた。
あと、小白鳥はイメルダちゃんが初めて町に行った時にあったお姉さん達だと教えて上げると、「ああ、あの人達ね……」と顔を引きつらせていた。
まあ、その反応も仕方が無いよね。
でも、花を見ているイメルダちゃんは「可愛い花ね」と微笑んでいるので、プレゼント自体は気に入っているようだ。
「あと、赤鷲のアナさんからも、
甘い物を食べれば元気になれるって」
と小ぶりの箱を渡して上げる。
いつものケーキ屋さんの物だ。
イメルダちゃんは受け取りつつ「こんなに頂いて、申し訳ないわ」と困ったように眉を寄せていた。
「まあ、お返しに干し果物でも渡しておくよ」
と言うと、「そうして貰える?」とイメルダちゃんは少し申し訳なさそうにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます