お姉様的妹ちゃん?

「ごめん、起こしちゃった?」

「……大丈夫、うとうととしてただけだから」

 イメルダちゃんの焦げ茶色の瞳がこちらを向く。

「……あと、怖い思いをさせてごめんね」

 情けない表情をしているだろうわたしに、イメルダちゃんは苦笑する。

「さっきも言ったでしょう?

 魔物に襲われるのも、覚悟の上だって。

 そもそも、わたしなんて戦う力が無いんだもの。

 守って貰っておきながら何かあった時に文句なんて、言えないわよ。

 むしろ、サリーさん、助けてくれてありがとう。

 本当に助かったわ」

「……なんか、イメルダちゃんの方がお姉さまみたい」

 わたしがちょっといじけた感じに言うと、イメルダちゃんは何故かおかしそうに笑った。

「何でよ!

 わたくしなんて、何も出来ないのに。

 自分の身も守れない。

 料理だって出来ないし、身の回りの物だって用意すら出来ない。

 サリーさんはむしろ、自分が凄いのだと自覚した方が良いんじゃない?」


 まあ、確かにわたしは戦えるし、一応、料理っぽい事も出来る。

 でも、それでも、イメルダちゃんの方が大人っぽく思えるんだけどなぁ。


 そんな事を考えていると、イメルダちゃんはベッドから起き上がり、出ようとする。

「今日は寝ておいた方が良いんじゃない?」

と言うけど、我が国の宰相様は「もう大丈夫よ」と手で制してきた。

 そして、「でも、流石に今すぐ町には怖くて行けないわ」と言いつつ、町に行く用のわたしのお古から、普段着に着替え始めた。



 イメルダちゃんと寝室から出ると、中央の部屋食堂のテーブルに座っていたヴェロニカお母さんやシャーロットちゃんが、心配そうに近寄ってきた。

「イメルダ、起きていて大丈夫なの?」

「はい、ご心配をおかけしました」

 イメルダちゃんは頷くと、わたしの方を向く。

「わたくしは今日、町に行けないけど、サリーさんには代わりに話を聞いてきて欲しいの」

「え?

 今日は出かけないつもりだったんだけど……」

 怖い思いをさせたイメルダちゃんの為に、側に居て上げよう――そう思っていたのだが、イメルダちゃんは首を横に振った。

「お忙しい中、時間を取ってくれた農家の方に申し訳ないわよ。

 一応、木板に聞きたい事を書いてあるから、わたくしの代わりにお願い」

 まあ、確かに待たせているのに行かないのは、かなり礼を失する行為ではある。

 だけど、イメルダちゃんの事も心配だ。


 う~ん、どうしたものか?


 などと、考えていると、妖精姫ちゃんがすーっと飛んできて、身振り手振りで言う。


 え?

 行ってきて?

 中なら結界もあるし、妖精姫ちゃんわたし達がいるから安心?


 すると、近衛騎士妖精の皆が、飛んできて、イメルダちゃんの周りに浮遊すると、”守り抜く!”と言うように、キリッとした顔をする。


 頼もしい!


 そんな可愛頼かわいたのもしい妖精ちゃんにイメルダちゃんも表情を緩め、ヴェロニカお母さんやシャーロットちゃんが「まあ!」「格好いい!」と嬉しそうにした。


 更に、天井からスライムのルルリンが下りてきて、イメルダちゃんの前で”わたしが居るから大丈夫!”と言うようにポヨポヨ揺れ、ケルちゃんもイメルダちゃんの後ろに立つと”絶対守る!”と言うように「がう!」「がう!」「がう!」と吠えた。

 そして、三首してイメルダちゃんに頬ずりをする。

 そんな皆を撫でながら、姉的妹ちゃんは嬉しそうに「ありがとう、頼りにしてるわ」と微笑んだ。


 そんな中、シュンとした感じの近衛騎士妖精のうしおちゃんが、イメルダちゃんの前まで飛んでいくと、”ごめんなさい。役に立てなかった。”と言うようにペコペコ頭を下げた。

 イメルダちゃんは首を横に振る。

「謝る事はないわ。

 それに、潮ちゃんが近衛騎士妖精の皆を連れてきてくれたのでしょう?

 ありがとう!」

「そうだよ、潮ちゃん。

 潮ちゃんが呼びに行ってくれたからこそ、あそこで守りに徹する事が出来たんだよ」

 わたしも言うけど、頷きつつも潮ちゃんの表情は陰ったままだ。


 実際、完全に相手が悪かった。


 それに、潮ちゃんは前線に出るというより、後方で味方を補助するタイプに思える。

 まあ、だからこそ、家を出る前に妖精姫ちゃんが渋ったのだろうけど……。


――


「じゃあ、行ってくるね。

 なるべく早く帰ってくるから」

 わたしが玄関前で言うと、イメルダちゃんは「いつも通りでいいわよ」とあっけらかんと言った。

 こうも、普段通りにされると、気にしてるのはわたしだけなのではと、少々、変な感じになる。


 いや、潮ちゃんもいるか……。


 因みに、潮ちゃんはお留守番だ。

 しゅんとしている潮ちゃんを置いていくと追い打ちをかける感じがしたので、いつも通り「行こうか?」と声をかけたけど、妖精姫ちゃんに止められた。

 姫ちゃんが身振り手振りで言うには、平常心でない現状、連れて行くのは役に立たないし、むしろ危険だから止めるように、と言う事だった。

 潮ちゃんも姫ちゃんの言葉に頷いていた。


 役に立たないって事も無いとは思うけど、確かに危険かもしれないと思い、了承した。

 代わりに、白雪ちゃんが付いてきてくれる事になった。

 メモ帳代わりの木板を荷車に乗せ、白雪ちゃんを胸にしまう。

 う~ん、ワイバーン偽竜君はやはり持っていくのは止めた方が良いかな?


 先ほど、氷付けにしたワイバーン偽竜君を結界内に運んだ。


 家の東側、染色、裁縫工場の前辺りにである。

 とはいえ、運び入れたのは悪役妖精が倒した二匹とわたしが脊髄を殴ってトドメを刺した一匹だけだ。

 顔面を吹き飛ばした二匹は、グロすぎたので、白狼君達に上げた。


 切り裂かれたのも大概であったけど……。


 一応、氷付けにした時にくっ付けたので、まあ、シャーロットちゃんに見せてもギリギリ大丈夫ぐらいにはなった。

 それでも、怖がるかなぁ~なんて思っていたけど……。

 見せて上げると、妹ちゃんは「こんなに大きいのを倒したの!? すごぉ~い!」と嬉しそうにしていた。

 シャーロットちゃんって、大物になる予感がする……。


 あと、やはりというか肉食系女子(意味違い)としては気になるのか「お肉食べられる?」と聞いてきた。

 わたしを始めとするフェンリル一家は普通に食べていたし、尾の部分を覗けば、恐らく大丈夫だとは思うけど、一応、町で聞いてくると約束をしておいた。

 ワイバーン偽竜君の固めの赤肉は、ステーキにすると美味しいので、食べられるのであれば食べさせて上げたい。

 あ、ティラノサウルスお肉、結局、どうするか決めてないや。

 後で、シルク婦人さんに確認しないと。


 そんな事を考えつつ、玄関から見送ってくれている皆に手を振り、出発する。


 結界を出ると、白狼君(リーダー)といつもの一頭が併走してくる。

 ワイバーン偽竜君を二匹も手に入れたんだから、付いてくる意味はないと思うんだけど……。

 相変わらず、律儀な彼らだなぁ。

 付いてこなくて良いよ、と言っても、付いてくるだろうから、もう、いちいち言わないけどね。


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