ため池完成!

 イメルダちゃんと一旦、家に戻る。


 日焼けした箇所には蜂蜜が良いという話をして上げると、イメルダちゃんが興味深げに頷いてくれた。

 わたしが「まあ、わたしが回復して上げれば良いから、不要だけどね」と言うも、イメルダちゃんは首を横に振った。

「そちらも試してみるわ。

 肌に治療魔術を使いすぎると良くないって話もあるし」

「え?

 そうなの?」

「ええ。

 もっとも、美容のために貴重な治療魔術師を使わせたくないが為の方便かもしれないけど……」

「ふ~ん」

 どっちなんだろう?

 エルフのテュテュお姉さんも体力回復魔法に関しては、やり過ぎては駄目と言ってたし、治療魔法にもそういった問題があってもおかしくはないかな……。


 う~ん、念のために、使いすぎるのは控えた方が良いかもしれない。


 治療魔法以外かぁ~

 Web小説に色々あったと思うんだけど、何だったっけ……。

 前世、おしゃれに疎い、ダメダメ中学生女子なわたしだったから、その辺りの箇所は読み飛ばしちゃってたんだよね。


 う~ん、思い出せ!

 思い出せ、わたし!


 などと頭を悩ませつつ、荷車を車庫に入れるのでイメルダちゃんや白雪ちゃん、わたしの胸元から出てきた潮ちゃんと一旦別れる。

 車庫の扉を開けていると、物作り妖精のおじいちゃん達が駆け寄ってきたので「ワニ革は明日以降になりそう」と伝えると、がっかりしたように帰って行った。

 そんな姿に呆れつつ、荷車を入れ、扉を閉めていると、ヴェロニカお母さんが家から下りてきた。

 当然、近衛騎士妖精の黒風こくふう君が護衛として飛んでいる。

 ヴェロニカお母さんが少し心配そうに訊ねてきた。


手巾しゅきん、どうだった?

 問題にはならなかった?」

「うん!

 大丈夫だよ。

 店長さんも喜んでいたし」

 わたしの返答に、ヴェロニカお母さんは顔をほころばせ「なら良かったわ」と頷いた。


 実際、ヴェロニカお母さんの特別製のハンカチ、凄く素敵だった!


 ただ、朝にも聞いていたことだったけど、生地屋の店長さんが依頼したように、全く同じ物を二枚ではなかった。


 ヴェロニカお母さん曰く「どんなに同じにしようとしても、完璧にする事は不可能だし、いくら近づけたとしても、小さな差で揉めるんじゃないかしら?」との事だった。


 それこそ、皺一つで、である。


 確かに、その懸念は全く無いとは言えないと思う。

 生地屋の店長さんも「確かに」と渋い顔で頷いていた。


 そこで、ヴェロニカお母さんは二人にそれぞれ満足して貰えるだろう物を刺繍したとの事だった。


 一枚は黄色くてフリルを重ねたような花が刺繍されたハンカチだ。

 前世で言う、カーネーションかな?

 花言葉は”美”との事だったけど、どちらかというと可愛いって感じの花だった。


 もう一枚は真っ赤な花びらを幾重にも重ねたような花だった。

 これは異世界にしかない花かな?

 もっとも、前世イケてない系女子中学生なわたしが、単に知らないだけかもしれない。

 店長さんは知っているようで「これは”愛らしい蛙”の名で親しまれている花だよ」と教えてくれた。


 蛙……。

 それ、良い意味なの? って思っちゃったけど、花言葉の”華やかな魅力”に合った美しい花だった。


 それぞれの花言葉がご令嬢に相応しいという事もあるけど……。

 何よりそれぞれの髪の色に合わせた花なので、ヴェロニカお母さんが言うには、より、特別感が出るのでは? との事だった。


 わたしのそういった説明を聞きつつ、その二枚を見た店長さんは、目をキラキラさせながら「なるほど! これなら、絶対に喜んで貰える!」と喜んでいた。

 なので多分、大丈夫だと思う。


「わたしも一枚欲しくなっちゃった!」

と言うと、ニッコリとしたヴェロニカお母さん、「サリーちゃんになら、何枚でも作って上げるわよ」と言ってくれた。


 嬉しい!


「じゃあね、じゃあね、可愛い花で作って欲しいの!」

とか言いつつ荷車から荷物を取り出し、ヴェロニカお母さんと家の中に入った。


――


 お昼を軽く食べてから、ため池作りを再開する。

 メンバーはわたし、イメルダちゃん、妖精メイドの黒バラちゃん、物作り妖精のおじいちゃん達、そして、近衛騎士妖精君達である。


 太陽が高い位置に陣取り、陽光がかなり強くなったので、イメルダちゃんには「家の中にいたら?」と言ったんだけど……。

 責任感の強い宰相様は、強い意志を持って、その提案を却下した。

 素晴らしく、好ましい態度だけど、麦わら帽子をかぶっても、日焼けが酷い事になっちゃうのでは?

 そんな風に心配していると、手芸妖精のおばあちゃんが、すーっと飛んできた。

 そして、ドヤっ! と”それ”を見せてきた。


 可愛いフリルのついた白い日傘だった。


 なので今、イメルダちゃんの後ろには日傘を差す、妖精メイドの黒バラちゃんが飛んでいる。

 ちっちゃくて可愛い妖精ちゃんが一人で体格の何十倍も大きい傘を持つ姿はなかなかシュールだ。


 わたしもイメルダちゃんも、小さな黒バラちゃんが日傘を差すのには反対したんだけど、”平気平気!”と軽々と持つ姿に、取りあえずは任せる事にした。

 チラリと見たけど、疲れた様子を全く見せない、ニコニコ可愛らしい妖精ちゃんがいた。


 凄い!


 すると、物作り妖精のおじいちゃん達が色んな物を運んできた。

 おじいちゃん達も自分の体の何倍にもなるものを軽々と運んでいる。


 妖精ちゃん達、改めてみると皆凄いなぁ~


 感心していると、物作り妖精のおじいちゃんがわたしの足をペチペチ叩いてくる。


 え?

 さっさと作業しろ?

 はいはい、分かりました。

 え?

 土管、もう出来たの!?

 自信作!?

 どれどれ……。

 これ、確かに丈夫そうだよね!


 土管が出来たのであれば、あとは設置するだけだ。

 基本、おじいちゃん達が作業を行い、わたしが補助する形で行う。


 ため池の周りを石で囲う。

 まずは排出用の溝を掘り、続いて湧き水までを掘る。

 続いて、ため池側からそれぞれの溝に土管を設置していく。

 こちらも、排出用から引いて、続いて受け入れ用を引いていく。

 一応、湧き水を受け取る土管は逆Y型になっていて、ため池側を塞ぎ、逆方向に排出させる事も出来るようになっている。

 ため池の清掃や修繕の時の為のものだ。


 素晴らしい!


 現在はため池側を閉じ、排出側を開いているので、水はバシャバシャと外に出て行っている。

 これをため池側を空け、排出側を閉じればため池に水が溜まっていくはずである。


 わたしはその辺りを説明した後、イメルダちゃんに、初めてため池に水を入れる栄誉を譲る事にする。


「では、イメルダちゃん、お願いします!」

と司会っぽくお願いすると、始め少し照れた顔をした姉的妹ちゃんだったが、それでも真剣な面持おももちになり「行くわよ!」と説明通りの手順で操作をする。

 すると、土管の中をくぐった音が響き、ため池の中に水がパシャー! と吐き出た。

「おぉ~!」

とわたしがパチパチ拍手をすると、物作り妖精のおじいちゃん達も、近衛騎士妖精君達も、妖精メイドの黒バラちゃんも日傘を差しながらも器用に、笑顔で拍手をした。

 イメルダちゃんも嬉しそうに水が溜まっていくため池を見つめながら、それに続いている。


 可愛い!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る