四天王最弱!

 組合長室で、お茶をご馳走になりながら、北東の話をする。


 話し終えると、アーロンさんは頭を抱えてしまった。

「竜――までは行かないまでも、伝説の魔鳥、ロック鳥――しかも特殊個体とは……。

 いや、その事もさることながら、よりによって、それを倒した兄妹とか……。

 酒場の吟遊詩人の与太話より胡散臭いのだが……。

 お前が言うのだから、間違いないんだろうなぁ~

 巨大赤ムカデがここまで逃げてきた事ともつじつまが合うし」

 因みに、巨大赤ムカデが逃げた理由はロック鳥さん(エリート)の鳴き声と説明をした。

 小さいコル兄ちゃんにも責任の一端はあるけど、面倒事になるのを避けての事だ。

 少なくとも、嘘は言ってないから問題ないはず。


 うん、大丈夫のはずだ!


 そんな事を考えている内にも、アーロンさんは続ける。

「お前の兄だ。

 とんでもなく強いのだろうが……」

「お兄ちゃんはわたしなんかより、ずっと強いよ?」

「ず、ずっと――なのか?」

「うん。

 というより、わたしは四兄妹の中では最弱だからね」

 わたしが前世四天王ネタっぽく言うと、アーロンさんは呆然としながら「お前が……最弱、だと? しかも四兄妹……」などと漏らしている。


 いや、言っちゃあ悪いけど、四天王四兄妹の後ろには魔王ママが控えてるんだけどね。

 無駄に混乱させるだけなので言わないでおくけど。


「わしは本当に狭い中で生きていたんだなぁ」などと遠い目になったアーロンさんに「取りあえずは、ムカデ君達が南下してくる事が無くなったよ」と言いつつ、話を少々強引に進める。


 家に戻った後、ため池作りを再開しないと行けないからだ。


「あと結局翌日になったんだけど、川にも行ってきた。

 凄く、大きい川だったよ」

「そ、そうか……。

 何か狩ってきたのか?」

「鰐君――なんだっけ?

 川走かわはしり……だっけ?

 そんな鰐君がいた。

 あと、雷魚――じゃなく、巨大川蛇頭きょだいかわへびあたま君? も捕まえた」

「おお!

 それは素晴らしい!

 巨大川蛇頭きょだいかわへびあたまも良い値で売れるが、川走かわはしり鰐!

 ミスリルトカゲまでは行かないまでも、奴の革は非常に稀少で需要も有り、高値で売買されるから嬉しいぞ!」

「あ、でも川走かわはしり鰐君の革とお肉は持って帰るよ?

 巨大川蛇頭きょだいかわへびあたま君はそもそも、この町ここには持ってきてないし」

「何故だ!」

とアーロンさんは何やらショックを受けた顔になる。

 そして、「今度の時には、是非とも全て売ってくれ!」と懇願してくる。


 でも、鰐君はともかく、雷魚君は我が家で食べるからね。


 そのことを言うと、「川走かわはしり鰐だけでも良いので!」と拝まんばかりに頼み込まれる。


 まあ、鰐君なら良いかな?


「たまにならね」

と答えると、「川の近くで他にも捕らえたら、一度、町に持ってきてくれ!」と言われてしまう。

 我が家の分のついでになら、別に良いけどね。


「そうそう、従魔の件だが……。

 魔道具はそろそろ用意出来る」

「うん、ハルベラさんもそう言ってた」

 これで、ケルちゃんと一緒に町に来れる。

 まあ、最近ではイメルダちゃんがケルちゃん――というか、ライちゃんの植物育成魔法を頼りにし始めているから、しょっちゅう連れてくるって事にはならないだろうけどね。

 なんて、考えている間にアーロンさんの話が続く。

「あの白いスライムは、まあ、あの見た目なら大丈夫だろうが……。

 残りの三頭に関しては……。

 正直不安だ」

「三頭ともよい子だし可愛いよ?

 そもそも、まだ子供だし」

「わしが必要としているのは、お前の感想ではない。

 一般人の感想だ」

「えぇ~!

 その言い草は流石に酷いと思う!」

「わしとて……。

 わしとて、お前の事を信じたい気持ちは有る。

 有るのだが……。

 お前がとてつもない魔獣を連れて来るんじゃないかと思う気持ちも、その十倍ぐらいは有る」

「それ、信じて無くない!?」

「例えば、だ。

 そうだな……」


 アーロンさんは恐る恐るというように聞いてきた。


「お前の従魔は――フェ、フェンリルとか……じゃないだろうな?」

 え?

 ママ?

 いやいやいや!

「あのね、アーロンさん。

 フェンリルって従魔になるような存在だと思う?」

「いや、思わん!

 思わんのだが……。

 ”帰れぬの森”にはフェンリルが住んでいるという伝説があってな」

「”帰れぬの森”ってわたしが住んでいる森の事だよね?

 いないよ。

 前も言ったけど、わたしが住んでいる森には、弱い魔獣しかいないの!

 ……まあ、昔はどうかは知らないけど」

 そういえば、ママって勝手にあの洞窟でずっと住んでいるイメージでいたけど、何百年、何千年かな? 生きているんだよね。

 ひょっとしたら、昔はあの森にいたのかもしれない。

 わたしの言葉に、アーロンさんは何故か表情を明るくさせながら頷いた。

「いや、まあフェンリルだとは、流石に思っていなかったがな!

 うむ、全然思っていなかった!

 とはいえ、ほれ!

 お前が普通の犬と思っていても、実は~なんて事になると困るだろう?

 なので、町に入れる前に、あらかじめ、外でそのセンとかレフとか、だったか?

 その魔獣を見ておきたい」

 ん?

 まあ確かに、その方が良いのかな?


 それに、冷静に考えてケルちゃんって普通かな?

 ケルベロスだし。

 よい子で可愛いのは間違いないけれど……。


「分かった」

と頷くと、アーロンさんは「頼んだぞ」と頷き返してきた。


――


 我がに到着する!

 麦わら帽子を被り、畑の様子を見ているイメルダちゃんと近衛騎士妖精の白雪ちゃんの姿が見えた。

 こちらに気づき、向けてきた姉的妹ちゃんの可愛らしい顔は――またしても日焼けをしたのか、さらに赤い気がする。


 早速、回復して上げよう。


「ただいまぁ~」

と言いつつ近寄る。

「お帰り」と言ってくれるイメルダちゃんに「日焼けは治療魔法で治せるんだって」と言って両手から白いモクモクを出す。


 因みに、先ほど冒険者のおじさんで試してみたので問題ない。


 おじさんも「肌の調子が良い!」と喜んでくれてた。

 厳ついおじさんが頬を触って喜んでいる姿は……。

 いや、そんな話は良いとして!


 イメルダちゃんの頬を両手で覆う様にしつつ、魔力を流す。

 何故か、恥ずかしそうにするイメルダちゃんの頬から炎症が取れる。

 ん?

 まだ、ちょっと赤い?


 両掌りょうてのひらで挟んでみる。


 柔らかすべすべ肌は荒れてはいなさそう。

 あ、恥ずかしいから、赤いのかな?

「終わったの!?」

とイメルダちゃんが少しお怒りモードになった。


 危ない危ない!


 わたしは手を離すと「大丈夫だよ」と頷いて上げる。

 両手で自分の頬に触れたイメルダちゃんが「少しヒリヒリしていたのが取れたわ。ありがとう」と嬉しそうにお礼を言ってくれる。


 どういたしまして!


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