第二十章

可愛い女の子ヒロインじゃないからなぁ~

 荷車を引きつつ、結界を出る。


 しばらく行くと白狼君達が合流してきた。

『君たち、もうしばらくはお肉、いらないでしょう?』

と、がうがうと言っても、”我らの牙は主様の物!”と言うように澄ました顔で「がうがう」と言っている。


 いや、少なくとも、君らの牙でわたしの役に立った事は無いでしょう?

 トドメを刺すのだって、自分たちの為だし。


 そんなやり取りをしつつ、視線を上空に向ける。


 晴天の空には、何も飛んでいない。 ロック鳥さんがいなくなったからか、平和そのものに見える。

 鶏肉もまだまだ有るし、しばらく魔鳥は不要だから問題ないけどね。


 川近くで顔だけは恐ろしいじゃく熊さんが「がおぉぉぉ!」と吠えながら向かってきたので、速やかに鰐君の隣に寝て貰い、先に進む。

 草原に出ると、いつの間にか戻ってきていたサーベルタイガー君の一団を横目で見る。


 ふむ、平和と言えば平和だ。


 この分なら、イメルダちゃんを連れてきても問題ないかな?

 もし仮に、サーベルタイガー君達が狙ってきても、前回と同じ目に遭わせるだけだしね。

 警戒するように顔を上げる彼らを無視して進んでいく。


 途中、花が咲き乱れている場所を発見する。


 可愛い女の子ヒロインなら「まあ、素敵!」とか言って、女の子走りで駆け寄るだろうエリアだけど――ここは異世界、ああいう目立つ場所には罠があるのはお約束だ。

 半野生系女子たるわたしには、わざわざ突っ込んでいく趣味は無い。


 スルーして進んだ。


 ん?

 うわぁ~


 思わず顔をしかめてしまう。


 灰色の羽虫君が大量に飛んでいたからだ。

 一匹一匹が前世雀ぐらいの大きさなので、当然、魔虫だろう。

 それが百匹ぐらい飛んでいる。

 前世のわたしだったら悲鳴を上げていたかもしれない。

 今世、半野生児なわたしは、”別のもの”を上げるけどね。


 わたしを獲物とでも思ったのか、向かってきた一団に対して、わたしは息を吸う。

「うぁおぉぉぉん!」

 ”威嚇の一吠え”の衝撃に、羽虫たちは粉々になり、散らばった。


 彼らははっきり言って弱い。


 一応、ママの洞窟近辺にもいたけど、弱者過ぎて多くの魔獣から相手にされていなかった。

 小さくて食べる所もなく、マズいってのもあるしね。

 とはいえ、集団で襲いかかれば小型の魔獣を数秒で骨に変えるぐらいの攻撃力はあるので、わたしはともかく、イメルダちゃんには危険だ。

 妹ちゃんを連れてくる前に、彼らを発見したのは僥倖ぎょうこうかもしれない。

 ……と思ったら、なんか、灰色の羽虫君の集団、あちらこちらにいるのが見えた。


 えぇ~

 気持ち悪いなぁ。


 そんな事を思っていると、ポリポリという音が聞こえてきた。

 視線を向けると、白狼君達が咀嚼そしゃくしていた。


 ……え、灰色の羽虫君、食べてるの?


 わたしがドン引きしているにも関わらず、白狼君(リーダー)などは”コリコリして美味しいですよ? 主様”とでも言うように、「がうがうがう」と言っている。


 えぇ~

 まあ、野生ならその悪食も美徳なのかもしれないけどさぁ~


 そんな事を思っていると、灰色羽虫君の塊のいくつかが、こちらに向かってきた。


 もう、気持ち悪い!



 林を抜けて町の門に到着する。

 いやぁ~灰色羽虫君には辟易させられた。

 倒しても倒しても、向かってくるのだ。

 最初の内は、”威嚇の一吠え”で倒していたけど、小さいコル兄ちゃんとロック鳥さんによって引き起こされたムカデ問題を思い出し、途中からは白いモクモクを虫網のようにして捕まえ、トドメの踏み潰しを繰り返した。

 そして、白狼君が食べていく流れだった。

 一応、町で売れるかもしれないと思って、十匹ほど頭を潰したのを荷車に入れてある。

 まあ、まず間違いなく売れないだろうけどね。


 ジェームズさんを始めとする門番さん達に手を振り、町に入る。

 荷車をゴロゴロ引きながら、解体所まで行くと、入り口近くに赤鷲の団の皆が立っていた。

 三人はわたしに気づくと手を振ってくれる。

 わたしも振り返しつつ近づくと訊ねた。

「三人とも、どうしたの?」

 赤鷲の団団長のライアンさんが代表して答えてくれる。

「冒険者組合の人に頼まれて、狩った獲物を運んでいたんだ。

 サリーお前はどうしたんだ?

 何か狩ってきたのか?」

「うん、色々とね」


 入り口前では邪魔になるので、中に入る事に。


 すると、わたしに気づいた解体所の所長グラハムさんがニコニコしながら「おお、サリー!」と近寄ってきた。

 そして、「今日は何を狩ってきたんだ?」と言いつつ、荷車の覆いを剥がした。

「羽虫君と鰐君、あと弱クマさん」

と教えて上げると、「川走かわはしり鰐か! これは珍しいな!」とグラハムさんは嬉しそうに続ける。

「肉は高級料理店で持てはやされ、皮は防具や家具で重宝されるので、かなり高値で取引されているぞ!」

 ライアンさんも「冒険者なら、誰もが一度はこいつの皮で出来た防具に憧れるんだ!」と興奮気味に言っている。

「そうなの?

 ただ、皮は欲しいという人がいるから、売れないよ。

 お肉も幾らかは家に持って帰りたいなぁ」

 わたしがそう言うと、グラハムさんは眉を寄せる。

「そうなのか?

 幾らかは売って貰いたいのじゃが……」

「生息域は分かったから、今度、狩ったら売るよ」

「う~ん、仕方が無いか」

 などと、残念そうにするグラハムさんは、灰色羽虫君をつまみ上げる。

「あと、すまんが灰色羽虫君これの買い取りはしておらん」

「やっぱりそうか~」

「ああ、一応、冒険者組合の受付に持って行けば、昇段への評価はされるが……」

「それなら、いいや。

 燃やしちゃおう」

 グラハムさんが「解体所の方で処分してやろうか?」と言ってくれたのでお願いする。

 助かります!


 解体所の人たちが鰐君と弱クマさんを解体するのを赤鷲の団の皆と部屋の隅で眺めつつ雑談をする。

 ライアンさんが言うには、灰色羽虫君――正式名称は灰霧アブというらしい――が町の近くで大量に湧いているらしかった。

「ムカデの次はアブが出てきて、正直、うんざりだ」

とマークさんが顔を顰めると、アナさんも同意するように頷いた。

 少し心配になり、「町は大丈夫なの?」と訊ねると、ライアンさんは微笑みながら頷いた。

「虫を相手にするのが嫌なだけで、それほど強くも無く、対処法も分かっているからな。

 最悪、虫除け用の薬草もある。

 それに、段位が低い奴らが、評価を上げるために必死に狩りまくっているから、さほど問題は無いだろう」


 そっかぁ~

 それなら、気にする必要も無いかな?


「灰霧アブ君? だっけ?

 大量発生するのって珍しいの?」

 訊ねると、ライアンさんは首を横に振った。

「そこまで珍しい訳では無いらしい。

 三、四年に一度ぐらいの頻度で湧くって、火蜥蜴のフレドリクさんが言ってた」

 そうなんだ。

 じゃあ、小さいコル兄ちゃんには関わりの無い事か。

 あ、虫除け用の薬草!

 それがあれば、イメルダちゃんも安全に連れて行けるかな?

 是非とも購入せねば!

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