妖精ちゃんの町に行こう!1

 そこに、ニコニコ顔のヴェロニカお母さんが近寄ってきて「サリーちゃんや妖精姫ちゃん達の言う事をちゃんと聞くのよ」と娘達に声をかける。


 今回、ヴェロニカお母さんはお留守番だ。


 なんでも、末娘のエリザベスちゃんが最近、ヴェロニカお母さんが寝かしつけないとお昼寝をしてくれないとの事で、残る事になったのだ。

 なんだか申し訳ない気がして、パウンドケーキを大きめに切ってあげようとしたら「あらあら、気にしなくて良いのに」と言いつつ、モクモク製パン切りナイフを持つわたしの手を掴み、さらに大きくしようと移動させ、妖精姫ちゃん達と揉めていた。


 この大人は……。


「じゃあ、皆、よろしく」

 わたしが声をかけると、イメルダちゃん達を乗せた籠を、近衛騎士妖精の皆がゆっくり持ち上げ、運んでいく。


 さて、と。


「わたし達も用意しますか」

とわたしがケルちゃんに声をかけると、三首から元気な返事が返ってきた。


 前世、ライオンサイズを上回っているケルちゃんだったので、当然というか、例の籠には乗れなかった。


 物作り妖精のおじいちゃんが、さらに大きいサイズの籠を作ろうか? と身振り手振り言ってくれたけど、流石にそれに甘えるのは少々抵抗があった。

 なので、わたしとケルちゃんは、自力で樹洞じゅどうまで登ろうという話になった。


 樹洞じゅどうの位置は前世で言うマンションの十階ぐらいの位置である。


 わたしが小さい頃、フェンリルママから課せられた飛び降りる訓練がちょうどあの高さからだったかな?

 妹ちゃん達はともかく、わたしやケルちゃんであれば、仮に落っこちても問題ない。


 ふむ、どうやって行こうかな?


 手始めに、枝に白いモクモクを絡める方法を取ろうかな?

 右手から出した白いモクモクを、上にすーっと伸ばす。

 イメルダちゃん達が乗った籠が樹洞じゅどうに入っていくのを確認しつつ、さらに伸ばしていくと、樹洞じゅどうのさらに上にある太い枝に白いモクモクを絡ませる。


 うむ。

 少し、引っ張ってみる。

 しっかりとした手応え、中々丈夫そうだ。

 わたしとケルちゃんを合わせたぐらいなら大丈夫かな?


 右足から出した白いモクモク、それを地面に広げる。

 そして、ケルちゃんに「この上に乗って」と指示をする。

 ケルちゃんが乗ったのを確認すると、右手の白いモクモクを短くする。

 おっと、バランスが取りにくい!


 もう片方の足も使用する形にする。


 ぐっと踏ん張れば……。

 さらに、白いモクモクを出して広げて……。

 大丈夫かな?

 足に力を入れないといけないけど……。

 うん、何とかいけそうだ!


 ぐんぐん、上がり、樹洞じゅどうの高さまで上がった。

 イメルダちゃんやシャーロットちゃんが心配そうにこちらを見ているのが見える。

 やっぱり、枝を引っ張る形だと、ここまで来ると樹洞じゅどうの縁までの距離がそれなりに離れてしまっている。

 十メートルぐらいかな?

 地上では大した距離では無いけれど、吊された状態だと、移るのはそれなりに大変だ。

 近衛騎士妖精の白雪しらゆきちゃんが飛んできて、”手伝おうか?”と身振り手振り言ってくれるけど、「大丈夫だよ、ありがとう」とお礼を言い、樹洞じゅどうの中にいる皆には「そちらに飛ぶから、もっと奥に行って!」と声をかける。

 そして、ブランコの立ち乗りの要領で揺らす。

 ひょっとしたら、怖がるかな? と思ったけど、ケルちゃんは楽しいのか「がう!」「がうがう!」「がう~!」とか弾んだ声を上げている。

 いや、遊んでる訳じゃないからね!


「声をかけたら、向こうに飛んでね!」

と言うと、「がう!」「がう!」「がう!」とやる気満々に答えてくれた。

 まあ、仮に落ちても大丈夫だとは思うけど、一応、ケルちゃんの腰に左手から出した白いモクモクを巻き付ける。


 近づく~遠ざかる。

 近づく~遠ざかる。


 さらに近づく時に「飛んで!」とケルちゃんのお尻をポンと叩くと、彼女は見事なタイミングで飛び移った。

 問題無さそう!

 ケルちゃんを掴んでいた白いモクモクを解除する。

 そして、「お見事!」と踏み込みの勢いで揺れるのをこらえつつ、賞賛の声を上げた。

 ケルちゃんが樹洞じゅどうの奥に移動するのを確認し、じゃあ、次はわたしだ。


 近づく~遠ざかる。

 近づく~遠ざかる。

 近づぅ~く!


 白いモクモクを解除しながら、ジャンプする。

 そして、樹洞じゅどうの縁に軽く移った。

 成功!

 なんとなく、前世体操選手みたいに、バシッと両手を上に広げると、シャーロットちゃんが「すごぉ~い!」と拍手をしてくれた。


 気分が良い!


 ただ、イメルダちゃんからは「怖いから、次からはもっと安全な移り方をして!」と怒られてしまった。


 ごめんなさい。


 何でも、持って入ると一緒に小さくなってしまうとかで、パウンドケーキを妖精ちゃん達に預ける。

 そして、妖精メイドちゃん達に手を引かれて町に入る。

 みるみる小さくなって、妖精ちゃん達と同じサイズになる。


 これ、結構不思議だ。


 わたし達やケルちゃんだけ小さくなり、妖精ちゃん達は変わらない。

 しかも、わたし達が着ている服も一緒に小さくなっている。

 どういう理屈でこうなっているのだろう?

 まあ、仮に言葉が通じても難しすぎて分からない可能性の方が高そうだけど。

「サリーお姉さま、見て!」

とケルちゃんの上に乗ったシャーロットちゃんが指さすので、そちらに視線を向ける。

「うわぁ~

 壮観だねぇ~!」

 わたし達の頭上を、マイクロバスサイズはあるパウンドケーキが五つ、妖精ちゃん達に運ばれて飛んでいく。


 なかなか、食べ応えが有りそうだ!


 ニコニコしている妖精姫ちゃんが、”沢山食べようね!”と身振り手振りをしてくる。

「うん、いっぱい食べようね!」

 そんな風に答えると、妖精姫ちゃんが妖精メイドのサクラちゃんに何やら指示を出す。

 すると、サクラちゃんが小袋を三つ、わたしに差し出してきた。


 ん?

 何これ?


 その中の一つを開けてみると、硬貨らしき物が入っていた。


 え?

 これがこの町の通貨?

 金貨は銀貨十枚、銀貨は銅貨十枚?

 へぇ~


 因みに、袋の中には金貨三枚、銀貨三枚、銅貨三十枚入っていた。

 金貨を一枚手に取ってみる。

 デフォルメされた木――大木なのかな?

 それを中心に、凝ったデザインがされていた。

 物作り妖精のおじいちゃんが作ったのかな?

 作り込みが凄い!


 取りあえず、妹ちゃん達にも一つずつ小袋を渡す。


 といっても、妹ちゃん達の分は一応、それぞれの妖精メイドちゃんに持って貰い、店を回る事にした。

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