妖精ちゃんの町に行く準備!

 イメルダちゃんから「飼育小屋の拡張も終わっているわよ」と教えて貰ったので、やっと中に入ってきたルルリンと何やらぐったり疲れた感じの物作り妖精のおじいちゃんと共に見に行く事にする。

「思ったより広くなったね」

 わたしが感心しながら言うと、物作り妖精のおじいちゃんは自慢げに胸を反らした。

 今回の拡張は奥の壁を取っ払い、奥行きを伸ばす形に行われた。

 広さは二倍ぐらいには大きくなっているのかな?

 やや狭そうだった赤鶏さんや山羊さんも、広々としたそれに満足げだ。

 いや、若干、一羽だけそうでも無いか……。


 旧雛、現オスの赤鶏君だけ、隔離した場所で不満そうに「コケェ~コケェ~!」との声を上げている。

 それなりのスペースは用意してあるのだが、外に出られないような作りになっていて、やっぱり嫌のようだった。


 まあ、この辺りは仕方が無いよね


 我が家としては、数が増える事自体、問題は無いけど、全ての雌が有精卵に構いっぱなしになり、卵が頂けない事態は避けなくてはならないのだ。

 イメルダちゃんと話し合った結果、こうなった。

 まあ、隔離と言っても直ぐ隣のエリアには雌の赤鶏さんがいる訳で、孤独って事も無い。

 単に、生殖行動的あれこれをしない様にしたということだ。

「はいはい、大麦上げるから我慢して」

と餌箱に大麦の粒をざざっと入れてあげると、不満そうにしていた赤鶏君は、それにくちばしを突っ込み、ついばみ始める。


 それを見送ると、山羊さん達に目をやる。

 山羊さんは広くなった場所を確認するように、ご満悦な顔で歩き回っている。


 いや、喜んでいる所悪いけど、そこはもう一組、入れる予定だからね。

 山羊さんが乳を出せなくなった場合のため――っていうのもある。

 だけど、作りたい乳製品が沢山有るから、もっともっと必要としているのだ。

 近いうちに、牧場に行って相談にのって貰おうと思っている。

 まあ、こちらも運ぶことを考えたら、ロック鳥さんがいなくなってから――ということになっちゃうけどね。

 そんな事を考えていると、物作り妖精のおじいちゃんがわたしの足を叩いてくる。


 何?

 え?

 外?

 外の部分も出来たの?

 早いね!


 物作り妖精のおじいちゃんに促されるまま、飼育小屋の奥に行き、突き当たりの左にある扉を開けた。

「おお、凄い!」

 扉の先には両脇を柵で仕切られた道になっていて、さらに奥には広場となっていた。

 家から見て北東、大木の隣ぐらいだ。

 基本、ケルちゃんが外に出る時は家から南側で行動する。

 なので、ここならケルちゃん彼女を恐れている山羊さん達も安心して散歩できるだろう。

 家の東側には巨大蜂さんの巣があるが、女王蜂さんに断りを入れているので、もう少しは広くする事が出来る。

 まあ、現状でも、山羊さんが何頭か、赤鶏さんが何羽か増えた所で問題は無いスペースはあるけどね。


 わたしが感心していると、山羊さん夫妻が横をすり抜け外に出る。

 そして、広場に出ると、こちらを見ながら自慢げに、「メェ~メェ~」鳴いている。


 はいはい、良かったね!


――


 朝、起きた!

 温かいものが胸にへばりついている。

 シャーロットちゃんだった。

 今日は、一緒に妖精ちゃん達の町を散策する事になっている。

 なので、昨日の夜は興奮しきりの妹ちゃんがなかなか寝てくれなくって、少々困ってしまった。

 良い夢を見ているのか、「サリーお姉さま、えへへ」と楽しそうに寝言を呟いている。


 可愛い!


 が、わたしには朝のお仕事があるので、こちょこちょ、および、ケルちゃんぬいぐるみとの入れ替わりを行う。

 良し!

 チラリと視線を向けると、昨日は「高い所に行くのはちょっと……」と妖精ちゃんの町に行く事を渋っていたイメルダちゃんも、何やら楽しそうに微笑みながら、フェンリルぬいぐるみに顔を押しつけている。


 可愛すぎる!


 いや、そんな事をしている場合じゃない。

 服を着替えて部屋から出る。

 飛びかかってきたケルちゃんをモフモフごろごろしてから、外に出してあげる。

 顔を洗ったり、髪を結ったりした後、いつものようにスライムのルルリンと妖精メイドのサクラちゃんを肩に乗せ、飼育小屋に向かう。

 皆に大麦や牧草を与え、卵と乳を頂き、”早く! 早く!”と人のお尻に頭をこすりつけてくる山羊さん達を外に出し、中央の部屋食堂に戻る。


 おや?


 いつもお寝坊さんなシャーロットちゃんが既に身支度を済まし、ニコニコしながら座っていた。

 そして、「サリーお姉さま! 妖精ちゃんの町、楽しみ!」とか言っている。


 可愛い!


「そうだね、楽しみだね」

と微笑み返しつつ、卵と乳をシルク婦人さんに渡す。

 すると、シャーロットちゃんは椅子から降りると、わたしの元まで駆けてくる。

 そして、わたしの手を取りながら「楽しみ!」と満面の笑みで言って来る。


 可愛すぎる!


「楽しみだねぇ!」

と腰を落とし、頬ずりをしてあげると「キャッキャ!」と嬉しそうにする。

 寝室から出てきたイメルダちゃんに「朝っぱらから何やってるのよ」と呆れた声で言われたけど、良いのだ!

 シャーロットちゃんが可愛いからそれで良いのだ!



 朝ご飯を食べた後、洗濯物などの雑事を終える。

 そして、シャーロットちゃんにわたしのお古の服に着替えさせる。

 実は今回、シャーロットちゃんのたっての願いで、ケルちゃんも連れて行く事になったのだ。

 なんでも、ケルちゃんの上に乗って、見て回りたいとの事だ。

 だから、ズボンスタイルにプラスで、仮に何かの拍子で落っこちても良いように、昔使っていたフェンリル帽子を被せることにする。

 まんま、八歳ぐらいのわたしの格好になったシャーロットちゃんは嬉しそうに「サリーお姉さまと一緒!」と言っている。


 可愛い!


 因みに、イメルダちゃんは普通に歩いて回りたいとのことで、スカートだ。

 レフちゃんが”乗れば良いのに”と言うように「がうがう」言いながら、頬ずりをしていたけど「ごめんなさい。でも、酔いそうだから」とその頭を撫でていた。


 外に出て、イメルダちゃんやシャーロットちゃんを前回も使用した籠に乗せる。

 そして、昨日の夜に妖精姫ちゃん達から強請ねだられたパウンドケーキが五本入っている箱を乗せる。

 どこかに訪問する時は手土産を持って行くのが普通だし、妖精ちゃんの町の通貨を得るために必要――だとかなんとかで作らされた。

 いや、大木内の町といっても、そもそも我が結界敷地内じゃないかとか、町に出回っている食べ物って、基本、わたしが作ったものじゃないかとか、色々思っちゃったけど――そもそも、五本もいらないでしょうとか思っちゃったけど――致し方がなく作った。


 わたしも食べたかったしね。

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