獲物泥棒ぉぉぉ!

 合流してきた、妖精メイドのサクラちゃんを肩に乗せて飼育小屋に向かう。

 突っかかってくる赤鶏君をあしらいつつ卵と乳を頂き戻り、今度は食料庫に向かう。

 シルク婦人さんにお願いされた朝食用の食材を持って戻ると、イメルダちゃんが起きていた。

 イメルダちゃんはわたしの顔を見ると「おはよう」と挨拶をしつつ話し始める。

「ねえ、サリーさん。

 ムカデの件も落ち着いたことだし、わたくしも、町に行きたいんだけど……」

 ああ、そういえば、そんな話しもしていたか。

「もう少し後じゃ駄目かな?

 念のために、様子をみたいから」

 なんとなく強くなってそうなルルリンとは違い、イメルダちゃんだと、毒を持つムカデ君が襲ってきたらと思うと、少々、不安だ。

 今日は町に行き、明日はシャーロットちゃんと妖精ちゃんの町に行こうと思うから、明後日辺りに町から北東に向かって様子を確認しようと思う。

 そのことを話すと、イメルダちゃんは「分かったわ」と頷いてくれた。


 パンを作り、皆と朝食を頂く。


 洗濯を終えて、町に行く用意をしていると、近衛騎士妖精のうしおちゃんが飛んできた。


 え?

 今日は潮ちゃんが付いてきてくれるの?

 え?

 町も見てみたい?


 視線を妖精姫ちゃんに向けると、苦笑している姫ちゃんが”連れて行ってあげて”というジェスチャーを送ってくる。

 ま、まあ、連れて行ってあげるだけなら問題ないけどね。

「大人しくしててね」

と言うと”わ~い!”と言うように両手を挙げると、すーっと飛んできて、わたしの胸の中に収まった。

「あ、消えたり出来るの?

 あと、なんか有った時に、姫ちゃんへの連絡もお願いできる?」

 そう訊ねると、問題ないと言うように身振り手振りをする。

 なら良いかな?

 ルルリンの肩に乗せて、外に出た。


 荷車を車庫からだし、甘味を強請る妖精ちゃん達を「昨日、買ってあげたでしょう!」と追い払い、畑の様子を見ていたイメルダちゃんに「行ってきまぁ~す!」と手を振り出発する。


 合流してきた白狼君達と森を走り、川を越え、平原に出る。

 今日はサーベルタイガー君達は見当たらない。

 巨大赤ムカデ君(変異種)に追われたから、別の場所に移動したのかな?

 代わりに、サイっぽい魔獣の群れが十頭ほど、草を食べていた。

 それを横目に、先に進む。

 白狼君(リーダー)が”狩らないのですか? 主様”というように「がうがう」と言うので、『例の件、あれで良いの?』と訊ねると、首を横に振った。

 まあ、それでも狩ったら、内臓は頂けるとでも考えているのだろうなぁ~

 でも、わざわざ狩ろうとは思えないので、先に進む。


 ん?

 あれは!


 草原を這うように進んでくる気配を感じ、視線を向けると巨大な蛇がサイ君の方に進んでいくのが見えた。

 あれ、黄色大蛇だいじゃ君だ!


 長さは二十五メートル、口を開けば弱クマさんぐらいなら一飲みできるほど大きい大蛇で、時々、ママの洞窟近くでも見かけていた。

 毒が無く、たいして強くない彼らだが、一つだけ無視できない特徴があった。


 それは、非常に美味しいということだ!


 あっさりした鶏肉って感じがして、焼いて良し、煮ても良し、揚げたらさらに良しの素敵なお肉なのだ!


 あれは、是非とも狩らねば!


 わたしはその場に留まって、荷車の取っ手を飛び越える。

 よし、やるぞ! と意気込んだ所で、はたと視線を白狼君(リーダー)に向ける。

 ……むちゃくちゃ期待した目で、こちらを見ていた!


 えぇぇぇ!

 ミスリルトカゲ君の代わりが、黄色大蛇だいじゃ君って、釣り合いが取れてないんだけどぉぉぉ!


『……あれ、不味いよ』

 一応言ってみるも、白狼君(リーダー)はキラキラした目で、”なおさら、我らに!”などと言わんばかりに「がうがう!」言っている。


 えぇぇぇ!

 嘘でしょう!?


 ショックを受けていると、サイ君に逃げられた黄色大蛇だいじゃ君が、こちらに狙いを定めたのか、向かってくる!


 えぇぇぇ!

 ネギを背負った鴨がやってくるのに、上げなくちゃならないのぉぉぉ!

 本当に、ショックなんだけどぉぉぉ!



 ……案の定というか、黄色大蛇だいじゃ君は、わたしにあっさり狩られた。

 頭を落とし、血抜きをしつつ、忠狼ちゅうおおかみなら、”頭だけで良いです”と言ってくれるんじゃないかと期待したけど、そんなことも無く、遠吠え一つで一族を呼び集めていた。


 一族全員だろう数十匹の白狼君達が嬉しそうに黄色大蛇だいじゃ君を眺めている。


 もう、やっぱり別ので、という空気では全然無く、わたしとしては『どうぞ』と言うほか無かった。

「がうがう!」と白狼君達が嬉しそうに黄色大蛇だいじゃ君に駆け寄る。

 子供の白狼君達も初めて見た巨大な獲物に嬉しそうだ。


 わたしはその姿にため息を付き――『離れて!』と吠えた。


 突風が吹き荒れた。


 わたしは帽子が飛んでいくのも気にせず、両手足から出した白いモクモクで子供の白狼君達を何とかかばった。

 スライムのルルリンは薄く広がり、近衛騎士妖精の潮ちゃんは魔法で何頭かをかばった。

 だけど、幾頭かの白狼君達が吹っ飛んでいく。

「くそっ!

 油断した!」

 わたしが睨むと、あっという間に上空へと飛んでいくロック鳥さんの姿が見えた。

 黄色大蛇だいじゃ君の胴も、ご丁寧に切り離した頭も咥えて飛んでいった。


『この、くそ鳥ぃぃぃ!

 返せ、獲物泥棒ぉぉぉ!』

 わぉぉぉん! というわたしの怒声が、空しく空の果てに消えていった。


――


『まあ、元気出して』

 林につき、白狼君(リーダー)に声をかけると、半分放心した感じの彼は”気にしないでくだされ、主様”と言うように「がう……」と鳴いた。

 他の皆も、項垂れている。


 あれから怪我をした白狼君達を治療してあげた。


 幸いというか、死んでしまったものはいなかった。

 ただ、ご馳走を目の前でかっさらわれた衝撃は彼らを打ちのめしたようで、全員、放心していた。

 一応、ここまでの道中に見つけたじゃくクマさんを狩ってあげたけど、光を失った目は、最後まで治ることは無かった。


 ま、まあ、こんなこと、野生”あるある”だよ!

 元気出して!


 しかし、ロック鳥さんか……。

 基本、人間程度の小さな獲物は狙わないけど、それでも絶対じゃ無いしなぁ。

 ムカデ君が問題なくても、イメルダちゃんを町に連れて行くのは、しばらく待った方が良いかな?

 ただ、いつまでもこの辺りをうろちょろされると、その機会がこないって事になりかねないし……。

 う~ん。

 あれ?

 ムカデ君ってロック鳥さんから逃げ来たとか――は無いか。

 超巨大なムカデ君(変異種)はともかく、普通サイズの巨大赤ムカデ君ぐらいの大きさは、ロック鳥さんの対象外だろうし……。

 どちらも対処しないといけないとか、なかなか面倒な話だなぁ。


 そんな事を考えつつ、白狼君達と別れて、町に向かった。

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