第十八章

ちょっとした、商人!

 結界を抜けて、我が家に到着!


 付いてきてくれた近衛騎士妖精の白雪ちゃんに「ありがとう!」と手を振り別れた。

 わらわらと寄ってきた物作り妖精のおじいちゃん達に粘土と釉薬ゆうやくを渡し、残りは分けて購入することになったことを伝える。

 少々、不満そうにするも物作り妖精のおじいちゃんは頷いてくれた。


 え?

 粘土は蟻さんにもお願いしてくれ?

 そうだね、今度来たら聞いてみよう!


 荷車を車庫に入れて、家に入るとテーブルで書き物をしていたイメルダちゃんが顔を起こした。

「お帰りなさい。

 ムカデ退治はもう、終了したって事で良いのよね」

「組合長はもう少し様子を見るって言ってたけど、ほぼほぼ大丈夫だと思う」

「そう、少し安心したわ」と言うイメルダちゃんに「王妃様の焼き菓子、買ってきたよ」とホールケーキの入った箱を三つ、見せてあげると「楽しみだわ」と微笑んでくれた。


 可愛い!


 ゴロゴロルームから出てきたシャーロットちゃんが「お帰りなさい!」と笑顔で抱きついてきてくれた。


 こちらも、可愛い!


「ただいまぁ~!

 問題なかった?」

と訊ねると、イメルダちゃんが頷いてくれる。

「物作りのおじいちゃん達が言うには、飼育小屋の改造は明日にでも入れるって。

 ただ、保管されている木を使い切りそうだから、どこかで補充して欲しいみたい」

「ああ、そうなんだ。

 今から、やろうかな?」

「疲れてなければ、お願い」

「うん。

 焼き菓子や肉を貯蔵庫にいれたら、やるとするよ。

 切る場所はどこがいいかな?」

「そうね、今から外に出て、選ぶわ」

「お願い」

 シャーロットちゃんと一緒に貯蔵庫に向かう。

「それ何のお肉?」とシャーロットちゃんが訊ねてくるので「じゃく水牛君のだよ」と教えてあげる。

 シャーロットちゃんはぱっと表情を明るくさせながら「しゃぶしゃぶする?」とわたしのセーラー服、その脇辺りを引っ張る。

 う~ん、ワイン酢を使ったしゃぶしゃぶ、シャーロットちゃんはお気に入りなんだよねぇ。

 わたしとしては、微妙なんだけど……。

「シルク婦人さんに聞いてみるね」

と言ってあげると、シャーロットちゃんは満面笑みで「うん!」と頷いた。


 レモン、切実にレモンが欲しい!


 ケーキと肉を貯蔵庫にしまい、シルク婦人さんにしゃぶしゃぶを依頼する。

「明後日」とシルク婦人さんに端的に言われてしまい、シャーロットちゃんは少々不満そうだったけど、シルク婦人さんにも予定があるもんね。

 シャーロットちゃんを宥めつつも、ゴロゴロルームに送り出し、わたしは外で木材を調達することにする。

 イメルダちゃんが印を付けてくれた木を、白いモクモク刀でバッサバッサと切っていると、ヴェロニカお母さんが近寄ってきた。

 その背後には近衛騎士妖精の潮ちゃんが付いてきている。

「ねえ、サリーちゃん。

 刺繍はどうだった?

 売れなかったの?」

 少し心配そうなヴェロニカお母さんの顔を見て、迂闊だったと反省する。

「ごめん!

 昨日はムカデ君のことで行けなかったの。

 今日は行けたから、全て売ってきたよ」

「そう、それは良かったわ」

 安心した顔のヴェロニカお母さんに、今日あったことを説明する。

 ちょっと、気まずかったけど、アナさんに一枚上げてしまったことも含めて、説明した。

 ヴェロニカお母さんは少し困ったように眉を寄せる。

「そんなことがあったのね。

 サリーちゃんは大丈夫?

 巻き込まれてない?」

「ううん、店長さんには内緒にしてって話していたし、さっきも念を押したし」


 アナさんとケーキ屋さんで別れた後、再度、生地屋さんに行った。

 わたしが店に入ると、カウンターにいた生地屋の店長さんは、何やらひっかき傷や青あざだらけの顔で恨みがましい視線を送ってきた。


 いや、可哀想だとは思うけど、不確かなことをあのご令嬢方に約束したのは店長さんだからね!

 可哀想だとは思うけど!


 白いモクモクで治療しながら話を聞くと、どうやら、二人には特別なハンカチを用意すると平謝りをして、なんとか許して貰ったとのことだった。

「だから、明らかに特別感のある手巾しゅきんを至急、作って貰いたいんだ!

 それも、二枚ほぼ同じ柄のね!」

「それは構わないけど、当然、特別料金や特急料金は頂けるんだよね?」

 わたしが釘を刺すと、生地屋の店長さんはしどろもどろになりながら「いや、それは」などと言っている。

 わたしはさらに追い打ちをかける。

「あと、さっき見たんだけど、皆、銀貨五枚も払ってたよね?

 前までは銀貨一枚だったはずだけど――つまり、値上げしたんだよね?

 そうすると、うちに払う分も、当然増えるんだよね!」

 などと言いつつ、渋る生地屋の店長さんから、値上げと特別料金をゲットした。


 まあ、本業の商人から見たら、甘々かもしれないけど、わたしなりに頑張ったと思う。


「あと、わたし仕入れ元の事を話したら、わたしはこの町に来なくなるからね!」

と釘をきちんと刺しておいた。

 生地屋の店長さんも馬鹿じゃないだろうから、金の卵を産む鵞鳥がちょうの腹を割くようなことはしないだろう。


「わたくしの為に値を上げてくれるのは嬉しいけど、サリーちゃんが貴族に目を付けられる方が問題だわ。

 無理はしないでね」

「うん、気をつける」

 そうだね、ほどほどが良いね。


 家に戻るヴェロニカお母さんを見送りつつ、さて、木を切る作業を続けようとした。

 だけど、気配を感じ、視線を上空に向ける。

 夕焼け色に染まる空に、悠然と飛ぶ鳥の姿が見えた。


 またあのロック鳥さんか……。


 まあ、それなりに遠そうだし、そこまで気にする必要は無いのかな? そう納得して、モクモク刀を握り直した。


――


 朝、起きた!

 一つ大きなあくびをしつつ体を起こす。

 視線を横に向けると、布団から出た状態で、あたかも、ケルちゃんぬいぐるみに跨がる状態で眠るシャーロットちゃんがいた。

 暖かくなったとはいえ、まだまだ朝は肌寒いから風邪を引いてしまう。

 布団の中に戻してあげていると、眠ったままのシャーロットちゃんが「サリーお姉さま、シャーロットも行く……」とむにゃむにゃ寝言を漏らしている。


 ……近いうちに、妖精の町へ連れて行ってあげないといけない。


 今日でも良いかな?

 あ、でも、陶芸屋さんが今日も幾らか粘土を売ることが出来るって言っていたから行く約束をしてたんだ。

 それに、巨大赤ムカデ君の報酬も受け取りに来るように言われたんだ。

 なら、明日になるかな……。

 なんて考えつつ、ベッドから出て、着替える。

 部屋を出ると、いつものようにケルちゃんが飛びかかってきたので、軽くいなして、モフモフを堪能する。

 温かぁ~い!


 ケルちゃんを外に出してあげ、洗面所で顔を洗っていると、スライムのルルリンが肩に降りてくる気配を感じる。

 毎朝のことなので、気にせずタオルで顔を拭いていると、首元に冷たいものがペチペチと叩いてきた。

「冷たいよ、ルルリン!」

と言っても、ペチペチやってくる。


 もう!

 何なのさ!


 視線を向けると、ルルリンがぽよぽよアピールしてくる。


 え?

 何?

 え?

 ああ、町ね。

 今日こそ?

 仕方が無いなぁ~

 連れてってあげますか。


 そう言うと、ルルリンは嬉しそうにポヨポヨ揺れる。

 そんなスライムボディーを撫でてあげつつ、自分の白髪しろがみを三つ編みにした。

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