水問題が発生する!

 家の周りを一周し終えた所で、白狼君達には帰らせた。

 彼らも、幾らか食べることが出来て満足がいったのか、素直に言う通りにする。


 しかし、彼らがこんな家の近くまで来たのは初めてじゃないかな?


 今まで、彼らが付いて来たのは基本的に平原の切れ目辺りまでだったんだけど……。

 これからは家の近くまで纏わり付こうって腹じゃ無いよね?

 う~ん、まさかね。

 流石にそこまで図々しくないよね。

 うん、そうだ、間違いない!


 などと、考えつつ南側から家に戻ろうとすると、畑の近くにイメルダちゃんが立っていた。

 近くには近衛騎士妖精の白雪しらゆきちゃんと近衛騎士妖精のうしおちゃんが飛んでいる。

 あ、足下には物作り妖精のおじいちゃん達もいるみたいだ。


 なにやら、深刻そうに話し合っている。


「お~い、どうしたの?」

 わたしが訊ねると、イメルダちゃんが「お帰りなさい」と言いつつ、教えてくれる。

「畑にく水の事なんだけど……。

 この前の話し合いで、水を生み出す魔道具から出して、行うって言ってたでしょう?」

「うん」

「いざやってみると、一回分出しただけで、魔石の中の魔力が空になってしまったの」

「そうなんだ。

 でも、予備の魔石を用意していたでしょう?」

 わたしが答えると、イメルダちゃんは苦笑する。

「いくら何でも、燃費が悪すぎるわ。

 元々、サリーさんの植物育成魔法を頼らない方法で、作物を作るって話だったのに、結局、サリーさんの魔力頼みになってしまうし」

「まあ、そうか」

「一応、おじいちゃん達が魔力を入れるって言ってくれているけど……。

 できれば、魔力なしで水を用意したいわ。

 ねえ、サリーさん、井戸とか掘れる?」

「井戸かぁ~

 単純に穴を掘るだけなら、問題なく出来るけど……。

 問題は、どこなら水が出るか?

 だよね?」

 前世にしても、今世にしても、わたしは井戸を見た記憶が無い。

 前世は都会に住んでいたからで、今世は魔法で出しているからだ。

 わたしの言葉に、イメルダちゃんは苦笑いをする。

「ええ、そうなの。

 町とかで聞いてきて貰えないかしら?」

「うん、聞いてくる。

 ……あ、待った!

 なんか、あったような気がする」

 確か、スローライフ系のWeb小説に、井戸を掘る話が有って……。

 なんだっけ?

 金属の細い棒――途中でL字に折れ曲がっているのを使った……。

 ダウジングだっけ?

 それで調べられるはず!

 そのことを、イメルダちゃんに話すと、訝しげな妹ちゃんに「何かの呪術?」と聞かれてしまった。


 いや、科学だったはず!

 ……あれ?

 科学的根拠は無かったんだっけ?

 忘れちゃった。


 あ、いや、それよりそういえば!

 東側に湧き水が出てる所が有った!


 そのことを話すと、こちらには興味を示したイメルダちゃんが少し考えるそぶりを見せながら言う。

「上手い具合、こちらに引っ張って来れないかしら?

 水路を掘るとかして」

「掘ること自体、普通に出来るけど……。

 土だけの水路だと、しみこんでしまうだけになりそう。

 そこまで大量に湧き出ているわけじゃ無いから、無駄にすること無く持ってこないと行けないなぁ」

「石を敷き詰めるとか?」

「そうだね……。

 ただ、沢山の量が必要となるので、ここら辺のものだけじゃ、無理か」

 前世って、どうだったんだっけ?

 コンクリート?

 コンクリートがあれば、簡単だとは思うけど……。

 材料はWeb小説に何度か書いてあり、一応、覚えているんだけど……。

 そもそも、その材料がどこにあるのか、分からないんだよねぇ。

 あとは……。

 管、ああ、管で水を運んでいたか。

 管……。

 土管?

 異世界にも有るのかな?


 そのことを訊ねると、イメルダちゃんは何やら少し、悔しそうに頷く。

「そうね、土管が有ったわ。

 何で思い出せなかったのかしら?」

 どうやら、有るらしい。

 とはいえ、肝心の土管なんだけど……。

 物作り妖精のおじいちゃん達に訊ねる。


 ねえ、おじいちゃん達、作れる?

 え?

 材料さえ有れば?

 こねる?

 あ、粘土ね!

 粘土が必要っと。

 ん?

 周りを塗る?

 ひょっとして、釉薬ゆうやく

 え?

 土管に釉薬なんて塗るの?

 無くても良いけど、持ちが良くなる?

 なるほどね。


 粘土も釉薬も、正直、どこを探せば良いか、分かんないや。

「まあ、土管については町で聞いてみるよ。

 ひょっとしたら、売ってるかもしれないし」

 すると、物作り妖精のおじいちゃんが騒ぎ出す。


 え?

 わしらが作る?

 いや、材料が無いんじゃ……。

 え?

 作りたくなってきた?


 面倒くさいスイッチを押してしまったようだ。


「はいはい、粘土や釉薬ゆうやくが売ってたら、それも買ってきてあげるから」

と宥めていると、イメルダちゃんが言う。

「ねえ、サリーさん。

 わたくしも町に行きたいわ。

 農耕関係の本とか探してみたいし、出来れば、農家の方にお話が聞きたいわ」

 イメルダちゃんを連れて町にか。

 前回は冬になりかけの季節で、イメルダちゃんが凍えて酷い目に遭ったけど、今は春、そこまで問題は無いかな?

「構わないけど、まずはわたし一人で町に行くよ。

 春になった後の、魔獣の動きも気になるしね。

 その様子を見て、時期を決めるって感じで」

 イメルダちゃんは頷きつつ、「それでいいわ」と答えた。



 イメルダちゃんから、在庫が無くなりつつあると言われたので、植物育成魔法でも幾らか育てて収穫する。

 頼んだ当人で有る姉的妹ちゃんから「それ、楽すぎて嫌になっちゃうわね」と苦笑されてしまった。


 言わんとすることは分かるけど、仕方が無いでしょう!


 夕方になり、イメルダちゃんと家に戻り、二人で食料庫に育てたばかりのものを並べていると、妖精メイドのサクラちゃんが夕食だと呼びに来てくれた。

 礼を言い、中央の部屋食堂に移動すると、ヴェロニカお母さんとシャーロットちゃんが既に座っていたので、イメルダちゃんと急いで席に着いた。


 今日のメインは炒めた子豚キノコだ。

 上には茶色くて濃厚なソースがかけられている。


 このソース、シルク婦人さんの十八番のようで、初めて出してくれた時「やっと」とか言いつつ、胸を張っていた。

 普段、無表情な婦人さんが心なしかドヤ顔をしていて、わたしや妹ちゃん達は、意味が分からずポカンとしてしまった。

 その後、ヴェロニカお母さんが「これはシルク婦人の自慢のソースなの」と教えてくれた。

 そして、スプーンでソースそれを舐めとったヴェロニカお母さんは、目を細めながら「懐かしいわ」と呟いてた。


 わたし、密かにこのソース、前世で言うデミグラスソースじゃないかと思っている。

 もっとも、前世ではおばさんの家で一度しか食べていないから、定かでは無いけれど……。

 何の料理にデミグラスソースがかけられていたんだっけ?

 凄く美味しかった気がするんだけど。

 え~っと……。


 そんなことを考えていると、ヴェロニカお母さんがイメルダちゃんに声をかけていた。

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