赤鶏さん問題も発生する!

「イメルダ、妖精のおじいさんから聞いたんだけど、井戸が掘りたいそうね」


 ……ここ最近、ヴェロニカお母さん、妖精姫ちゃん、物作り妖精のおじいちゃん、スライムのルルリン辺りがやけに仲が良い。

 恐らく、ワインつながりだろう。

 まあ、仲良しにこしたことは無いのだろうけど……。

 何かやりかねん危うさを感じているのはわたしだけだろうか?


 問いに対して、イメルダちゃんは頷く。

「ええ、畑用の水を魔道具なしで得たいと思いまして」

 ヴェロニカお母さんは続ける。

「明日、魔術で水脈を探してあげるから、サリーちゃんかおじいさん達に掘って貰いなさい」

 わたしは驚いて、口を挟む。

「え?

 そんな魔術があるの」

 ヴェロニカお母さんはニッコリしながら頷く。

「ええ、有るわよ。

 水系すいけいの魔術で、それほど難しくは無いわ」

「へ~」と感心していると、ヴェロニカお母さんはイメルダちゃんに視線を戻す。

「それで、イメルダ……。

 これは、畑作りに対する多大な貢献になるんじゃないかしら?」


 うわぁ~


 ニコニコしながら、娘に対して暗にワインを強請ねだる母親に対して、イメルダちゃんは苦笑しつつ、シルク婦人さんに視線を向けた。

 注目を浴びた、シルク婦人さんは――一つため息をつくと「少し」と言った。


 やったぁぁぁ!


という内心が透けて見えそうなニコニコ顔のヴェロニカお母さんは、口元に手を置き、「あら? 嬉しいわ。ふふふ」とお上品に笑った。


――


 朝、起きた!

 隣を見る。

 ケルちゃんぬいぐるみと同時にわたしの腕を抱え込むシャーロットちゃんが、何やら嬉しそうに「サリーお姉さま、このお肉美味しい」とか寝言を言っていた。


 可愛い!


 隣にいるイメルダちゃんはフェンリルぬいぐるみを抱えながら、眉を寄せながら眠っている。

 いつもわたしを叱る時の顔のような……。

 え?

 わたし、夢の中でもイメルダちゃんに叱られているの?

 いやいや、違う!

 違うはず!

 なんか、「その種はあっち!」とか聞こえるけど……。


 よし、考えるのを止めよう。


 シャーロットちゃんが抱えているわたしの腕をそっと抜き、静かに着替えて部屋から出る。

 機嫌の良いケルちゃんを抱きしめ、転がし、よしよしと撫でてあげ、外に出してあげる。

 玄関から戻ると、天井から白いものがビヨーンと伸びていた。

 スライムのルルリンだった。

 なにやら、大きく揺れている。


 ちょっと!

 そんなことをやってると、シルク婦人さんに怒られるよ!

 え?

 何?

 え?

 ベッド?

 気持ちよかったって事?

 ……それは良かったね。


 何度も作り直させ、物作り妖精のおじいちゃんを呆れさせたルルリンのベッドだったが、最近ようやく完成していた。

 ルルリン当人曰く、凄く良い出来になったとのことで、ルルリンのテンションが、最近やたらと高いのだ。

 わたしの肩に乗っても、ビヨンビヨン伸び縮みをしている。


 え?

 あのベッドはどのベッドよりも最高?

 何だったら、少し使わせてあげても良い?

 う、うん。

 お気持ちだけ頂いておきます。


 ルルリン用に出来たそれは、中心が窪んでいる。

 そんなので寝たら、腰を痛めそうだ。


 顔を洗い、身支度を整え、近寄ってきた妖精メイドのサクラちゃんを肩に乗せてから飼育小屋に移動する。


 中に入ると、旧雛な赤鶏君が近寄ってきた。


 この子、やっぱり男の子だった。

 すっかり大人の大きさになったんだけど、その頭には立派な鶏冠が出来ている。

 でも、前世のWeb小説に鶏の雄は朝に鳴き声を上げるって書いてあった気がするけど、今のところはそういう兆候は見られない。

 ひょっとしたら、野生で生きるうちにそういう目立つ行動は行わなくなったのかもしれない。

 まあ、やんちゃなのは相変わらずで、今もわたしの足をくちばしで突っついている。


 ……この子、わたしに生殺与奪の権を握られている事、分かってるのかなぁ。


「もう、邪魔!」

と赤鶏君の体を掌で退かし、雌の赤鶏さんに近寄る。

 三羽中、二羽の赤鶏さんが何故か座ったまま動かない。


 ん?

 ひょっとして?


 白いモクモクで、そのうちの一羽を持ち上げてみる。

 コッココッコ! と苦情を言う赤鶏さんの下には、卵があった。

 そこに、妖精メイドのサクラちゃんが近寄り、身振り手振りをする。


 有精卵、なのね。


 もう一羽も同様、確認するとやっぱり有精卵だった。

 う~む、今日からしばらくは卵一つかぁ。

 すると、赤鶏君が「コケェ~コケェ~」と羽をバサバサはためかせながら主張する。


 え?

 もっと小屋を広く?

 動ける場所ももっと広く?

 そうだね、増えるんだったら、その辺りも考えなくてはならないね。


 卵を一個頂き、山羊さんの元に向かう。

 山羊さんも”わたし達の場所も広く!”と言うようにメーメー鳴いている。

 はいはい、分かりました。


 乳も頂き、シルク婦人さんの元に戻る。

 婦人さんに卵と山羊乳を渡しながら、説明し「しばらくは卵一個になりそう」と話す。

 少し、思案している様子のシルク婦人さんだったが、コクリと頷いた。


 食料庫から食材を取ってきて、それをシルク婦人さんに渡していると、イメルダちゃんが「おはよう」とやってきた。


 なので、赤鶏さん達について話す。


 我がの宰相様は、困った顔をする。

「そう、当面は一個なのね。

 できれば、受精卵は一羽ずつ産んで欲しかったけど……。

 流石に無理よね」

 困ったと言うより、卵好きなイメルダちゃんとしては残念なのかもしれない。

 とはいえ……。

「こればっかりはしかたが無いよ」

「そうよね。

 増えることに関しては歓迎すべき事でしょうが……。

 そういえば、山羊はどうなのかしら?

 いつまでも乳が出るなんて事は無いわよね」

「買った時にあと一年ぐらいは大丈夫って話だったはず」

「そういえば、そうだったわね。

 なら、取りあえずは赤鶏の問題ね。

 拡張するのは、妖精のおじいちゃんにお願いすれば大丈夫でしょうけど、飼育担当は誰がするか、ね」

 すると、肩に乗っていたスライムのルルリンがぽよんぽよん揺れてアピールをする。

「ルルリンがそちらの面倒も見てくれるって」

 わたしが言うと、ルルリンが”その通り!”と言うように、ぽよりと揺れた。

 その様子が面白かったのか、イメルダちゃんはクスっと笑いながら「ありがとう、頼りにしているわ」とルルリンのぽよぽよボディーを優しく撫でた。


 卵が減ってしまったのは、非常に残念だけど、新たに追加された”これ”で何とかごまかせないだろうか?


 朝ご飯がそろった後、わたしはおもむろに小ぶりの壺をテーブルに置く。

 めざとく見つけたシャーロットちゃんが訊ねてくる。

「サリーお姉さま、それなあに?」

「ふっふっふ、これは新たに投入する美味しい物――メープルカエデバターなのだ!

 パンに付けると、凄く美味しいんだよ」

 メープルバターとはメープルシロップをさらに煮詰め、そして、それを急速に冷やしながら撹拌かくはんしたりして作った物である!

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