ケルちゃんと巡回をしよう!2
「もう、いくら嬉しいからって、ちゃんとわたしの言うことを聞いてよね!」
わたしがケルちゃんの三首を順にペチペチ叩き怒ると、流石に申し訳ないと思ったのか、項垂れた三首が、「がう」「がう」「がう」と鳴いた。
転がったからといって、わたしもケルちゃんも当然のように怪我などしていない。
服や体に付いた土埃を叩いた後、倒した弱クマさんの元まで戻る。
う~む。
巡回しようと思っていたコースからかなり外れ、町に向かう時に通る、小川近くに来てしまった。
弱クマさんを回収したら、家の方に戻らなくっちゃ。
そんなことを考えていると、弱クマさんが転がっている方に複数の気配を感じた。
ん?
あれは……。
さらに近づくと、白い毛皮の彼らが二十匹ほど、弱クマさんをむさぼり食べていた。
……。
わたしに気づいただろう、いつもの彼――白狼君(リーダー)が顔を上げた。
そして、わたしがイラっとしているにも関わらず、”スタッフが美味しく頂きました”とか言わんばかりの誠実そうな顔で「がう!」とか吠えている。
いや~
君たちとは、ゆっくり話し合わなくてはならない時が、来たようだね……。
――
もっとも、狩ったにも関わらず、放置したのはわたし達の落ち度だ。
怒っているケルちゃんを宥めつつ、弱クマさんは白狼君達にそのまま上げることにした。
ただ、白狼君(リーダー)には、『狩りぐらい自分たちでやりなさい!』と小一時間ほどお説教をした。
神妙な顔で聞く白狼君(リーダー)だったが、どれくらい頭に入ったことやら。
この子達なら、”わたしがうるさく言い出したら、この顔で黙れば良い”などと考えていても不思議では無い。
一通り、言い終えた後、『もう、帰りなさい』と言い、ケルちゃんに乗り直し、巡回に戻る。
すると、白狼君(リーダー)といつものもう一頭がわたし達に付いてくる。
『いや、帰りなさいって』
と追っ払おうとするも、白狼君(リーダー)は”是非とも、お供します!”という様に、「がう!」と吠えた。
えぇ~
いや、雪が無くなったから、犬ぞり的な事も出来ないし……。
君たちがやれること何て無いんだけど……。
……まあ、良いか。
少し面倒になり、勝手にさせる。
ケルちゃんも、わたしが良いならって感じだ。
巡回コースに戻る。
まあ、巡回コースといっても、
あわよくば、
南の今の地点から、東に回る。
こっちの方は、巨大蜂さんの巣がある。
兵隊蜂さんが飛び回っているから、我が
ん?
若そうな兵隊蜂さんが、少し警戒するようにこちらに近づいてきた。
あ、わたしに気づいたかな?
前足を振ってくれる。
わたしが振り返すと、離れていった。
うん、少なくとも
あれ?
蜂さん達の巣より、少し南側に小さい池があった。
いや、池と言うより水たまりぐらいの大きさか。
近づいてみると、池の脇の地面にめり込んでいる大きめの岩――その隙間から水が湧いている所があった。
ひょっとして、温泉!?
と期待したけど、触れてみると冷たい。
ただの湧き水のようだ。
わたしがWeb小説系男子主人公だったら、絶対、温泉だったろうなぁ。
なんて考えていると、白狼君が湧き出たばかりの水をペロペロと舐めている。
う~ん……。
わたしの場合、魔法で出せるし、最悪、家にある魔道具にも水を出す物がある。
なので、これは無用の品だ。
仮に魔法なしのサバイバルだったら、それこそ、命綱だったかもしれないのに、非常に残念だ。
『行くよ』
と白狼君達を促し、進む。
途中、何匹かの巨大蜂さん(働き蜂)に挨拶をしつつ、北の方に進む。
家の裏、大木よりさらに北は深い森になっている。
そういえば、さらに先には岩場があったんだよね。
蟻さんが持ってくる鉄鉱石は、ひょっとすると、そこから持ってくるのかな?
よくよく考えたら、ここに来て早々、冬ごもりになったから、まだまだ、ここら辺の事、良く分かっていないんだよね。
近いうちに、ケルちゃんの散歩がてら見に行くのも悪くないなぁ。
西の方に向かうも森ばかり。
ただ、さらに奥に行けば、確か荒野になっていたはず。
あっちの方は、何があるんだろう。
あ、そういえば、東には大きな川があったはず。
魚、そういえば、なんやかんや言って、食べていないなぁ。
町に向かう途中にある川でも良いけど、大きな川だったら、大きな魚がいそうな気がする。
覗きに行くのも有りだな。
う~ん、なかなかやることが多いぞ!
わくわくしつつも、機械的に右上へと白いモクモクを出す。
盾状にしたそれに、ぶつかる音が二つ――茶色なヒョウ? かな?
木の上から飛び降り、攻撃してきた彼らは、地面に着地すると同時に、再度、飛びかかってきた。
余り、頭は良く無さそう。
先ほどと同じく、白いモクモク盾にぶつかる――と同時に、前に押し出したので、さっきよりはダメージが入ったはず。
転がるように吹っ飛んでいき、木に激突する。
う~ん、やっぱりケルちゃんに乗りながらだと、制限がかかるか。
降りようかな? と思案している間に、ケルちゃんが体の向きを変える。
「ちょ、戦闘中に変な動きをするの止めて!」
とわたしが苦情を言うも、気にする様子も無く、ケルちゃんはレフちゃんが茶色なヒョウ君を正面にするよう動く。
そして、「ぐわぅ!」とレフちゃんが吠えた。
とたん、立ち上がり、再度飛びかかろうとしていた茶色なヒョウ君の体勢がぐにゃりと崩れた。
え?
何!?
地に伏せた茶色なヒョウ君は、そのまま、ピクリとも動かない。
え?
死んだの?
いや……。
昏倒してるだけかな?
そこに、白狼君らが駆けより、首に噛みついている。
「今の、レフちゃんがやったの?」
と訊ねると、レフちゃんは自慢そうに顔をこちらに振り返りつつ「がうがう!」と吠えた。
「凄いねぇ~!」
って撫でてあげると、嬉しそうにする。
それを、なんだか面白く無さそうに、ライちゃん、センちゃんが見ている。
「ライちゃんやセンちゃんもさっきの出来る?」
と訊ねると、二首は情け無さそうに「がうぅ~」と鳴き、項垂れる。
しまった!
迂闊なことを聞いてしまった。
「大丈夫、ライちゃんやセンちゃんにも、きっと別の能力があるよ!」
と二首の頭を撫でてあげると、「がう!」「がうん!」と嬉しそうに吠えた。
可愛い!
すると、白狼君(リーダー)が近寄ってくる。
え?
茶色なヒョウ君を食べて良いか?
レフちゃん、上げて良い?
美味しくなさそうだから良い?
構わないって!
白狼君(リーダー)はお礼を言うように「がう!」と吠えると、一つ遠吠えをする。
すると、待機していたのか、他の白狼君達が駆け寄ってきた。
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