ケルちゃんと巡回をしよう!1

「何だったの、あの石?」

とイメルダちゃんが訊ねてきたので、蟻さんに貰った経緯を話す。

 イメルダちゃんは小首を捻りながら、「綺麗と言えば、そうだけど、そんなに凄い物には見えなかったわね」と言う。


 ほらぁ~

 わたしだけじゃないじゃん。


 などと少し喜んでいると、兵隊蜂さんがホバリングをしながら、”もう帰る”と言うように手振りをする。


 ああ、教えてくれてありがとうね!

 え?

 蜂さんの巣の近くにも欲しい?

 種が出来たら育ててあげるよ。


 すると、イメルダちゃんが言う。

「サリーさん、この結界内って虫も入って来れないのよね?

 だったら、蜂の皆に受粉を手伝って貰えないかしら?」

 ああ、なるほど。

 前世のビニールハウスでも、ミツバチを飼って、させていたってWeb小説に書いてあった。

 それを、結界内でさせようって事だね。

 兵隊蜂さんにそのことを伝えると、問題ないというように頷いてくれた。

 ほんと、助かります!


 手を振りながら、兵隊蜂さんを見送っていると、どうやって家から出てきたのか、ケルちゃんがこちらに向かって早足で近寄ってくる。

 そして、ライちゃんとセンちゃんがわたしに、レフちゃんがイメルダちゃんに顔をこすりつける。


 はいはい、よしよし。


 イメルダちゃんも困った感じにしながらも「あなた達は甘えん坊ね」と撫でている。


 でも、どうやって外に出たの?

 あ、手芸妖精のおばあちゃんに出して貰ったのね。

 染色、裁縫工場に向かうだろうおばあちゃん達が手を振ってくれたので、振り返した。


 すると、ケルちゃんの三首ともわたしの方に向き、期待した感じを出しながら「がう!」「がうう!」「ごう!」と吠える。

 え?

 外で駆けたいの?

 ああ、そろそろ、ケルちゃんと狩りをするのも――。


 気配を感じ、視線を右斜め上空に向ける。


 鳥?

 あれは……。


「どうしたの?

 ……鳥?

 あの鳥がどうしたの?」

とイメルダちゃんが訊ねてくる。

「あれ、ロック鳥さんだ」

「ロック鳥?」

「うん、ここから見ると普通の鳥に見えるけど……。

 本当は凄く大きいの。

 あれは、特に大きそうだね」

「どれくらいなの?」

「多分、我が家、十軒分――かな?」

「そ、そんなに?」

 イメルダちゃんは怖々と、ロック鳥さんを見返す。

 不安にさせてしまったのか、わたしの腕を掴んできた。

「大丈夫。

 体が大きいから、こういう森には滅多に降りてこないの。

 それに、結界があるしね」

 安心させるように、言ってあげると「ええ」と引きつった感じにだけど、微笑んでくれた。

 さらに、ケルちゃんが”わたし達がいるから大丈夫!”という様に、「がう!」「がう!」「がう!」と吠えるので、イメルダちゃんが少しおかしそうにしながら「ありがとう、頼りにしてるわ」と三首を撫でてあげている。


 しかし、う~ん……。


 たまたま通り過ぎたのなら良いけど……。

 この森が彼らのテリトリーだとすると、ちょっと、考えないといけないなぁ。

 ロック鳥さん程度で壊れるほどママの結界は柔では無いけど、ケルちゃんと外に出た時に狙われたら、やっかいだ。

 わたしだけの時に襲ってきたら、むしろ願ったり叶ったりだけどね。


 返り討ちにして、我が家のシャーロットちゃん肉食系女子のご飯にしてくれるわ!


 そういえば、小さいコル兄ちゃん、転送される直前に、ロック鳥さんを狩るとか宣言してたなぁ。

 せっかく、ロック鳥さんの居場所も調べて、対策もわたしと試行錯誤してたのに――試験のために無駄になっちゃった。

 でも、小さいコル兄ちゃんの転送先は山脈だって行ってたから、実は既にロック鳥さんを狩っているかもしれない。


 う~ん、小さいコル兄ちゃんの武勇伝、楽しみだなぁ。


――


「じゃあ、ちょっとケルちゃんと辺りを巡回してくるよ」

 お昼ご飯として焼き芋を皆で食べた後に宣言をすると、イメルダちゃんは頷く。

「分かったわ。

 大丈夫だとは思うけど、気をつけてね」

「うん。

 イメルダちゃんも結界内だとしても外に出る時は、近衛騎士妖精の皆と一緒にね」

「分かっているわ」

 そんなやり取りをしているわたし達を交互に見たシャーロットちゃんが言う。

「サリーお姉さまぁ~

 シャーロットもケルちゃんとお出かけしたい!」

 それに対して、ヴェロニカお母さんがすかさず「シャーロットは、エリザベスのお世話を手伝って頂戴」とブロックをした。

 わたしも「危険かどうかの見回りだからね。お散歩は別の時にしようね」と宥めた。

 シャーロットちゃんは不満そうにしながらも、「うん……」と頷いてくれた。


 うむ、とてもよい子だ!


 ケルちゃんを連れて外に出る。

 もう、興奮しきりの三首は今にも駆け出さんばかりなので、落ち着かせるのが大変だ!

「あ、山羊さんも外に出してあげないと」

と呟くと、近くにいた近衛騎士妖精の白雪ちゃんが”後でわたし達がやっておく!”と身振り手振りをしてくれた。


 凄く助かります!


 ケルちゃんの横を歩きつつ、の敷地内を南に歩く。

 先ほど、妖精ちゃん達に頼まれたので、例の花壇は作成済みだ。

 既に、色とりどりの花が咲き誇っている。

 うん、とても綺麗だ。

 それを過ぎて、しばらく行くと畑になる。

 ワインパワー恐るべきというか、既にある程度出来ている。

 まあ、そこまで広いわけでは無く、四家族ぐらい分かな?

 種類は取りあえず、キャベツ、小麦、ジャガイモの三種だ。

 二ヶ月後ぐらいに、サツマイモ、人参も育てるらしい。

 因みに、小麦は本来、秋から作付けするらしいので、とりあえず、少し芽が出るぐらいまで植物育成魔法で成長させておいた。

 ……まあ、ズルっぽいけど、今年はあくまでお試しだからね。


 結界から出ると、ケルちゃんに乗せて貰う。

「取りあえず、家の周りをゆっくり走ろう!」

とケルちゃんに言うと、三首は「がう!」「ごう!」「ががう!」と吠えて――凄い勢いで駆けだした!


 ちょっとぉぉぉ!


 いや、ママに比べると遅いので、怖いとかは無いけど、これじゃあ、巡回にならないから!


「ゆっくり!

 ゆっくりだってば!」

とわたしが一生懸命、ケルちゃんの肩を叩いても、興奮しきりの彼女らは「が!」「がう!」「がが!」とか吠えつつ、速度を抑えてくれない。


 も~!


 森の中なのに、器用というか、木々の隙間を上手い具合、走り抜けていく。

 まあ、もう、しばらく好きにさせるか……。

 などと、遠い目をしていると、前方にお久しぶりのじゃくクマさんを発見する。

 突然現れた、高速に走るケルちゃんに驚いているのか、ポカンとした顔で固まっている。

 そんな、じゃくクマさんをセンちゃんが”邪魔”というように首を横に振って弾き飛ばした。

 軽々と吹っ飛ぶじゃくクマさんは、木に激突する。

 振り返って確認すると、へし折れた木の下敷きになってた。


 うわぁ~

 あ、どうせなら、お肉確保せねば!


「ケルちゃん、肉、肉!」

と言っても、「が!」「が!」「が!」としか返ってこず、弱クマさんからあっという間に離れていく。

 ちょっとぉぉぉ!


「いい加減、言うことを聞きなさい!」

 白いモクモクで三首を掴むと、首を上に反らすように持ち上げる。

「がう!?」「があ!?」「ぐが!?」

 突然のことに驚いたのか、バランスを崩し、地面を転がった。

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