ソリ遊びをしよう!2

 すると、いつの間にかイメルダちゃんの後ろにいたヴェロニカお母さんが、ビシっと右手を上げる。

「じゃあ、次はわたくしが乗るわ!」


 えぇ~

 娘の前に割り込んで、母親が乗るってどうなの?


 ただ、わたしがジト目を向けても、一切気にする事も無く、階段を降りてくる。

 因みに、ヴェロニカお母さんが羽織っているのは、手芸妖精のおばあちゃんが作ってくれたダウンコートだ。

 中の羽毛はクッション用に取っておいた魔鳥まちょうのものだったけど、綿花が手に入った事もあり、ヴェロニカお母さんのコートに使用する事にした。

 生地はわたし達のコートとお揃いの白で、よく似合っている。


 いや、そんな事は良いか。


 妹ちゃんだとわたしより小さいので前に座って貰えば良いけど、ヴェロニカお母さんだと大きいから視界が塞がれてしまう。

 なので、仕方が無くわたしの後ろに座って貰う事に。

 しっかり、腰に手を回して貰い、なおかつ、左手から出した白いモクモクで固定する。

 右手から出した白いモクモクで坂を登ると、ヴェロニカお母さんが後ろから「ドキドキするわぁ~」と興奮した声を上げつつ、ギュウギュウ抱きしめてくる。


 はいはい、分かったから落ち着いて!


 頂上に着いたので、白いモクモクを駆使して、中央の部分にソリを置く。

「じゃあ、行くよ」

と言うと、返事の代わりに一際強く抱きしめられた。


 いや、だからそういうのは主人公系男子にしてあげてってば。


 そんな事を思いつつ、滑り始める。

 後ろから声は聞こえてこない。

 ソリが雪の上を擦る音と風がぶつかる音のみだ。

 ヴェロニカお母さんが平気――って訳では無いのは、わたしを掴む力が弱まらないので分かる。


 ん~苦手なのかな?

 そしたら、この一回だけで終わった方が良いかな?


 そんな事を思っている内に、一番下まで到着する。

「大丈夫?」

と後ろに声をかける。

「ふふ――」と聞こえてきたと思ったら、「アハハハ!」と笑い声が大きくなった。

 いや、笑うのはともかく、それに併せてわたしを揺さぶるのは止めて。

「サリーちゃん、これ面白いわ!

 もう一回、お願い!」

 えぇ~

 まあいいけど。


 もう一回滑ったら、ヴェロニカお母さんはまたしても大笑いをした。

 ただ、今度はもう一回とは言わず、ソリから立ち上がるとイメルダちゃんに向かって「凄く面白いわよ! 乗せて貰いなさい!」と声をかけていた。


――


「温かい!」

とシャーロットちゃんが家の中に入る。

 あれから、結構な回数、滑ったからずいぶん長い間外にいたことになる。

 直ぐに温かいものを、と思ったらシルク婦人さんが用意してくれていた。


 流石である。


 ソリはイメルダちゃんにも好評だった。

 ただ、それ以上に、何故か妖精ちゃん達に好評で、イメルダちゃん、シャーロットちゃんが交互に乗り、その上に妖精ちゃん達が乗って滑る流れが出来てしまった。

 いや、近衛騎士妖精ちゃん達ならともかく、一般(?)の妖精ちゃん達が何人も、妹ちゃんの膝に乗るもんだから落っこちないように白いモクモクで支えてあげるのが地味に大変だった。

 ただまあ、喜んで貰えたなら何よりである。

 妹ちゃん達を着替えさせると、中央の部屋食堂に戻る。

 手を洗わせて、テーブルに座って貰うと、コップを運ぶシルク婦人さんを手伝う。


 中身はコーンスープだ。


 シルク婦人さんと試行錯誤して作ったもので、何日か持つってWeb小説に書いてあった気がしたから、作り置きしていた。

 これが残っているのだったら、朝ご飯時もこれを飲めば良かったか。

 まあ、ジュースも美味しかったから良いけど。

 そんなことを考えつつ、席に座り、一口飲む。

 温かい熱が、体に浸みるように広がる。

 うん、まろやかで美味しい。

 シャーロットちゃんが微笑みながら「温かいね」というので、「そうだね」とニッコリ返す。


 とはいえ、このコーンスープ、実は今ひとつ足りない気がするのだ。


 トウモロコシの芯を山羊乳でしっかり煮込む。

 その後、芯を取りだし、バターで炒めたトウモロコシの実を加える。

 白いモクモクで攪拌かくはんしたり、コシたりしたら完成だ。

 シルク婦人さんは満足してくれたんだけど……。

 う~ん、何かが足りないと思ってしまうんだよねぇ。


 因みに、足りないのはパセリでは無い。


 シルク婦人さんに何か足りないと言ったら、何故か、入れられてしまったが、間違いなく違う!

 違うと言ったのに、いらないと言ったのに、今飲んでいるのにも強制的に入れられた。


 解せぬ。


 そんなことを考えていると、一緒にコーンスープを飲んでいる妖精姫ちゃんが身振り手振りしてきた。


 え?

 何?

 お菓子?

 ああ、お留守番のお礼のことか……。


「……朝のジュースじゃ駄目なの?」

と言ったら、”駄目に決まってる!”と言うようにプンプン怒るジェスチャーをする。


 可愛い。


「はいはい、分かりました。

 でも、初めて作るお菓子だから失敗するかもしれないんで、その時は、一旦、干しぶどうで我慢してね」

と立ち上がると、ヴェロニカお母さんが「頑張って!」と声援を寄越す。


 凄く、いらない声援だ。



 香ばし甘~い香りが中央の部屋食堂に満ちて、何というか、妖精ちゃんのテンションが大変なことになっている。

 いや、大半の妖精ちゃん達が勢揃いしている所悪いけど、今回は試しに作っただけだから、皆に配るほど量は無いよ?


 今作っているのは、パウンドケーキだ。


 小麦粉、卵、砂糖、バターで出来る、材料さえそろえば、比較的簡単に作れるケーキである。

 ……もっとも、異世界この世界ではこれだけの材料(特に砂糖)をそろえること自体、大変だと思う。

 だが、我が国ではその辺りは問題なし!

 さらに、先ほどジュースを作った時に残った果肉を混ぜ込むことで、林檎のパウンドケーキとしているのだ。

 匂いだけで言えば、凄く美味しそう。

 果たして、そのお味は……。

 木製のまな板、その上にパウンドケーキを乗せる。

 その周りにわらわらと小さい子らが集まってきたので「ちょっと、妖精ちゃん達、邪魔!」と追っ払いつつ、白いモクモク包丁でミミを切る。

 それをさらに半分にして、片方をシルク婦人さんに取るように促し、もう片方を持ち上げる。

 まだ、温かなケーキをパクリとする。


『美味しぃぃぃ~!』

 わぁおぉ~ん! と思わず声を上げてしまった。


 え?

 何これ?

 個人的には、女王様のケーキより好きなんだけど!?

 甘くて柔らかくて、最高なんだけど!


 シルク婦人さんも満足げに頷いている。


「だから、何でオオカミの遠吠えをするの!」

とか何とか言っているイメルダちゃん達に、「いいから食べてみて!」とカットしたのを皿に乗せ、渡してあげる。

 イメルダちゃん達に配り終えると、”残りは妖精ちゃん我らの!”と言うように、妖精ちゃん達がパウンドケーキを取り囲むので、致し方が無く渡してあげる。


 ……わたし、端っこのミミ、その半分しか食べてないけど、致し方が無く渡してあげる。


「サリーお姉さま!

 凄く美味しい!」

 シャーロットちゃんがニコニコしながら言ってくれる。

「素朴な形だけど、甘くて柔らかくて、わたくしは好きよ」

「本当に、美味しいわ!」

とイメルダちゃんやヴェロニカお母さんが賛同してくれる。

 妖精姫ちゃんも、小さなフォークで嬉しそうに頬張りながら、コクコクと頷いてくれる。


 良し、大成功だ!


 しかも、シャーロットちゃんが嬉しそうに「わぁおぉ~ん!」と言ってくれて、なんだかほっこりしてしまった。

 もちろん、その後でイメルダちゃんに「もう、サリーさん、変なことをするの止めて! シャーロットがマネするでしょう!」と怒られてしまった。


 とても可愛くて、良いと思うけどなぁ。

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