ソリ遊びをしよう!1

 ちょうど、パンも焼けたので、一旦、そちらの準備をする。

 終わった後、イメルダちゃんとわたしのボールを合わせて、左手から出した白いモクモクの中に入れる。

 シルク婦人さんに水差しを持ってきて貰うと、その上で、ぎゅっと搾る。

 オレンジ色の果汁が水差しの中に流れていく。

「わぁ~!」と様子を見ていたシャーロットちゃんが歓声を上げた。


 可愛い。


 イメルダちゃんも自分で行った結果だからか、いつもより嬉しそうにしている。


 こちらも可愛い。


 いや、そんな事を思っている場合じゃ無かった。

 白いモクモクをスプーン型にして、少し、毒味という名の味見をする。

 ふわりと甘い香りが漂い、口に入れると少し酸味はあるものの思ったより甘味かんみが強い。

 少し、砂糖を入れようかと思ったけど、ひょっとして、いらないかな?

 台所でシルク婦人さんにスプーンを二つ貰うと、妹ちゃん二人に味見をして貰う。

 ……いつの間にか、小さいスプーンを用意していた、妖精姫ちゃんにもお願いしようかな?

 え?

 あ、はいはい、シルク婦人さんにもお願いします。


 味見をした内、三人は異口同音、美味しいけどもう少し甘くしたい、との事だった。

 シルク婦人さんも「少しなら」と頷いた。

 なので、砂糖を少し足す。

 うん、これぐらいで良いかな?


 ジュースはとりあえず、これで良いとして、搾った果肉をボールに入れて、布巾をかぶせておく。

 妖精ちゃん達が欲しがったから、いくらか上げた。

 とはいえ、全部では無い。

 少々、考えている事があるので、取っておいたのだ。


 ふふふ、楽しみだ。


 林檎ジュースはなかなか好評だった。

 妖精姫ちゃんもニコニコしながら、小さいコップで飲んでいた。

 ヴェロニカお母さんも、娘の手作りって事もあるだろうか、嬉しそうに飲んでいた。

 林檎好きのシャーロットちゃんももちろん、イメルダちゃんも「美味しいわ」と表情を緩めながらコップを傾けていた。

 たまには、果物のジュースもありだと思った。


 朝ご飯を食べ終え、洗濯、乾燥を手早く済ませる。

 そして、妹ちゃん達とゴロゴロルームで洗濯物を畳んだ。

 二人とも、すっかり手慣れていてサクサク終えた。

 ヴェロニカお母さんがエリザベスちゃんを眺めつつ「お茶にする?」と訊ねてきたが、丁重にお断りをする。

 シャーロットちゃんとの約束を守るために、準備する必要があるのだ!


 外に出ようとしたら、シャーロットちゃんも付いてくる。

「外に出るから、中で待っていて」と言うも、何故か、不安そうにわたしのスカートを掴む。

 ん?

 どうしたんだろう?

「直ぐに戻ってくるよ?」というと、ようやく、「うん……」と手を離してくれた。


 一晩だけとはいえ、やっぱり不安だったのかな?


 イメルダちゃんが「大丈夫よ、わたくしと中で待っていましょう」と言うと「うん」とシャーロットちゃんは頷く。


 しばらくは、町に行かない方が良いかな?


 そんな事を考えつつ、外に出た。



 しばらく、作業を行った後、家に入る!

「準備できた!」

と中に声をかけると、お茶を飲んでいた皆が目を丸くする。

「何の準備?」

とイメルダちゃんが訊ねてきたけど、説明をするより見て貰った方が良い。


 イメルダちゃんとシャーロットちゃんを急かして、寝室に向かわせる。


 そして、わたしのお古で防寒し、外に出る。

「えぇ~

 サリーお姉さま、これなぁに!?」

とシャーロットちゃんが驚いてくれる。

「あの上からソリで滑って遊ぶんだよ」

とわたしが説明すると、イメルダちゃんが呆れたように「相変わらず、デタラメね」と苦笑した。


 わたし、そして、物作り妖精のおじいちゃんが家の正面、左奥に作ったのは、雪で作った滑り台である。


 高さは大体五メートルほどか。

 ソリで滑るように作られていて、結界の外に飛び出ないように、カーブするように出来ている。

 綺麗な雪を集めて出来ているので、真っ白に近いし、また、こだわりを見せた物作り妖精のおじいちゃんのお陰で、妙に豪奢な装飾がされている。


 さらに特徴を挙げるとしたら、所々にポールがある所か。


 これは妹ちゃん達にらくして楽しんで貰えるように設置したものだ。

「早速滑ろう」

 わたしは物作り妖精のおじいちゃんに作って貰った二人乗りのソリを手に、玄関から階段で降りる。

 ケルちゃんが散々歩き回ったからだろう。

 雪が踏み固まっている。

 ポールはここを妹ちゃん達に歩かせるのが不安だからこそでもある。

 わたしは階段を降りて直ぐの所にソリを置くと、おぼつかない足取りで階段を降りるシャーロットちゃんに手を貸して、ソリに乗せてあげる。

 シャーロットちゃんを守るように付いてきてくれている近衛騎士妖精のうしおちゃんもその膝の上に乗った。

 わたしは、シャーロットちゃんの後ろに乗る。


 準備オッケーだ!


 イメルダちゃんから「いや、なんでそんな所からソリに乗っているの?」と突っ込みが入ったけど、問題ない。

 わたしには白いモクモクがあるのだ!

 左手から出した白いモクモクを、滑り台の上、そこに刺さっているポールへと伸ばす。

 それをしっかり掴むと、白いモクモクを縮める。

 すると、わたし達はポールに向かって進むって寸法だ。

 滑り台手前まで進むと、坂になるのでソリが傾く。

「わぁ~!

 登ってる!」

とシャーロットちゃんは大喜びだ。

 後ろからは「デタラメにもほどがある!」というイメルダちゃんの叫び声が聞こえるけど、気にしない。

 ぐんぐん登って、滑り台の頂上に到着した。

 滑り台の頂上には両端にポールが設置されている。

 それと白いモクモクを上手く使い、中央の場所にソリを置く。

 わたしから見たら大したことの無い高さだけど、シャーロットちゃんからしたら結構な高さなのだろう。

 わたしの腕を握るシャーロットちゃんの手に力が入る。

「サリーお姉さま……。

 大丈夫?」

「大丈夫、しっかり掴まっていて」

「うん……」

 念のために、左手から出した白いモクモクでわたしとシャーロットちゃんをしっかり固定する。

「さあ、行くよ!」

 右手から出した白いモクモクを使い、ソリを前に出す。

 直ぐに、ソリの周りを薄く白いモクモクを展開させ、仮にソリのバランスが崩れ、転がっても妹ちゃんを守る体勢を作る。

「きゃぁぁぁ!」

 シャーロットちゃんの声を響かせながら、ソリは坂を滑っていった。



 ソリ滑りはシャーロットちゃんにも、ついでに近衛騎士妖精の潮ちゃんにも好評だった。

 一回ごとにイメルダちゃんと交代しようと思っていたけど、「サリーお姉さま、もう一回!」とせがむシャーロットちゃんと潮ちゃんに負け、三回ほど連続で滑ってしまった。

 流石に四回目は「次はイメルダちゃんね」と宥め、シャーロットちゃんを下ろした。

 残念そうにしたけど、叫びすぎて疲れたのもあったようで「凄く面白かった」と素直に言う事を聞いてくれた。

「じゃあ、イメルダちゃん」

と手招きをする。

 だけど、姉的妹ちゃんは、何故か階段を降りずに「あの、わたくしは良いわ」と言い出した。

「え?

 なんで?

 面白いよ」

「お姉さま、凄く楽しいよ?」

とわたしやシャーロットちゃんが言うけれど、もじもじしながら「そんなに大声が出てしまったら、はしたないし」って言う。


 えぇ~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る