巨大蜂さんの様子を見に行こう!

「じゃあ、行こうか」

 わたしが声をかけると、妖精姫ちゃんがこくりと頷く。

 黒くてモコモコしたコート姿で可愛い!

 先ほど、まったりお茶を飲みながら、皆で甘いものの話をしていたんだけど……。

 その時、蜂蜜の話になって、よく考えたら、巨大蜂さん達に冬ごもりに入ってから会ってないなと思いだした。

 砂糖を幾らか渡していたとはいえ、蜂蜜が足りない状態での冬ごもりだ。

 そうなると、少々心配である。

 その事を、妖精姫ちゃんに話した所、”だったら、一緒に見に行く?”とジェスチャーを返してくれたのだ。

「直ぐそこだから、大丈夫だと思うけど、気をつけてね」

「うん」

 イメルダちゃんの玄関からの見送りに手を振り、出発する。

 因みに、シャーロットちゃんはソリの疲労と美味しいパウンドケーキで御眠おねむになり、エリザベスちゃんと一緒にお昼寝中だ。

 ヴェロニカお母さんはゴロゴロルームでそれを見守っている。


 巨大蜂さんの巣に向かって、結界を出る。

 冬ごもり中は足を運ばない場所なので、積雪が多い。

 その上をスキー板で滑りつつ進む。

 妖精姫ちゃんとお供の近衛騎士妖精君達が身振り手振りで言う。


 え?

 パウンドケーキ、もっと食べたい?

 全然足りない?

 まあ、お試しって部分もあったしね。


 すると、妖精姫ちゃんが両手のひらを広げてこちらに向ける。

 それに同調するように、近衛騎士妖精君が二人、その横で両手のひらをこちらに向ける。


 え?

 なに?

 ……まさか、三十本作れって事!?

 無茶を言わないでよ!

 え?

 ママにも?

 ママの分を合わせても、その数はおかしいでしょう!


 そんなやり取りをしつつ、巨大蜂さんの巣に到着する。


 巣といっても、外観は小屋みたいだ。

 尖った屋根をしていて、大きさは我が家より大きい。

 妖精姫ちゃんはわたしに、身振り手振りでここで待っているように言うと、近衛騎士妖精君達と小屋の隙間から中に入っていった。

 ふむ。

 手持ち無沙汰になったので、左手から白いモクモクを出し、屋根の上に厚く積もった雪を払う。

 物作り妖精のおじいちゃん達が作った小屋だから雪の重さで潰れることは無いと思うけど、一応だ。

 そんな事をやっていると、屋根の隙間から、昆虫顔がこちらを覗いた。

 あれは――兵隊蜂さんだ。

 前足を振っている。


 中に入ってって事かな?

 白いモクモクで階段を作ると、そこまで上る。

 隙間は……。

 まあ、何とかは入れるぐらいかな?

 兵隊蜂さんが奥に行ったので、隙間に首を入れる。


 温かくて甘い空気が顔を撫でる。

 ……わ~お。


 妖精姫ちゃんが光る明かりが、中を照らしているんだけど……。

 女王蜂さんの周りに大量の働き蜂さんが寄り添っている。

 女王蜂さんは比較的、人間に近いけど、他の蜂さんは虫そのまんまだ。

 いや、そのまんまな上に、前世の蜂より十倍以上大きい。

 そんな彼らがカサカサと大量に集まり、しかもこちらを見ている姿は……。


 飾らず言うと、気持ち悪い。


 う~ん、前世のわたしだったら、卒倒してるかもしれない。

 まあ、今世のわたしは半野生児、だから、気にしないけどね。

 兵隊蜂さんに促されるまま、中に飛び込む。

 思ったより蜂蜜はあるようで、小屋の奥に黄金色の蜜が詰まった巣が見えた。

 まあ、それでも念のために、女王蜂さんに砂糖の入った壺を渡すと、嬉しそうに受け取ってくれた。


 って、妖精姫ちゃん!

 代わりに巣蜜すみつを貰ってどうするの!?


 窘めるわたしに、女王蜂さんはニッコリ微笑む。


 え?

 それぐらいなら大丈夫?

 まあ、今回渡した砂糖の十分の一ぐらい――せいぜい、わたしの拳、一つ分ぐらいだから良いのかもしれないけど……。

 妖精姫ちゃんはニコニコ嬉しそうにしている。


 もう、本当に仕方が無い姫ちゃんだ!



 家に帰ると、天井から何かの気配を感じる。

 視線を向けると、白くボヨボヨしたものが降ってきた。

 スライムのルルリンだった。

 まあ、毎度の事なので分かっていたけどね。

 ただ、降ってきた場所が、上を向けたわたしの顔面なのは新しかった。

 そんな、最新はいらないけど。


「もっごぉ~(ちょっとぉ~)

 もんもごごもごご!(顔面は止めて!)」

と非難の声を上げても気にせず、何やら、ボヨンボヨンと不満げに揺れている。


 もう、分かったから!


「だ、大丈夫なの?」

とイメルダちゃんの心配そうな声が聞こえてきたので、左手で剥がして「大丈夫」と答える。

 そして、ルルリンを目前まで持ち上げつつ、訊ねる。

「で、今度は何なの?」


 え?

 あ、家具ね。

 え?

 忘れてただろう?

 そそそんなこと無いよ。(動揺)


 急ぎ、妖精メイドのサクラちゃんに物作り妖精のおじいちゃんを呼んで貰う。


 なんだなんだ、と言うようにやってきた物作り妖精のおじいちゃん達に、スライムのルルリンは一方的にぽよぽよ揺れる。

 ひたすら、ぽよぽよ揺れる。


 いや、ルルリン……。

 何やら熱い情熱だけは伝わってくるけど、内容はさっぱりだよ?


 ただ、物作り妖精のおじいちゃんは流石は年の功(?)なのか、ふむふむと頷いている。

 やるな、おじいちゃん……。

 感心していると、物作り妖精のおじいちゃんがこちらを向く。

 そして、ジェスチャーをする。


 え?

 何を言ってるんだ、こいつ? って、何故、分からないのに頷くの!?


 仕方が無く、わたしが説明する事にする。


 途中、見て貰った方が早いかと、屋根裏に上ろうとするも、妖精メイドのウメちゃん達に断られる。

 ……うん、色々言いたくなったけど、まあ、しょうが無いよね。

 うん……。


 なので、わたし達の寝室に移動をすることに。


 寝室に着くと、ルルリンはわたしの肩から飛び降り、ポヨンポヨン跳ねる。


 え?

 ベッドは絶対必要?

 柔らかな布団に……。

 え?

 少し、窪んでいる方が良い?

 想像以上に、面倒くさそう!


 さらに、”これも、これも!”と言うように小柄なテーブルや洋服ダンスに向かってポヨポヨしている。


 ……。


 物作り妖精のおじいちゃんが”あいつにテーブルやタンスがいるのか?”とジェスチャーをしてきたので、”聞かれたら、むちゃくちゃ怒るから、黙って”と手振りで返す。

 そして、ルルリンに声をかけた。

「あれもこれも全部は無理だよ。

 今回は、三つぐらいにしてね」

 スライムのルルリンが”え!? なんでさ!”と言うように、上下にぽよんぽよんと伸び縮みをする。

 だけど、首を横に振った。

 付き合ってたら、キリが無いのだ。

「その代わりに、真っ白なウサギの毛皮をあげるから、それで我慢して」

とルルリンの白色ボディーを撫でる。

 初め、渋っていたルルリンだったけど、「これぐらいの大きさで、床に敷いたら綺麗だよ」と伝えると、致し方が無いと言うように、ぽよんと揺れた。


 これで良し!


 などと満足していると、物作り妖精のおじいちゃんが身振り手振りをする。


 え?

 わしらにも何か寄越せ?

 え?

 おじいちゃん達は何が欲しいの?

 飲み物?

 ん?

 お酒?

 ああ、ワインのことかぁ~


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