我が家に到着すると……。2

 大ウサギ君のお肉がお預けになり、残念がるシャーロットちゃんを宥めつつ、食料庫に向かう。

 入れて戻ると、中央の部屋食堂手前でイメルダちゃんが待ち構えていた。

 イメルダちゃんは中央の部屋食堂を気にしつつ、言う。

「サリーさん、ごめんなさい。

 サリーさんのお母様からの大切な寝具を汚してしまって」

 ん?

 ずいぶん、律儀だなぁ。

 さらに、イメルダちゃんがいうには、シルク婦人さんと一緒に洗おうと思ったけど、布団のシーツの大きさに対して、洗濯板のサイズや、そもそも洗い場が狭いなどの問題で上手くいかず、そのままになっているらしい。

 まあ、一応で買ってきた洗濯板だから、大体服が洗えれば良いぐらいのサイズだしね。

 そもそも、こんな真冬の中、手で洗うなんて、下手をしたら風邪を引いてしまう。

 だから、わたしを待ったのは正しい。

「大丈夫だよ。

 白いモクモクで洗えば、あっという間だし、凄く綺麗になるしね」

「でも、洗ったら中の毛が悪くなってしまわない?」

 ああ、確かに動物の毛だとそういうのもあるか。

「大丈夫!

 ママから貰った毛は、何十回も洗ってもくたびれたりしない、最高のものだから!」

 実際、ママの毛で編んだ服は、毎日洗ってもへたった事はない。

 体が大きくなった場合はともかく、古くなったからという理由で新調した事はない。

 流石、ママ! である。

「だから、気にしないで」と言ってあげると、ようやく安心したのか、イメルダちゃんは「それなら良かったわ」と微笑んでくれた。


 中央の部屋食堂に戻ると、テーブルの上にある席に座る妖精姫ちゃんに「留守の間、家や皆を守ってくれてありがとう」とお礼を言っていると、シャーロットちゃんがくっ付いてきたのでいつもの席に座りつつ、家での話を聞く。

 同じく、いつもの――わたしの隣の席に座ったシャーロットちゃんは少し考えた後「お母様とエリザベスと一緒に居たの」と言った。

 それなら、特に問題は無いかな?

と思いつつ「イメルダちゃんはどうだったの?」と話を振る。

 上の妹ちゃんもいつもの席に座りつつため息をついた。

「サリーさんがやっている通りの事をしようと思ったけど、上手くいかないって事がよく分かったわ」

「白いモクモクの事?」

「それ以外もよ」

「あら、イメルダは良くやっていたと思うけど?」

とヴェロニカお母さんも椅子に座りつつ言う。

 それに対して、イメルダちゃんは苦笑しつつ、首を横に振った。

「サリーさんはわたくしが想像しているよりも、ずっと凄いんだと実感しただけ、良い経験が出来たと思います」


 えぇ~?

 一体何があったの?


 でも、余り話したくなさそうなので、とりあえずはそのままに、ヴェロニカお母さんに視線を向けた。

「ヴェロニカお母さんは何してたの?」

「わたくしはいつも通りね。

 エリザベスの様子を見つつ、刺繍をしていたわ。

 後は、シャーロットとお話ししたり、お昼寝したりかしら」

「ふ~ん」

 確かに、いつも通りか。

 まあ、たった一晩でそうは変わった事なんて起きないよね。

「サリーちゃんはどうだったの?」

とヴェロニカお母さんから訊ねられる。

 妖精メイドのサクラちゃん達がお茶を入れてくれたので、皆とそれを飲みつつ、白大猿君討伐について話をした。

 主力の男性冒険者を引きつけている隙に、村を襲った白大猿君に対して、イメルダちゃんは凄く驚いた顔で言う。

「ずいぶん、賢いのね。

 聞く限り、かなり恐ろしい相手に思えるんだけど」

「まあ、確かにね。

 だけど、戦う力ははっきり言ってかなり弱いから、さほど脅威には感じなかったけどね」

「弱いの?」

「う~ん?

 もちろん、一般人での対処は難しいかもしれないけど、中堅冒険者なら倒す事が出来ると思うよ」

 小白鳥の皆も、不意打ちやだまし討ちが無ければ、十分戦えていたし。

 まあ、最も、それらを含めて対処してこそ何だろうけどね。


 わたしは、近くを飛んでいた近衛兵士妖精君を一瞥しつつ言う。

「わたしはもちろん、多分、一緒に付いてきてくれた白雪しらゆきちゃんの実力を見せても良い状況なら……。

 あの程度が数百匹いた所で、さほど時間をかけずに退治できたと思う」

 イメルダちゃんも近衛兵士妖精君を見つつ訊ねてくる。

「それ、白大猿が弱いのか、白雪ちゃんが強いのか、分からないんだけど」

「どっちもかな?

 近衛兵士妖精”君”も”ちゃん”も見た目は小さいけど、凄く強いからね」

「へ~」と感心したように声を上げるシャーロットちゃんの前に、近衛兵士妖精のうしおちゃんがすーっと飛んできて、ドヤっと胸を張る。

 その姿が可愛かったからか、シャーロットちゃんは「凄いねぇ~」と表情を緩めた。


 それを横目に、イメルダちゃんが訊ねてくる。


「ねえ、サリーさん。

 あの、サリーさんがいつも悪役妖精と呼んでいる人がいるじゃない。

 あの人も強いんじゃないの?」

「え?

 悪役妖精?」

 いや、そんな事、考えた事もなかったなぁ。

 偉そうだとは思ったけど。

 リンゴのドライフルーツをご満悦な表情で食べている、妖精姫ちゃんに視線を向けた。

「ねえねえ、姫ちゃん。

 悪役妖精って強いの?」

 妖精姫ちゃんは”ん?”という様に視線をこちらに向け、こくりと頷いた。


 強い?

 え?

 近衛兵士妖精君達より強い?

 あんなにへっぽこなのに?


 へっぽこの部分に苦笑しつつ、妖精姫ちゃんは強いとアピールしてくる。

 そうなると、やっぱりそこそこ強いのかな?


 ん?

 でも、なんで悪役妖精の話なんか出てきたんだろう?


「悪役妖精と何かあったの?」

「え?

 ううん、ちょっと気になっただけ」

「そうなの?」

「ええ」

 う~ん、答えるイメルダちゃん、なんか目が泳いでる気がするんだけど……。

 あの悪役妖精、何かやらかしたのかな?

 だったら、許してはおけないんだけど……。

 チラリと妖精姫ちゃんに視線を向ける。

 それに気づいた姫ちゃんは、問題ないと言うようにジェスチャーをしてくる。


 う~ん、大丈夫なのかな?

 まあ、少し、注意はしておこう。


 あと、床で寝転がって眠ったって話に、皆凄く驚いていた。

「寝台じゃなく、床で何て、よく眠れたわね」

とヴェロニカお母さんに何やら凄く感心されたし、イメルダちゃんには「サリーさんも、大変だったのね」と何やら同情するように見られてしまった。

 何だか、前世日本人としては、ちょっと嫌な反応だったので、少し反撃してみる。

「いや、ゴロゴロルームだって同じでしょう?」

「でも、あの部屋は大きな寝台なんでしょう?」

 イメルダちゃんにアッサリ返された。

 ま、まあ、ゴロゴロルームは床が柔らかく出来てるしね。

 分が悪いと感じて、話を進める。

「魔法のやり方を教えたり、気になった魔術を習ったりしてたの」

と言うと、イメルダちゃんが食いついてきた。

「サリーさんの魔法!?

 わたくしも使えるようになりたいわ!

 どのようにするの!?」

 だから、「シューッ、ぐわっ! と出す感じ!」とちゃんと説明したら、「そんなので、分かる訳ないでしょう!」と怒られてしまった。

 しかも、シャーロットちゃんに笑いながら「サリーお姉さま、変!」とか言われてしまった。


 えぇ~そんなに変かなぁ?


 あと、ヴェロニカお母さんなんて、両手で顔を押さえながら、テーブルに伏せつつプルプル震えていて、ちょっとムカついてしまった。


 笑うんだったら、声を上げて笑ってよ!

 もう!

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