我が家に到着すると……。1

 馬小屋からクワイエットを出すと、アーロンさんが馬装具を付ける。

 アーロンさんの荷物をわたしの籠に入れてそれを背負う。

 因みに、近衛兵士妖精の白雪ちゃんは透明になり、わたしの胸に収まっている。

 アーロンさんがあぶみに足をかけ、クワイエットに乗ると「ほれ」と手を差し伸べてきた。


 乗るのは簡単だけど、スマートに出来る自信がない。


 下手に揺らしてクワイエットが不快に思うのは避けたいなぁ。

 そこで、わたしは左手から白いモクモクを出すと、階段状にする。

 それを上って、アーロンさんの後ろにまたがると、おじいさん組合長に苦笑されてしまった。


 この乗り方が、一番穏便でしょう?


 アーロンさんの腰に掴まっていると、ライアンさんら冒険者や村人の何人かが、出発しようとするわたし達に気づき手を振ってくれたので、振り返す。

 クワイエットが静かに、進み始めた。


――


 我が家に到着!

 早く村を出たのに、結局、夕焼け色が薄らと闇色に染められている時間になってしまった。

 物事って、本当に思い通りに行かない!


 村から町までは特に問題なかった。


 クワイエットの乗り心地だってなかなか快適だったしね。

 それにアーロンさんが自慢するだけあり、スピードもなかなかのものだった。

 もちろん、ママ達や白狼君達には劣るけど、前に大麦を運んでくれた時のケルちゃんよりは早かった。

 雪の中でこの走力――ひょっとしたら、魔獣の血も薄らと混じっているのかな?

 なかなか、素晴らしかった。

 途中、アーロンさんが言うには、大ウサギ君と言うらしい、白くて巨大なウサギを見つけたので、二匹ほど狩る。

 出発時にも見つけて狩ったんだけど、昨日の夕食で食べた時、かなり美味しかったので、シャーロットちゃんのお土産にちょうど良いと思ったのだ。

 途中、少し休憩しながらだったけど、その他は特になく、町に到着した。


 だけど、町の中ではちょっとした事故が起きていた。


 なんでも、五人ほどで屋根から雪を下ろしている時に全員滑り落ち、さらに落ちてきた雪に埋もれてしまったとの事だった。

 大騒ぎになった所をわたし達が通りかかり――まあ、無視は出来ないでしょうという事で、アーロンさんと共に救助を手伝うことになった。

 埋もれてしまった人を掘り起こすのを手伝ったり、出てきた人を癒やしたり、白いモクモクで沸かせた湯で温めたりした。

 あと、ほかの屋根でも雪が落ちそうな所があったので、白いモクモクで落としてあげると、「うちの屋根も!」「うちもうちも!」って人が沢山増え、大変な目に遭ってしまった。


 これは、完全に、わたしが迂闊うかつだった。


 アーロンさんが「こんなことで魔力を使わせ、魔力欠乏になったらどうする! 以降は冒険者組合を通せ!」と一喝してくれたから、何とか抜けられたけど、その後、「むやみに白いモクモクそれを使うな!」とすごく怒られた。


 反省だ。


 そして、解体所に大ウサギ君を持って行き、一部の肉と毛皮以外の部位を売却する。

 肉が一部になったのは、まだまだ食糧不足の町の為に売って欲しいとお願いされたので、了承したのだ。

 毛皮は白くて綺麗だし、さわり心地が思いのほか良かったので、我が家に持って帰る事にする。

 といっても、籠に入らないのと毛皮のなめもお願いするために、解体所で預かって貰う。


 どこで使おうかな?

 楽しみだ!


 そこから、アーロンさんと冒険者組合に戻った後も、受付嬢のハルベラさんに怪我をした冒険者の治療をお願いされたりしたので、結局、遅くなってしまった。


 もっとも、定期的に連絡を取っているだろう、近衛兵士妖精の白雪ちゃんも問題ないとジェスチャーしているから、心配はしてないけどね。


 スキー板を外し、玄関、手前の扉を開ける。

 姿を現した、白雪しらゆきちゃんに、「二日間、ありがとうね」とお礼を言いつつ家の中に入る。

「ただいまぁ~」

と声をかけると、シャーロットちゃんが凄い勢いで走ってきて、わたしの腰に抱きついた。


 ん?

 何だ?


 いつも元気なケルちゃんも、妹ちゃんの様子が心配なのか、その後ろでオロオロしている。

「お帰り」

「お帰りなさい」

 ヴェロニカお母さんはいつも通りのニコニコ顔だ。

 ただ、イメルダちゃんは少し困った顔をしている。

 妖精姫ちゃんも飛んできたけど、こちらも困ったように微笑んでいた。


 何があったんだろう?


 わたしは何故か、少しほっとした顔をしている、妖精メイドのウメちゃんに籠を渡すと、妹ちゃんの小さな背中を撫でる。

「どうしたの? シャーロットちゃん」

 イメルダちゃんが代わりに答えてくれる。

「一晩とはいえ、サリーさんが居なくて、やっぱり寂しかったみたいなの」

「そうなんだ」

と頷きつつ、シャーロットちゃんに言う。

「ごめんね、シャーロットちゃん。

 でも、そのお陰で村の人は助かったんだよ。

 シャーロットちゃんが頑張ってくれたお陰だね」

「うん……」

「美味しいお肉も持ってきたから、シルク婦人さんに料理を沢山作って貰おう?」

「……うん!」

 顔を上げたシャーロットちゃん、まだまだ満開とまでは行かないまでも、ニッコリ笑ってくれた。

「ちょっと、着替えさせて」

とシャーロットちゃんに離れて貰い、一緒に寝室に向かおうとする。

 すると、イメルダちゃんが凄く言いずらそうにする。

「あの、サリーさん……。

 実は寝台なんだけど、シャーロットが夜に、その、”粗相”をしてしまって汚れているの」


 ?

 粗相?

 あ、おねしょの事か。


 シャーロットちゃんもまた表情を暗くさせながら「ごめんなさい」と言っている。

 わたしは極力、明るい声で答える。

「気にしないで。

 子供の頃は、仕方がない事だよ。

 わたしだって、小さい頃はおねしょしちゃってたし」

「サリーお姉さまも?」

「そうだよ」

 まあ、前世は覚えてないし、今世は赤ちゃんの時の、致し方がない状況だけだけど……。

 一応、嘘ではないかな?

「あ、でも、寒い時期は冷えて風邪を引いちゃうかもしれないから、極力、しないように対策をしようね。

 夜、寝る間際に飲み物を極力飲まなかったり、寝台に入る前に必ず、お手洗いに行っておいたりするだけでも、頻度は確実に減らす事が出来るからね」

「うん!

 そうする」

 素直に聞いてくれるシャーロットちゃん、凄く良い子!


 寝室に入ると、ベッドから布団が剥がされていた。


 それを横目に、服を着替える。

 うむ、夕飯を終えたら布団を洗わなくてはならない。

 寝室から出ると、シルク婦人さんに大ウサギ君の肉を見せる。

「食料庫に入れておく?」

と訊ねると、無表情ながらにも考え込んだシルク婦人さんは「明日に」と答えた。

 じゃあ、食料庫に入れて置こう。

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