戦いの後のお仕事色々
朝ご飯を食べ終えた後、
すると、組合の人と話をしている組合長のアーロンさんの姿が見えた。
「あ、組合長!
もう到着したんだ」
赤鷲の団団長のライアンさんが前に出て声をかけると、マッチョなおじいさんはわたし達の方を向くと頷いてみせる。
「着いたのは昨夜だ。
村長との話が長引いたからな、
わたし達は白大猿君達を倒して、後は町に持って帰るぐらいで終わりだけど、組合長としては今後の事も含めて、話し合わないと行けない事があるんだろうね。
アーロンさんは「引き続き、頼むぞ」と言いつつ組合の人と離れていった。
ライアンさんが振り返り、「サクサク終わらせて帰ろうぜ」と言い、全員、それぞれの言葉で同意した。
引き続き荷造りをする。
と言っても、昨日のうちに男性冒険者があらかた済ませたので、後は馬ソリに乗せるぐらいだ。
これも、がたいの良い男の人たちが率先してやってくれた。
女性陣、特にわたしだけど小物を運んだり、先導だったりを頼まれた。
余りにも軽い仕事しか回ってこないので「これでも、結構力持ちなんだよ?」とアピールしてみたけど、お兄さん方には温かい目で「分かってるから、ここは任せて」と言われてしまった。
解せぬ。
それが終わった後は、多くはないけど、白大猿君に家を壊されたりがあったので、その修繕や片付けの手伝いを、冒険者の皆で行った。
こういう所で手伝うと、冒険者としての心証が良くなると、赤鷲のライアンさんが言っていたので、下っ端冒険者ながらも頑張った。
白いモクモクで階段を作り高い位置の修理を手伝ったり、屋根の修理をしている人に下から道具を渡してあげたりした。
それらの作業も落ち着いてきて、女性冒険者達と休憩している時、赤鷲の団のアナさんに昨日、使っていた
実はこの魔術、発射された後も白大猿君に刺さったまま結構な時間、残っていたのだ。
戦闘が終わった後、砂になって崩れたけど……。
ひょっとしたら、白いモクモクと組み合わせる事で、面白くなりそうな予感がしているのだ。
だから、一生懸命、覚えようとしてたんだけど、小白鳥の団団長のヘルミさんに邪魔をされて辟易した。
なんでも、ヘルミさんとしては、魔術とは小難しい事をゴニョゴニョいっていてよく分からないから、使うべきじゃないとの事だった。
「サリーちゃんには
「もう、ヘルミさん、あっちに行って!」と言っても、しつこく絡んで来る。
一体何なの!
しかも、白大猿君から助けた女の子が友達を引き連れて強襲してきて、白いモクモクで持ち上げる様に
村のおばちゃんから「猿どもへの恐怖のため、子供達は皆、昨晩はよく眠れなかったみたいなの。良ければ相手をしてあげて」と言われたので、仕方がなく相手をする。
前世、学校の行事かなんかで行った遊園地――そこにあった乗り物の中に、地面から平行に回りつつも、時々上下に動く乗り物があった。
それを再現しようと、白いモクモクで両手一人ずつ掴み、くるくる回してみた。
子供達は喜んでいたけど――わたしは少々目を回してしまった。
子供達に何とか満足して貰い、「わたし達も」とか「俺たちも」とか訳の分からないことを言ってくる冒険者どもを追っ払い、アナさんから、
「サリー、お前はわしと先に帰るか?
今から出れば、昼を少し過ぎたぐらいには到着するぞ」
今はお昼前ぐらいだ。
「良いの?」と訊ねると「構わん、妹が心配なんだろう?」と頷いてくれた。
近くに居た赤鷲のライアンさんやヘルミさんも笑顔で「もう帰るだけだからな。こちらは大丈夫だ!」「妹ちゃんを安心させてあげて!」と言ってくれる。
「ありがとう!
じゃあ、先に帰らせて貰うね!」
と答えると、周りに居る皆が、微笑み頷いてくれた。
皆、優しい!
組合長のアーロンさんに連れられ、馬小屋に向かう。
周りに人が居ないのを確認してから、アーロンさんは言う。
「礼を言うのはこちらだ。
村やヘルミ達を守ってくれてありがとうな。
予想外の事で、お前に苦労をかけてしまった」
そうやって、真剣にお礼を言われると、ちょっと恥ずかしい。
「ヘルミさんの面倒くさい所のお陰で、村が守られたね」
と冗談っぽく言うと、アーロンさんは苦笑する。
「あくまでも、結果が良かっただけだ。
村のため、あいつらの身の為には最高の結果ではあるのだが、今後、また同じような状況になったらと思うと、少々、憂鬱だ」
「確かに」
今回の事が成功体験となり、次回も同じ事を強行しかねない。
予想できるのは、来年の白大猿君討伐か。
また、面倒くさいが発動して、また参加するってごねそうだ。
そして、それを押さえるのはやっぱり組合長たるアーロンさんって訳だ。
いや~終わった後の事まで、悩まなくてはならないなんて、ほんと、組合長は大変だ!
あ、わたしも国王として、そういう事を考えないと行けなくなるのかなぁ~
う~ん、我が国では、ヘルミさんみたいな人は、入国お断りの方向で!
そんな事を考えていると、馬小屋に到着する。
古びた感じの小屋で、中に入ると馬が三頭ほど並んでいた。
……一頭だけ、やたらとでかい。
焦げ茶色で毛が長いその馬は、前世競走馬に比べると、体は太くて足が短い。
なので、少々不格好にも見える。
だけど、その体に浮き上がる盛り上がりは厳つく、重ねられているのが筋肉のそれと分かる。
首も太く、顔も普通の
だが、そこにある目だけはどこか優しげで、わたし達を静かに迎えていた。
アーロンさんがその馬の元まで近づくと、その首を優しく撫でながら「こいつがわしの馬、”クワイエット”だ」と何やらどや顔をする。
「クワイエット?」
「そうだ!
東の国、ガラゴ王国に住む黒馬の血を受け継ぐから、雪の中も平然と駆ける事が出来るし、夏場になればまるで疾風のごとき速さで平原を駆け抜ける。
自慢の愛馬だ!」
……うん、自分の馬への暑苦しいまでの愛は伝わった。
焦げ茶の馬、クワイエットはただ静かに、己を自慢する主人を眺めている。
なんか、騒々しい夫を、静かに見守る妻って感じだな、このコンビは。
「この子、女の子?」と訊ねると「おお、そうだぞ。よく分かったな」とアーロンさんは大きく頷く。
うん、なるほどね。
「撫でて良い?」とお願いすると「そっとな」とアーロンさんは許可をくれる。
「少し触るね」
と嫌がる場所も分からないから、アーロンさんが触れていた場所と同じ所を撫でる。
馬は村までの道中に見てるけど、触れるのは初めてだ。
すべすべした毛が気持ちが良い。
「手の甲の匂いを嗅がせてやれ。
そうすれば、こいつは賢いから、お前の事も覚えてくれるぞ」
とアーロンさんが教えてくれるので、手を差し伸べてみる。
焦げ茶の馬、クワイエットはそれに鼻を近づける。
鼻息が少しかかってくすぐったい。
「町までよろしくね」
と言うと、クワイエットは”任せておきなさい”というように、知的な目を瞬かせながら、「ブルブル」と鳴いた。
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