猿君達との戦いの後
小白鳥の団団長のヘルミさんの「何もやってないのだから、
実際、白大猿君の巣に強襲しに行った男性冒険者達だったが、一度も戦闘をすることなく、戻ってきたとの事だった。
赤鷲の団団長のライアンさんが白大猿君を移動させながら言うには”姿は見えて、追いつきそうになるのに見失うという事を繰り返していた”との事だった。
「今思うと、陽動だったんだろうな」とライアンさんは悔しそうに言った。
多分、本来いなかったはずの
正直、面倒くさいヘルミさんのせいで駆り出される事となったわたしだったけど、結果だけ言えば、そのお陰で村が助かったともいえる。
わたしが”だからといって、振り回されたくないんだけど”と目で訴えると、小白鳥のクッカさんが”まあ、そうでしょうけど”と眉で答えた。
わたし達四人がしゃがみながら話をしているのを苦々しい顔で見下ろしながら、ヘルミさんが言う。
「あなた達が妙に仲が良いのは、この際良いとして……。
その、顔で語り合うの、どうにかならない?
端から見てると、かなり気持ち悪いんだけど……」
わたし達は顔を見合わせる。
そして、代表をしてわたしが言う。
「ヘルミさんが面倒くさい事をせず、”くっ付け”ば、やらないよ?」
「く、くっ付く!?
な、なんで、わたしが、パットなんかと!」
別に、くっ付くと言っただけだし、まして、パットさんとなんて、言ってないんだけどなぁ。
ただ、顔を赤めながら何やらギャアギャア言っているヘルミさんを眺めながら、わたし達四人は、ため息をつくのだった。
――
朝、起きた!
むくりと起き上がる。
今居るのは宿泊用に村から借りた小屋だ。
一応暖炉はあるけど、ベッドは無く、おのおの、着てきたコートなどを掛け布団代わりに床で雑魚寝をしている。
ん?
暖炉の火が少し弱くなってきたかな?
立ち上がると近づき、用意してあった薪を何本か入れる。
うん、これで良いかな?
白いモクモクを洗面台の形にして顔を洗う。
途中、アナさん達が眠そうな顔で起きてきたので、洗面台を使わせてあげた。
お湯も用意してあげるとヘルミさんに「サリーちゃんが便利すぎる!」と抱きつかれてしまった。
もう、そういうのは良いから、さっさと支度をして!
皆が顔を洗ったりしている隙に、わたしは籠に近づく。
中にはわたしの帽子が入っていて、その中に、近衛兵士妖精の
「白雪ちゃんおはよう」とそっと声をかけると、フェンリル帽子の中から白雪ちゃんの可愛らしい顔が現れた。
いつも被っている帽子も脇に置かれ、白くて長い髪をゆったりとしたサイドテール二している。
普段とは違う感じの白雪ちゃん、可愛い!
「家は問題なさそう?」
と訊ねると、白雪ちゃんはしばし目を閉じる。
そして、目を開けるとニッコリ笑いながら頷いて見せた。
問題ないって事ね。
「一応、こちらも問題ないって伝えてくれる?」
とお願いすると、再度目を閉じて、開けると”伝え終わった”と言うように頷いてくれる。
よし!
とりあえずは、安心かな。
あとは、こちらが順調に帰れればって感じだ。
「ドライフルーツ、食べて良いからね」
と白雪ちゃん用に分けていた袋を渡しつつ、わたし用の袋を取り出す。
そして、ニコニコ手を振る白雪ちゃんに「またね」と答えつつ、離れる。
ご飯は基本的に冒険者組合が用意してくれる。
大きな鍋で作ったシチューに大麦パンだ。
皆して小屋を出ると、「寒い寒い」と言いながら、昨日、避難所としていた建物(村長宅兼集会場との事)に移動する。
昨晩もそうだけど、中にある一室でご飯を食べるのだ。
人数的問題から椅子とかテーブルとか用意されてない。
わたし達女性陣が到着すると、既に男性陣の何人かが床で食事を始めていた。
「おはよう」とアナさんが手を振るのでそちらを見ると、赤鷲の二人がパットさんと共にパンを囓っている所だった。
冒険者組合の職員さんからそれぞれ受け取り、なんとなく、五人ともライアンさん達の側に座る。
……クッカさんの見事な誘導で、ヘルミさんはパットさんの隣に座っている。
ヘルミさんは凄く落ち着かない感じだけど、パットさんは静かに木製のスプーンでシチューを食べている。
ご飯を早々と食べ終えたわたしは、袋からスモモのドライフルーツを取り出し、口の中に放り込んだ。
うん、しっかり甘い中にほんのり酸味が有り、美味しい!
「食べる?」
と赤鷲の団のアナさんにわたし、皆に回すようにお願いする。
「美味しい!」
「ほんと、凄く美味い!」
などと、アナさんやクッカさんが嬉しそうに声を上げているのを横目に、赤鷲の団団長のライアンさんに訊ねる。
「ねえ、今日の予定はどうなってるの?」
「ん?
昨日に引き続き、荷造りだな。
あと、念のために何人かで村の周りに残党がいないか確認しなくてはならない。
その後、帰る予定だ」
「早く帰れたりする?」
「どうだろうなぁ。
いつも通り、夕方に町到着って感じじゃないか?
……なんか有るのか?」
「う~ん。
うちが気になるから、遅くならないように帰りたいかな」
「ああ、前にいた妹ちゃん?」
とヘルミさんが口を挟んでくる。
「うん。
一応、準備もしてきたし、見てくれている
ライアンさんが「遅くはならないだろう」と言ってくれたから、大丈夫かな?
そっから、昨日の戦闘の話になる。
「サリーちゃんの魔法は凄いんだから!
白大猿をがっちり押さえ込んでさ」
などと、何故かヘルミさんが自慢そうにする。
クッカさんが言う。
「魔法も凄かったけど、サリーちゃんが上から襲われた時、むちゃくちゃ焦ったんだけどさぁ~
軽くいなして、逆に殴り倒してたよね!
あれも凄かった!」
あぁ~あれは忘れて欲しかった!
拳を軽く当てただけなのに、白大猿君が弱すぎて、結局、起き上がれないまま、アナさんにトドメを刺されてたんだよね。
「護身用の技だから、威力は弱かったんだけど、上手く入ったの」
「護身用かぁ~
でも、拳闘の威力を上げる金属の入った手袋とかあるでしょう?
ああいうの使ったら、さらに強力になると思うんだけど……」
とクッカさんが続ける。
ああ、なんかWeb小説とかにも出てたなぁ。
ナックルダスターだっけ?
「でも、ママが武器は駄目だって」
「え?
そうなの?」
「うん。
自力じゃないからって」
「自力?」
赤鷲以外の皆が不思議そうに首をかしげる。
う~ん、変に続けるとボロが出そうだ。
「だから、魔法を頑張るように言われているの」
と無理矢理終わらせようとすると、ヘルミさんが「魔法は自力なの?」と訊ねてきた。
「まあ、体内魔力を使うからね」
厳密には確か違ったけど、白いモクモクに限って言えばその通りなので、まあ、そういうことにする。
「なるほど~」と言うヘルミさんは、少し期待した目でこちらを見る。
「ねえ、サリーちゃん。
わたしも魔法、使えないかな?」
「ヘルミさんが?」
「だって、凄く便利そうじゃない!」
まあ、便利だけど……。
「保有魔力量が多くないと無理だよ?」
と言いつつ、説明をする。
「体内にある魔力をシューッと集める事を意識して……」
「シューッっと?」
「うん。
そして、ぐわっ! と出す感じ!」
「ぐぅあっと!?」
「違う!
ぐわっ! っと!」
「ぐわっ!?」
「そう、シューッ! ぐわっ!」
「しゅー、ぐ、ぐぅわっ!?」
人が真剣に説明しているのに、何故か皆、吹き出し、笑い始めた。
ちょっと!
ママが説明してくれた中で、わたし達兄姉が一番理解しやすかったのを教えて上げたのに、笑うなんて酷いじゃない!
ただ、パットさんだけが真剣に「ぐぅわっ!」って手を伸ばした時だけは、シュールすぎてわたしも吹き出してしまった。
ヘルミさんなんて、もう、転がり床を叩きながら大笑いした。
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