突然起きた猿君との戦い2

 わたしは”モクモク”を続けつつ、呆れていると、白大猿君(リーダー)が鼻で笑うような表情をして、違う違うと右手を顔の前で振る。

 そして、アナさんとわたしを順に指さし、また腰を振り出す。

「こ、このう……」

 ヘルミさんが額に青筋を立てる。

 そして、白大猿君(リーダー)に向けて「この、猿野郎!」と駆けだした。


 白大猿君(リーダー)はにやりと口元を歪めると、駆けるヘルミさんの左側をすり抜けるように踏み込む。

「!?」

 その視線の先には、アナさんがいる。

 アナさん狙い!?

 小白鳥のクッカさん、リリヤさんが慌てて、かばう位置に立つ。

「舐めるな!」

 ヘルミさんが白大猿君(リーダー)の、その背後から斬り付けようとする。

 だが、白大猿君(リーダー)は突然、ヘルミさんを振り返り、飛びかかった。

「はぁ!?」

 訳が分からない――という表情のまま、ヘルミさんは押し倒される。

 そして、ヘルミさんの皮の胸当てが毟るように外された。

 白大猿君(リーダー)は「ウキャキャ」とか言いながら、舌なめずりをする。


 最初っから、ヘルミさん狙いって事ね。


「ヘルミ!」「団長!」と小白鳥のクッカさん、リリヤさんが駆けようとする。

 そうすると、本来守るべき、魔術師が無防備になる。

 リーダー以外の白大猿君、その目がギラリと光った。


 はいはい!

 お頭がよろしいようで!


「ウキャ!?」

 白大猿君(リーダー)が困惑するように声を上げる。

 他の白大猿君達も「ウキ!? ウキ!?」言っている。

 白大猿君(リーダー)の体には、わたしの右手から伸びた白いモクモクが纏わり付き、締め上げている。

 他の白大猿君の足には、わたしの左手から伸びた白いモクモクががっちり固定している。

 ふふふ、動こうとするまで、白いモクモクが絡みついている事すら気づかなかったと思う。


 実は、この白いモクモク縛りは、最初期から使う、わたしの得意技なのだ。


 おっかない魔獣とかを狩る場合にどうすれば良いかを必死に考え、編み出したオリジナルの魔法で、魔力を極力少なくして、存在を消した白いモクモク、それで対象を囲み、魔力を込めることで縛り上げる。

 これはママだって出来ない、超必殺技なのだ!


 ……いや、ママの場合、相手を縛るなんてする必要は無いだけだと思うけど。


 多数の場合は足だけになるが、一匹が相手の場合は、体中の動きを制限する事も出来る。

 流石に、白大ネズミ君達みたいに、大量だったり、常に駆け回っている相手には出来ないが、動きを止めている相手には結構有効的で有る!


「白いモクモク縛りで動きを止めたから、今のうちに倒して!」

 わたしが叫ぶと、驚き動きを止めていた小白鳥の皆とアナさんがはっとした顔になる。

「このくそ猿……。

 良くもやってくれたわね……」

 わたしが白いモクモクで締め上げている白大猿君(ボス)、その下から抜け出し、立ち上がるヘルミさんの目が剣呑に光る。

 そして、「ウキッ!?」と動けず顔を引きつらしている白大猿君(ボス)に向かって、ショートソードを構えた。


 うぁ!

 そんな、そんな所を!?

 ひぃ!

 グロい!


 R15指定ではとてもじゃないけどお見せできない凄惨な光景が眼前で行われている。

 半野生な生活をしてきたわたしだから大丈夫だけど、前世のわたしだったら吐くか失神している自信がある有様だ。


 わたしは白大猿君(ボス)とヘルミさんから視線を外し、呆れた顔で見守る小白鳥の二人やアナさんを急かす。

「余り長く捕らえていられないから、早くトドメを刺して!」

「あ、そうだよね!」

「これだけの数だし、当たり前だ!」

と小白鳥のクッカさんと小白鳥のリリヤさんが声を上げて、慌てて武器を握り直す。

 いや、別にこれぐらいの魔力なら一晩ぐらいそのままでも平気だろうけど、実力を低く見せるために急がせたのだ。

 アナさんも魔術を使おうとしたけど、クッカさんに「魔力は一応温存しておいて!」と止められていた。


 まあ、武器でとどめを刺せるのであれば、その方が良いよね。


 村の自衛団の人も加勢に来て、二百匹ほどの猿は、順調に数を減らしていく。

 無抵抗の猿を殺すのには――少々抵抗も無くは無いが、流石は異世界と言うべきか、全員、ヤラれる前にヤルって感じにサクサク、仕留めていく。


 ふむ。


 わたしは白大猿君(ボス)が仕留められた事により空いた右手から、再度、白いモクモクを出す。

 すると、顔に付いた返り血を布で拭いながら小白鳥の団団長のヘルミさんが笑顔で言った。

「それにしても、男達はざまは無いな。

 結局、猿狩りを女のわたし達や自衛団に全て持ってかれたんだからな」


 ん?


「まだ”全て”は終わってないよ?」

「え?」

 わたしは空を見上げる。


 薄く雲が広がるそこから、白い猿君達が振ってきた。


 全滅させたと油断した所に、別働隊が襲ってくる。

 まあ、お猿君としては頭を使ったんだろうけど、気配が消し切れていないんだよねぇ。

 この程度の戦闘力でこの程度の隠密力じゃあ、ママの洞窟付近ではとてもじゃないけど、生き残れないなぁ。


 とはいえ、ちょっと面倒くさいなぁ。


 わたしはなにやら両手を広げ、抱きついてきた猿君を右前に一歩踏み出す事で避ける。

 あ、マズい。

 地面に着地したその猿君の顎に、左の拳が当たる。

 危ない危ない!

 何とか力を抜いたので、ただ触れる程度で済んだ!


 下手をすると、頭を吹っ飛ばす所だったよ。


 さらに背後から、二匹ほど猿君が襲ってくる。

 それを躱して――その勢いのまま腰を回し後頭部にキック――正面から腕を振るわれ――上半身を反って避け、戻す勢いのままパンチをする。

 前世で見た魔法少女の台詞に「殴られそうなら躱して殴る! 殴る気配を感じたらその前に殴る! それが魔法少女!」というものがある。

 今世、「魔法少女とはいったい……」などと思いつつも、半野生なフェンリル一家の生活では、生きるためにそれを心がけていたんだけど……。


 そのために、反射的に反撃が出るようになってしまったのだ。


 動きを封じる魔法はともかく、反撃とはいえ、攻撃で目立つのは困るんだけど、癖を押さえるのは結構難しいなぁ。

 ま、力を入れてないからこれぐらい大丈夫だよね!

 ……なんか、白目剥いてピクピク痙攣しているけど、死んでないから大丈夫だよね!


 あ、いや、そんな事を考えてる場合じゃ無かった。


「な!

 まだ、こんなにいるの!?」

 アナさんがわたしの後ろに逃げ込みつつ叫ぶ。

 そう、上から白大猿君達がどんどん降ってきている。


 正確には屋根の上からだ。


 一斉に降りてきたら、右手の白いモクモクで一網打尽に出来たけど、降りる間隔が結構空いているから難しい。

 そうして、降りてくる猿君達は小白鳥の団や自衛団の人たちと乱戦になっている。

 皆が猿君達を引きつけているので、最初以外はこちらには向かってきていない。

 アナさん魔術師わたし魔法使いをフリーにするために奮闘してくれているのはありがたいけど、乱戦過ぎて魔術も魔法も使うのはちょっと難しい。

 それでも、上手い具合に一匹ずつ魔術を当てているのだから、やっぱり、アナさんは優秀な魔術師なんだろう。

 もちろん、わたしだってサボっているわけでは無い。

 白大猿君(先行隊)を押さえ込んでいる左手の白いモクモクを振ったり前後させたりしながら、味方のフォローを行っていた。


 ……なんだかちょっと、面倒くさいな。

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